山頂へ
誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。
「誰だよ、活動中の火山の火口まで行こうって言ったやつ!!」
思わず口から悪態がポロリと出てきた。
「だってー、ヴォルケニックルーラーの宝箱からあんなにたくさん珍しい素材が出てきたら、レッサーレッドドラゴンの巣も気になるじゃん?」
しれっとそんなことを言っているアベルだが、周囲の火山特有の臭さに眉が寄っている。
「ちょっとこれはきついわね……。浄化のヴェールを常時だしてないと地面から吹き出してる臭い煙にやられそうだわ」
リヴィダスが防御魔法を使ってくれているおかげでなんとか進むことができているが、正直諦めて帰ってもいいのではないかと思い始めている。
俺達が目指しているのは山の頂上に近い場所にある火口。
ヴォルケニックルーラーの巣にあった宝箱から思わぬ稀少素材を手に入れ、テンションが上がりまくってついでにレッサーレッドドラゴンの巣も行ってみるかとなって、山頂を目指して登山開始。
行こうと言い出したのがアベルで、調査の時に巣に入ったことがあり自力で入るのが難しい場所でも、アベルの転移魔法を使えば行けるという言葉に全員で釣られた。
アベルの転移魔法には遠距離の転移をするテレポート系、目視範囲に転移するワープ系、目視範囲内で位置を想定できる物を引き寄せるスナッチ系とあるらしい。
毎度お世話になっているのがテレポート系だが便利そうに見えて、消費魔力が非常に多くそれが移動距離と人数に比例して増えるため、ただでさえ珍しい空間魔法の使い手の中でも長距離の転移魔法が使える者はほとんどいない。
アベルの底なし魔力のなせる技である。
一度行った場所ならどこでも行けるわけではなく、転移する目標としてマーキングをしている場所だけである。そのマーキングを消されたり、マーキング場所を忘れてしまったりすると転移できないと聞いている。
一度行った場所ならあちこちにピュンピュンと転移していくアベルだが、行く先々でマーキングしまくってそこをちゃんと覚えているようなのでどういう頭の構造をしているのかって思う。
チートだよな!? 間違いなくその記憶力チートだよな!?!?
ワープ系とスナッチ系は目視範囲内ならほぼ制限なく使えるようだが、テレポート系は場所によって使えなかったり大きく制限がかかったりするらしい。
とくに空間魔法で形成されているダンジョン内はテレポートの使用がかなり制限され、全く使えないダンジョンもあると言っていた。
このダンジョンは同じエリア内ならテレポートは使えるようだが、ダンジョンが元の状態に戻るという特性上マーキングをしてもせいぜい二日か三日しか保たず、テレポートが使えるのはその間だけだ。
つまり、以前レッサーレッドドラゴンの巣に行ったことがあっても、アベルの転移魔法は使えず歩いて行かなければいけないということだ。
テレポートなしで巣に入るのはしんどいのではないかと思ったが、巣の入り口を目視できる場所まで行けばワープでそこまで移動できるので、自力で巣に入り込むよりは圧倒的に楽である。
転移魔法で普通より楽に侵入できて、レッサーレッドドラゴンも留守だから空き巣し放題!!
帰りはセーフティーエリアにマーキングをしているから、巣から一直線!!
なんていうアベルの言葉に釣られて山頂目指して登山が始まったのだが、これがまた思ったよりしんどい。
上に行くほど岩はゴロゴロしており、それ以上にヤバイのが火山灰。
思った以上にこんもりと積もっているうえに、絶賛活動中の火山から固形物と一緒にもりもりと降ってくる。
そのため頭防具にゴーグルとマスクまでつけて完全防備での登山で、これでもかってくらい暑いし息苦しい。
地面のあちこちから水蒸気や謎のガスが出ているので更に暑い。そして火山ガス臭い。火山地域での活動は久しぶりのためなおさらきつく感じてしまう。
つまり、かなり辛い。
そんな環境の中を、火山が噴火しても溶岩が噴き出さない方向から回り込むように火口を目指している。
火口は山頂付近を斜めに抉るように口を開けており、その高い方へ出るルートで登っている。
こういう悪路ではいつもは一番プープー言っているアベルが妙にご機嫌だと思ったら、ちょいちょい休みながら前との距離が空くのを待ってワープを使ってついて来ている。
何それ、ずるい。
シルエットも闇魔法で他人の影を伝って移動するなんていうずるいことをしている。
魔法使い、ずるい。
「なんだ、グラン。マイホームを買ってのんびりしすぎて体が鈍ってるのではないか?」
「ほら、グランがんばれ! 山登りはいいぞ、山頂に着いた時の達成感は最高じゃないか」
先頭を歩くゴリラどもはどういう体力をしてんだ!?
しかも片方はフルバケツプレートアーマー。そんなんで火山を登るとか狂人か!?
