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竜の棲み処

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「さすがに火山には生えてないなぁ」

「ああ、ドラゴンフロウとリュウノアカネね」

「うん。道中に生えてなかったのは火山灰のせいかなぁって思ったけど、巣にも生えてなさそうだなぁ」

「そうね、ある程度植物が育つ環境じゃないと育たないと思うわ」

「うーん、残念」

 ドラゴンフロウとリュウノアカネが生えていたら回収したのになぁ。


 キョロキョロとしながらレッサーレッドドラゴン君の巣の中を奥へと進んでいると、シルエットは俺が考えていることを察してくれた。

 だよねー、薬草を弄る者ならドラゴンの棲息域に来たらつい探しちゃうよねー。


「あら、でも洞窟に住んでいるタイプのドラゴンならアレがあるかもしれないわよ。ほら蒸し暑いけど地下水が漏れてるみたいだから、壁は良い感じにしめってるわ。壁をよく見てごらんなさい」

「ホントだ、壁から水が漏れてる。これはあるかもしれないな」

「でっしょー!? 来られる人も限られてそうだし、これは大きく育ったのがあると思うわ」

「寝床に近くなると生えていそうだな!」


 ドラゴンフロウもリュウノアカネもなさそうだけれど、それ以外にも竜の住み処付近に棲息するものはある。

 シルエットに言われて思い出したのが、竜種や亜竜種の巣――閉鎖的な形をした巣限定で生えるキノコだ。

 閉鎖的な場所、つまり洞窟のような場所だ。

 竜の魔力によって育つキノコのため、岩しかない洞窟内でも湿気があれば育つのだ。

「二人しかわからない話で盛り上がってないで宝箱ー!!」

 レア素材にテンションを上げていたら、拗ねたようなアベルの声がした。

 やっべ、本来の目的を忘れるところだった。

 でも、その前に……。


「わりぃ、ちょっとだけ待ってくれ! シルエットあったぞ!! リュウノコシカケ!!」

「こっちにもあったわよ!!」

 稀少調合素材ゲットーーーー!!

 壁と同化するように生えている手のひらほどの半円形の物体を毟り取って、見せつけるようにアベルの方へ差し出した。

「え? リュウノコシカケ!? どこどこ!? これ? 壁と同じ色でいわれないと気付かなかったよ。リュウノコシカケってこんな風に生えてるんだ。前に来た時は誰も気付かなくてスルーしちゃったかも」

 俺達が気にしていたのがリュウノコシカケとわかった途端アベルの態度がコロッと変わった。


 それもそのはず、リュウノコシカケは効果の高い魔力回復ポーションになり、副効果で一時的に大幅な魔力上昇効果が付くこともある魔法使いの切り札にもなり得るポーションの材料なのだ。

