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ダンジョン田園都市計画

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「ヒッ……ヒィ……ッ」

「雪なんか回収するからそうなるんだよ」

「これは絶対、収の……じゃない魔力を鍛えられる気がする……ヒィヒィ。アベルもやってみるといいよ」

「やだよ! 肝心な時に魔力切れを起こしたら意味ないでしょ!!」


 雪を収納しながら進めば楽だし、ついでに収納スキルと魔力が伸びるかもしれない。

 なんてことを思いついて試してみたら、すぐに収納はいっぱいになるし、収納がいっぱいになって更に入れようとすると魔力をごっそり消費するで、繰り返しているうちに魔力切れを起こしてしまった。

 くそぉ、こんなことで魔力回復ポーションを使うのはなんかくやしい。

 しかし十階層まではまだしばらくある。魔力を使いすぎてクラクラするし、この状態で雪原進行はしんどいぞおお?

 楽をするつもりが逆につらくなってしまった。


「グランのおもしろ収納……おっと、おもしろマジックバッグにも上限があるのか、それでもたいした量だよなぁ。ハハハ、出し入れしすぎて息が上がってるぞぉ?」

 あっ! しまった!! ドリーとアベル以外には収納のことは内緒だったんだ。

 魔力が枯渇気味になってヒィヒィ言っていると、カリュオンの脳天気な声が聞こえた。

 やばい、これはバレた? リヴィダスとシルエットは勘がいいから気付いていそうだけれど、脳ミソ筋肉なカリュオンにまで勘付かれていそうだ。

 まぁ、冒険者の中でも最も親しい奴らだし、バレたからといって悪用したり言いふらしたりするタイプでもないから気にしないことにしよう。

「鍛錬に余念がないのは良いことだが、安全でない場所ではほどほどにしておかないと、もしもの時の対処に困るぞ」

「お、おう。ちょっと調子に乗りすぎたよ。ここから先は普通に進むことにするよ」

 ポータブル雪崩一回分くらい残して、もう雪を出したり入れたりするのはやめよう。


「雪を回収するのやめちゃうの? 残念ねぇ……」

「マナハイポーションをあげるから、もうちょっと頑張ってもいいのよ?」

 などと残念がったり、魔力を回復するポーションを押しつけようとしたりしているのは、シルエットとリヴィダス。

 雪の下の地面には虎耳草という薬草が時折生えており、二人の目的はそれだ。

 虎耳草は毒消しのハイポーションになる薬草だが、それと同時に皮膚を整える効果があり化粧水の材料にもなる薬草である。

 最初のうちは俺も喜んで採取していたのだけれど、さすがに魔力が枯渇してしまい今はそれどころではない。

 もう収納雪かきは閉店したいのだが、二人から笑顔の圧がくる。無理、つらい、許して!


 え? リヴィダス? マナハイポーションを無理矢理渡さないで!?

 魔力アップ系の強化魔法とかかけないで!? それ魔法使い様用の強化魔法だよね!?

 え? 魔力の自然回復速度も上昇する強化魔法? さっすが、有能ヒーラー。

 って、やっぱ収納式雪かきを続けるんですかああああああ!?!?



 俺が雪を収納する。

 シルエットとリヴィダスが虎耳草をひたすら採取する。

 時々雪の中に魔物が埋まっていて飛び出してくるやつはドリー、カリュオン、アベルのゴリラ三人衆が倒す。

 たまに宝箱も埋まっているのは何だか楽しい。まぁ、その宝箱を開けるのは俺なんだけどね。

 俺、働き過ぎでは? いつものやることがなくて、コソコソとやる回収作業をしているのが恋しくなってくる。

 でもこの感じ、すごく魔力と収納の容量増えそうな気がする。











「は……ヒ……ッ」

 極寒の銀世界を抜け、やや乾燥した爽やかな風と少し強い日差しの十階層に入った直後、思わず地面に転がった。

 結局、女性二人の圧と、雪の中から出てくる宝箱に目が眩んだアベル、飛び出してくる魔物と遊びたいカリュオンとドリーに煽てられながら出口まで収納除雪作業をやってしまった。