家でのんびりしすぎて体が鈍っているのは否定できないが、先頭の脳みそ筋肉二人は間違いなくおかしい。
俺も山育ちだから山に登る楽しさはしっているが、ここは山は山でも火山だ!! ぐあー、火山灰に足を取られてこけるところだった!!
前の筋肉二人以外もリヴィダスはヒーラーだけれど獣人だから体力あるから、ひょいひょいと登っているし、魔法使い二人はなんかずるい魔法を使っているし、ヒィヒィ言いながら登っているのは俺だけじゃないか。
「火口が見えてきたぞ」
先頭を歩いていたドリーが指差した先は山頂付近で斜面が途切れ、その向こうから白い水蒸気のような煙が上がっているのが見えた。
「斜面が途切れてるところから噴火口まではもう少しあるから、近くまで行っても大丈夫だよ」
調査隊としてこのダンジョンに何度も来ているアベルが、一番後ろからドリーの横まで転移魔法で移動をして火口の中を覗き込んだ。
いやいやいやいや、火山の火口付近で大丈夫とか説得力全くないからな!?
リヴィダスの強烈な防御魔法がかかっていて多少の飛来物や変なガスは平気でも、この距離で火山がドーンするかもしれないって思ったら、めちゃくちゃ怖いからな!?!?
心の中でびびりまくりながらアベルの横まで行き、途切れた斜面の先を覗き込むと、その中は大きなすり鉢状の急斜面になっておりその一番底の部分に、小さな赤い池のような溶岩溜まりが見えた。
あそこから溶岩が吹き上がって、火口の低い部分から飛び出しているのが遠くから赤い光として見えていたのか。セーフティーエリアから見えるのはあっちの低い方だよな。
資料では滅多に大規模な爆発はないとあったが、あちら側から登っていたら俺達が来たルートより噴射物も多そうだし、爆発の規模次第では溶岩に大歓迎されそうだ。
すり鉢の火口の底にある溶岩溜まりの周囲は大量に積もっている火山灰と、それに埋もれている岩が見える。
そのすり鉢の底にある溶岩溜まりへ降りていく途中に横穴があるのが見えた。おそらくそこがレッサーレッドドラゴン君の巣穴だと思われる。
や!? これ普通に降りるの無理だよね!?
降りる時に積もった火山灰に足を取られてツルッといったら、そのまま滑り落ちて底に見える溶岩の中にゴールゴールゴオオオオオオオルッてなっちゃうよね!?
しかも途中で火山が荒ぶったら、俺達のいる高くなっている側から降りても普通に死ねるよね!?
ここに来るまでにも何度か地震があったし、俺達が登っている方からは溶岩が吹き出しているのは見えなかったけれど、噴煙はもくもくと上がっていたよね!?
「巣の入り口がここからだとよく見えるからね。転移魔法で纏めてあそこまで飛んじゃうよ。あの中は何故か噴火の影響を受けないから安全快適!!」
あ、うん、さすがチートな転移魔法。
転移魔法がないと絶対に行きたくない場所だな!?
レッサーレッドドラゴンが留守なのはわかっていても、ここからだと横穴の入り口しか見えないから少し怖い。
気配を探ってみても大きな生き物の気配は感じられないので平気だと思うが、火山活動のせいで周囲の魔力も乱れまくっているので正確な状況がわかり辛い。
グラッ!
突然地面が揺れて反射的に火口から離れた。
「む、溶岩が吹き出しそうだな。アベル、頼んだ」
ひえ、目の前で火山噴火とかおっそろしい。
このダンジョンが初めてでないとはいっても、火山噴火を目の前にして冷静なのはさすがドリー。
「了解ー、みんなこっち来て魔法陣の中に入って」
ガタガタと揺れの続く中、アベルが手をかざすとアベルの周囲の地面に魔力の光で書かれた魔法陣が現れた。
全員がその魔法陣の中に入ると、ピカーッと魔法陣から光の柱が上がり視界が一瞬で切り替わった。
直後、激しく地面が揺れ、切り替わった視界の先が噴水のような赤い色で染まった。
「うおお!? 噴火か!?」
俺達が転移した横穴の前を溶岩が上へと吹き上がっていくのが見えた。
しかし俺達のいる横穴の内部は地面が揺れているだけで、崩れるような危うさは感じず、溶岩の激しい熱さも、吹き出した火山灰や岩石も全くこない。
多少蒸し暑いが許容範囲。ゴツゴツした岩の地面だが、今まで歩いて来た場所に比べたら歩きやすい。
そして巨大なレッサーレッドドラゴンの住み処だけあって中は非常に広く、奥も深い。
奥からはとくに生き物の気配もない。
中に入ってしまえば、レッサーレッドドラゴンが留守の間はセーフティーエリアより安全そうだ。
照明用魔道具を取り出して明かりを灯し、奥へと歩き始めた。
お読みいただき、ありがとうございました。