 まぁ、俺は使うことがないポーションだし、俺の薬調合スキルだとまだ上手く加工できる気がしないけど。

 しかしポーションにしなくても、煎じてお茶にして飲み続けると潜在的な魔力を増やす効果があると言われており、魔法職以外にも欲しがる者は多い。

 売るといい値段だし、俺もいつかはポーションにしてみたいので根こそぎ持って帰る。

 ここはダンジョン。自然の生態系ではないので根こそぎ持って帰っても許される場所。


 さすが普通なら立ち入るのが困難な場所。

 長い間訪れる冒険者はいなかったようで、立派に成長したリュウノコシカケがたくさん生えていた。

 ドリーとリヴィダスには少し休憩をしてもらって、それ以外のメンバーでせっせとキノコ狩りだ。


 リュウノコシカケは壁に張り付くように生える平たい傘のキノコで、手のひらほどの大きさから、傘の上に人が乗れるほどの大きさのものまで。

 少しゴツゴツしていて壁に張り付くように生えるため、暗い洞窟内だと岩と同化して見えて見過ごしやすい。

 自力採取する場面が滅多にないもののため、俺もシルエットに言われなければ見落としていたかもしれない。

 俺は見たことはないが、ランクの高い竜種の巣で年月をかけて育ったものの中には、その名の通り巨大な竜が座ることができるほどの大きさのものもあるという。


 ここに生えているものは手のひらサイズかそれ以下のものが多く、時々人の頭ほどのものがあった。

 入り口付近では疎らだったが、巣を奥に行くにつれ少しずつ数が増え、大きさも大きいものが増えた。

 俺達がリュウノコシカケを採取している間、不器用組のドリーとリヴィダスは巣の奥の確認へ行ってもらった。

 生き物の気配はないが念のためだ。

 それから、でっかいリュウノコシカケを見つけても絶対に触らないように念を押しておいた。

 うむ、高級素材は大事に扱わなければならない。


「これだけあればリュウノコシカケのポーションをガブ飲みできるし、お茶にして毎日飲んでもしばらく保つわね。でももっともっと欲しいわね」

「あー、ポーションにして戦闘中の瞬間的な魔力上昇も欲しいけど、お茶として飲み続けて根本的な魔力量も増やしたいー。ここにあるだけじゃ全然たりないよー」

 なんだこの底なし魔力の魔法使いども!?

 これ以上魔力を増やして世界でも滅ぼすつもりか!?

「魔力が増えたら収納の容量も増えるか。俺もたくさん欲しいな」

 そういう俺も魔力はいくらでも欲しい。リュウノコシカケ茶を飲み続けて魔力を増やして収納の容量を増やしたい。

「え? それ以上増やしてどうするの? ただでさえ整理しないで溜め込んでるのに、更に整理しなくなるだけじゃん」

 アベルは相変わらず失礼だな。収納を広くしたいのはお前らが無計画に大物をどんどん持って来るからだ。

「俺も魔力が上がるともっと強い攻撃に耐えられるようになるから、リュウノコシカケは欲しいな。やっぱ魔力って重要だよねー、金と一緒で無限にほしくなる」

 バケツはこれ以上硬くなって何を目指しているのだ。アダマンタイトエルフにでもなるつもりか!?

 しかしカリュオンの言う通り魔力と金は無限に欲しい。ついでに素材も無限に欲しい。収納の容量も無限に欲しい。

 無限は無理でも少しでも多く欲しいのでやはりリュウノコシカケは根こそぎ持って帰らないとな。






「グラン、そろそろそっちは終わったかー?」

「おう、だいたい終わるぞー」

 壁に生えているリュウノコシカケを四人で手分けして蹂躙するように採取しながら、巣の方へと移動すると奥の行き止まりでドリーとリヴィダスが退屈そうに待っていた。

 すまない、ちょっと高級素材に夢中だったんだ。

 残念ながらドラゴンが座れそうなサイズのものはなかったが、手のひらサイズのものはたくさん採取できた。


 最奥で退屈そうに待っている二人の間に小さめの宝箱と、それより少し大きな宝箱があるのが見えた。

 ん? ドリーの髪の毛が少し焦げている気がするけれど気のせいか?

「宝箱はこの二つだけみたいだ。小さい方なら難しくない罠ではないかと思って解除できるところまでやったのだが、どうにもここから先が開かなくてな。殴ってみたけど何か封印がかかっているようで炎が吹き出してきて傷一つ付かなかった」

 宝箱の大きさと罠の難易度は関係ないと思うぞ!!

 髪が焦げているのはゴリラ式罠解除の結果か、ていうか宝箱を無闇に殴るな!!