 なんだかものすごく鍛えられた気がする。そして疲れた。


「グラン、転がってないで防寒具を脱いじゃいなよ。いつまでも寒冷地用の装備だと暑いでしょ?」

 うん、暑い。すごく暑い。


 十階層は田園地帯。

 夏ほどは強くないが鋭さのある日差しと、吹き抜ける少し冷たさのある乾いた風が心地いい。

 九階層から十階層に出た場所はなだらか小高い丘の上。

 そして丘の下に広がるのは黄金の波がさざめくようにも見える大地――広がっているのは収穫時の穀物畑。

 まるで人の手の入った耕作地帯に見えるが、これもダンジョンが作り出したものである。


「資料で予習はしてたけど、これはすごいな。ここに引き籠もってたら、一生パン屋ができそう」

 体を起こしながら見た光景に思わず口から出た感想だが、もちろんダンジョンで一生パン屋なんてやらない。

 だが、そう思いたくなるほどに圧倒的な田園風景が広がっている。

 確か麦系が多いと資料にはあったな。米らしき記載はなかったので、それは少し残念だ。


「うむ、ここまでの道中がもう少し難度が低ければ、採取専門の人材を多く呼び込んで農産物の産出を増やせるのだがな」

 田園風景を見下ろしながらドリーが難しい顔で顎をさすっている。その表情はいつもの脳筋冒険者ではなく、貴族の表情である。

 忘れがちだけれどドリーも貴族なんだよなぁ。

 この食材ダンジョンのある領地――オルタ辺境伯領の領主の弟である。


 そら、自分の家門が管理する領地にあるダンジョンに、これだけ大規模で収穫しやすそうな田園が広がっていたら活用したいよなぁ。

 ダンジョンだから普通の畑よりはやいサイクルで収穫もできるはずだし、この規模だとオルタ辺境伯だけではなく周辺地域の食糧事情も大きく変わってきそうだ。

 農業や採取専門の人材を連れ込むことができれば、この階層は大きな利益が出そうだ。

 しかし、農業従事者や採取専門の冒険者でAランクレベルの戦闘能力を持っている者は少ない。そもそもAランクの冒険者が少ない。

 ここまでの道中、Aランクパーティーの俺達で苦戦や危なかった場面もあり、のんびり進行だったがここに辿り付くまで時間もかかった。

 Aランク限定となる五階層以降は、ランクの制限が厳しいだけあって高ランクの冒険者の補助があったとしても、低いランクの収集専門の冒険者が活動するのは危険が多すぎる場所だ。


 とくに七階層から九階層。

 うっかり巻き込まれるとやばいフェニクック大トレイン、のんびりとしているが本来は好戦的なサラマンダー。レッドドレイクはセーフティーエリア周辺でも遭遇する可能性はあるし、俺達の時のように突然山頂からレッサーレッドドラゴンが出張してくる危険もある。

 さらっと通り抜けたが八階層の荒野も暑い環境での活動は厳しく、油断すれば魔物に襲われなくても命を落としてしまう。

 そういえば持ち込んだリオート草の冷たい飲み物の素は非常に役にたった。暑い場所では水分だけではなく塩分と糖分の補給も重要である。

 そして、今のところ俺的には一番つらかった九階層雪原。収納除雪をやらなかったとしても、ここまでで一番つらい階層だったと思う。

 極寒の地での活動に慣れていない者なら、魔物に遭遇しなくともその環境だけで長時間の生存は厳しいだろう。

 寒いだけではない、吹雪で視界も悪くメインルートに沿って進んでいても、道が埋まってしまえば簡単に遭難してしまう。

 生半可な者では抜けるのが厳しいエリアだ。

 この三つのエリア以外にもその前の洞窟エリアには寄生キノコもいたし、油断すればキノコに体を乗っ取られてしまう。

 やはりAランク限定エリア、恐ろしい階層ばかりだ。


 しかし、ここまで来ることができるAランクの冒険者なら、ここまで来て農作業なんかをするより魔物を狩る方が圧倒的に儲けは良い。

 ここまで来ることができる人材が、ここに留まって活動するタイプの人材ではないのだ。

 この階層は比較的安全な階層だが、ランクの高い魔物の出現の報告もあるため、それに対処ができない者にとっては危険なのだ。

 そして人が増えればトラブルも発生しやすくなる。

 採取専門が多い低ランクの冒険者を呼び込んで、収穫物の産出を増やしたいところなのだろうが、簡単には解決できない問題も多そうだなぁ。


「入り口からこのエリアまで直通で来られる転移魔法陣を設置して、この階層だけ低ランクでも入れるようにするって考えてるんだっけ?」

「ああ、だが中から外より外から中の方が技術的にも難しいうえに費用もかかる。それにランクの低い者が多く入れば細かいトラブルが増える。いずれは導入されると思うがまだ先の話だな」

「このエリアだけじゃなく他のエリアのものも、このエリアを拠点にして外部への持ち出しが楽になると、この辺りの食糧事情がいっきに変わりそうだねぇ」

「うむ、いずれこの辺りに冒険者ギルドの出張所を設けて、外部への素材のスムーズな持ち出しと、外部からの物資補給を行えるようにする予定だ。最終的にはここのセーフティーエリアをダンジョン内の宿場町にする予定だがまだまだ先の話だな」

 何それすごい。

 こんなとこに町を作ったら、延々籠もれそう。

 アベルとドリーが貴族の表情でしている会話は、難しいことはよくわからない俺にはとても夢がある話に聞こえる。

 ダンジョン内はものの劣化が激しそうだから、維持の労力も費用も大変そうだが、この広大な穀倉地帯を見るとそれくらいやっても利益になることは俺にも想像できる。


 十階層は強い魔物が少ない耕作地帯ということだったので、少し採取するくらいのつもりだったが、いざ目の前にしてみるとじっくり見てみたい欲が出てきてしまった。

 あとで、少しだけ散歩してみようかな。

 あ……、今日のマンモス君の解体……。



お読みいただき、ありがとうございました。

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