「おう、じゃあドリーがやりかけてる小さい方から開けるよ。火属性の硬い封印だなぁ、レッサーレッドドラゴンの住み処だからかな」

 宝箱にかかっているのは火属性の封印で、かなり強力な封印のようだ。

 その気になれば箱を分解という手もあるのだが、ダンジョンの宝箱は手順を踏まずに開けると何が起こるかわからないからな。それは分解スキルでも同じだ。


「その宝箱、火属性の封印がかけられてるけど俺の究理眼も弾かれた。ここの宝箱は調査で来た時にも、火属性の封印がかかっていて究理眼が弾かれる宝箱があったんだよね。その時はドラゴンブラッドが入ってたかな? 今回も高級品が入ってるといいな」

 ドラゴンブラッドとはランクの高い竜種の血液が魔力の影響で結晶化してできる非常に珍しい宝石で、竜種の血液からできているため宝石だけではなく調合素材としての価値も高い。

 見た目は血のように鮮やかな赤で美しく、更に純度の高い竜の魔力を含んでおり、質の高いものなら小さいの一つだけでも俺の家が買えてしまう以上の値段だ。

 そんな高級品が出てくるとは限らないけれど、やっぱ宝箱は夢があってワクワクするなー。

 さぁ、封印の付与を消して宝箱ちゃんを開けるかー。


 宝箱の罠はからくり系もあるのが、高ランクのダンジョンで出るえげつない罠の宝箱は、付与による罠がほとんどだ。

 宝箱から魔物が出てくるのもそのせいである。空間魔法で魔物を宝箱に封印してあるのだ。

 毒や炎や爆発、呪いの類はそういう付与が、槍などの大きめの飛び道具が飛んでくるものは空間魔法が付与されており、発動するための魔力がなくなれば発動しなくなる。

 殴って罠を全部発動させて解除は間違っているけれど、ある意味間違っていない解除である。

 箱をよく観察すればその仕掛けが見抜けるので、その付与の部分を消してしまえば罠は解除できる。

 ダンジョンが生み出す宝箱のくせに付与とは生意気な。まぁ、ダンジョンのやることだから深く考えない。


 あんれ? これ神代語じゃん。


 目の前の宝箱の留め具部分にはパッと見、模様に見える文字――三姉妹に教えてもらった文字が並んでいた。

「火、竜、王、……えっと、読めない、アベルパス。ここ神代文字があるの読める?」

 留め具に並ぶ小さな神代文字は俺が知らない文字も混ざっていて全ては読めない。付与には関係ない部分だが、なんだか気になる。

 三姉妹と難しい話をしていたアベルならよめるかもしれない。


「え? 神代文字? ホントだ。小さい文字だし、知らないと模様に見えて見落としちゃいそう。えっと、火竜王の魔力を捧げよ、その先に道を拓かん。ええ……火竜王ってシュペルノーヴァの二つ名じゃん。シュペルノーヴァの魔力で箱が開いて道ができること?」

 えー、シュペルノーヴァをここまで連れて来いってこと? なんじゃそりゃ!? 無理だろ!?

「開けるだけなら、ここの封印の文字を消したら開くと思うけど? 道ってなんだろう? 無理に開けたら道は拓かれないってことか? シュペルノーヴァの魔力で開けたら、新しいルートでも出てくるってことなのか? でもシュペルノーヴァなんてどうやって連れて来いっていうんだ」

 正しい手順で開けたら中身が変わる系か? 時々あるんだよなぁ、そういう宝箱。

 前にドラゴンブラッドが出たって言うのは、正しい開け方をしなかったからか?

 どちらにせよシュペルノーヴァを連れてくるのは無理な注文なので普通に開けるしかないな。

 それでもドラゴンブラッド級の高級品が出てくるなら十分儲けものだ。


「待って、これシュペルノーヴァの魔力とは書いてあるけど、シュペルノーヴァとは書いてないから、ルチャルトラ行った時に採取したシュペルノーヴァの魔力に影響を受けた薬草じゃダメかな? たくさん採取したよね?」

 諦めて普通に箱を開ける方向に考えが傾きかけた時、アベルの言葉でそのことに気付かされたのだが……。

「……全部ポーションにしちゃった」

 来る前に薬調合のスキル上げも兼ねて全部使ってしまったんだよおおおおおお!!

 くっそー、こんなことなら少しくらい残しておけばよかった。

 メンバーで誰かシュペルノーヴァに縁のあるもの持っていないかな。

 チラッとメンバーの顔を見たらそろって首を横に振られた。

 ルチャルトラで手に入れた素材なら多少なりともシュペルノーヴァの魔力の影響を受けていそうだから、それでいけないかなぁ。

 ジャングルの奥のほうで倒した魔物なら――あっ!


「グラン、あれは? あの白い蛇!!」

「そう、俺も今アレを思い出してた!!」

 ルチャルトラで仕留めたルチャドーラの変異種。

 シュペルノーヴァの巣の近くに棲息し、その魔力に影響を受けたと思われる突然変異の個体。

 倒してからアベルと素材を分配して、そのまま収納に入れっぱなしだった。


「一番影響を受けてそうな部位って、やっぱ魔力に直接触れている皮だよね。まだ売らずに残してるよ」

「俺も残してる。もったいない気もするけど仕方ないな」

 大きなヘビだったし全部使わずにすむことを祈ろう。

 体から剥がした後に装備品に使いやすい大きさに切ったルチャドーラの皮を、バサリと宝箱の上に置いてみた。

 変異ルチャドーラの白い皮がほんのりと赤い魔力の光を帯びた後、その光は宝箱に吸い込まれるように消え、白かった皮は灰色に変色し、摘まみ上げるとバラバラと崩れ去った。

「次は俺が置くね」

 アベルが出してきた皮を宝箱の上に置くと、俺の時と同じようにほんのりと赤く光り、灰色になってバラバラと崩れていった。

 宝箱がシュペルノーヴァの魔力を吸収しているのだろうか?

 同じようにアベルと交互に変異ルチャドーラの皮を宝箱の上に置き続け、それぞれ首一本分の皮を置いたところで宝箱の金具がカチリと音を立てた。


「開いたかな?」

「もしかして調査の時はこの開け方を見落としていたのかも。それでドラゴンブラッドかー、正しい手順で開けたら何がはいってるのかな。でも新しい道――新しいルートやエリアだと報告に帰らないといけなくなりそうだね」

 手順を踏まず開けてドラゴンブラッドだったのだとしたら、正しく開けたら……そりゃ期待しちゃうよなぁ。

 新しいルートやエリアだと報告に帰らないといけないけれど、それはそれで特別報酬が出るし、冒険者として大きなプラス評価がもらえる。


「アンタ達ルチャルトラに行ってたのね。シュペルノーヴァが活動期に入ってるのだったわね。竜種系の薬草もたくさんありそうだしアタシも遊びに行きたいわね」

「ルチャルトラかー、強い敵のいる地域もあるし楽しそうだなー」

「ルチャルトラは魚がたくさん食べられるから好きよ」

「む……、あそこの島はあまり無茶をすると……その」

 俺とアベルが箱を開けている間、他のメンバーは後ろでルチャルトラ談義をしていた。

 ドリーが何だか言葉を濁している。わかる、あの島で暴れすぎるとベテルギウスのめちゃくちゃ威圧感あるお説教が待っているのが目に見える。


「もう罠は何もないみたいだから開けるぞー」

 封印が解けて、ただの宝箱になったその蓋をゆっくりと開けた。


「え? 何これ?」

 俺のすぐ横にいたアベルがものすごく微妙な顔になっている。

 そして他のメンバーも。もちろん箱を開けた俺も。


 宝箱の中には人の頭より少し小さいくらいの貝――法螺貝が入っていた。

 法螺貝!?!?!?


「クーランマランの貝笛」


 アベルが口にしたその言葉に誰もが目を見開く。


「シュペルノーヴァの次はクーランマランか」

 ドリーが唸るように言った。


 クーランマラン――二つ名を海竜王という。


 火竜王シュペルノーヴァと並ぶ二つ名付きの古代竜である。



お読みいただき、ありがとうございました。


明日は更新お休みさせていただきます。

スイ曜日から再開予定です。

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