箱の中のヤバイやつ
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「ふううー、なかなか良い筋肉の持ち主だった。敵ながら見事であった」
「おう、いい汗かいたな!!」
最前線で殴りあっていた二人はなんだか清々しい顔をしているが、定期的に牛を押しつけられていても、避けるしかできない俺はげっそりである。
ずっと燃えている牛なんて近寄りたくないし、矢を撃ち込んでも燃えるし、狙われると回避に徹するしかないし俺ホントやることなし。
しかも、筋肉アーマーで物理も魔法もあまり効いていないみたいだったし、唯一の弱点の水もフェニクックと同じく倒す前に火を消すと素材の品質が下がるとかで、攻めあぐねた結果のビーフバレーボール状態。
ホント筋肉最強伝説。
グダグダとしながらもジワジワけずってなんとも物騒なビーフバレーボールも終了。地面に転がるヴォルケニックルーラーは未だに少しメラメラしている。
めっちゃめちゃ筋肉ムッキムキで赤身が多そうだなぁ。美味しいのかなぁ。
まぁ、魔物って基本的にランクが高いほど美味いもんだしな。
討伐に時間がかかる強い魔物でもそこそこ稼ぎがいいのは、素材以外にもこれが理由である。
ランクの高い魔物は美味しいものが多く、高級食材としての需要が尽きない。とくに金持ち階級は珍しいものや討伐が困難なものが大好きだ。
肉は持ち帰ればとりあえず売れる。自分でも食える。お肉最高。
その高級食材を現地でつまみ食いできるのは高ランク冒険者の特権である。
そして、時間がかかってもボスやボスクラスの魔物を討伐するもう一つの理由。
「あったわよー! 中には何もいないみたいだから、あとはグランに任せるわ」
ヴォルケニックルーラー君がいた場所――おそらく彼のねぐらだったと思われる岩棚の上のほら穴に、鳥型のスケルトンを放っていたシルエットが俺を呼んだ。
シルエットは使役しているアンデッドと視界を共有できるため、安全確認がしづらい場所の偵察は彼女の役目である。
「了解ー、じゃあパパッと箱を開けちゃいますか」
崖のようになっている岩の斜面を登りヴォルケニックルーラー君の住み処へ。
シルエットが鳥型スケルトンを通してみたもの、それは宝箱である。
巨牛君の住み処だけあってほら穴の中は広く、俺達全員で入っても余裕のある空間だった。
その一番奥には宝箱。
魔物の住み処には極稀にこうして宝箱が出現することがある。その中身はランクの高い魔物ほど良いものが入っている傾向がある。
あくまで傾向であって必ずではない。
昨日倒したレッサーレッドドラゴンの住み処にも宝箱がある可能性もあったが、噴火がいつ起こるかわからない火口付近のため回収に行くと命の危険がある。
レッサーレッドドラゴンは徘徊型のボスなので巣を空けることも多いが、冒険者ギルドの資料によると巣は非常に危険な場所にあるので、無理に近寄らないことを推奨されていた。
このダンジョンの経験者のドリーとアベルもあそこは普通に入るのは無理だと言うし、そんな場所なので巣に入ろうとする者もほとんどいないということで、昨日は回収には行かなかった。
しかも、このダンジョンなら箱の中身は食材か調合素材の可能性が高いので、無理をしてまで手に入れる必要はない。
場所が場所なので、出現しても誰も回収に向かわぬまま溜まった宝箱が複数あるかもしれないが、さすがにいつ噴火するかわからない火山の火口には近付きたくない。
それにレッサーレッドドラゴンが生きている時なら、火口付近で危険な場所で巣に空き巣に入ろうとしてレッサーレッドドラゴンが戻って来たら死亡フラグしかない。
さすがの俺も食い物より命のほうが優先である。
そんなやばそうな場所にあるレッサーレッドドラゴン君の巣に比べれば、少し岩棚を登るだけでいいヴォルケニックルーラー君の巣はチョロい。
「罠はたいしたものはないな。魔物も入ってないようだな、それじゃ開けるぞ」
ちょいちょいと罠を解除して、中に魔物が入っていないか確認してゆっくりと蓋を持ち上げた。
「何事もなく宝箱が開くって、なんだかすごく感慨深いわね」
後ろからリヴィダスのなんとも言えない声が聞こえた。
俺がいない時はどうなっているのか少し見てみたい。見なくてもなんとなく予想はできるけど。
「それで中身は何だ? やっぱ食い物か? ん? 石?」
中身が食材の可能性が高くても宝箱を開ける時はやはりわくわくする。それはドリーも同じようで、後ろから箱の中を覗き込んできた。
中に入っていたのは手で握れるほどの大きさで赤褐色の小石のようなもの。それが箱の底に敷き詰めるように、ゴロゴロといくつも入っている。
「こ、これは……マジかよ……やべぇ。おい、シルエットこれはやべぇ」
中の小石を手に取って鑑定して、やべぇとしか言葉が出てこなくなった。とりあえずこのやばさをわかってくれそうなシルエットを振り返る。
「えぇ? これは確かにやばいわ……、やばいしか言葉が出ないわ」
シルエットも石の正体に気付いて俺と同じ状態になっている。
「え? 何々? 何かやばいもの? 炎牛鉱? レア度S? えぇ……この石ころがレア度S? しかも一個じゃない……やっば」
やばいしか言っていない俺とシルエットの後ろから宝箱を覗き込んでそしてこの反応。
うむ、やばいとしか言いようがない。
「あー、牛鉱だから牛の腹の中から出てくる石か。ランクが高いやつほど効果が高くて、値段もやばい高くなるんだったよな。それがこの数はやばっ」
「名前と出てきた場所からしてヴォルケニックルーラーの牛鉱かしら。ダンジョン固有種でランクの高い魔物だし、一つだけでもやばい値段が付きそうね。これは確かにやばいとしか言いようがないわ」
カリュオンもリヴィダスもこの反応である。
「何だ? この石ころはそんなに高いのか? 食材や調合素材は疎くてな」
一人だけ不思議そうなドリーになんだか少し安心した。
「牛鉱は牛や牛系の魔物の腹の中にできる石で、ランクの高いものなら傷や体力、魔力を纏めて回復するリカバリーエクストラポーションの素材になるんだ。更に品質の良いものなら毒や麻痺、精神汚染、呪いなんかからの回復効果が付くこともあって、高ランクの魔物の牛鉱は市場にはほとんど出ることがなくて、出てもめちゃくちゃ高値で取り引きされるんだ」
傷も体力も魔力も回復して複数の状態異常まで治してしまうエクストラポーションなんて実質エリクサーである。
まぁ、俺は調合スキル足らなくてまだまだ作れる気がしないけど。
「それがこんなにー、あーもう帰って調合作業に専念したくなるわ。高ランクの魔物の牛鉱ってだけでも珍しいのに、固有種のものだなんてどんな効果が出るかわくわくしちゃう。あーもう手持ちのお金で買えるだけ買い取りたいわ」
あー、シルエットがうっとりした顔で箱の中を覗いている。
まだまだ加工できる気はしないが、俺にも少し買い取らせてくれ。
「ふむ、火山の石ころのような色をしているがそんな稀少なものだったのか。それがこの量あるのは確かにやばいな……いや、良い儲けになったな」
ドリーにもやばいが移った。
「ここの宝箱そんなものが出るのかー。何回か倒したけど宝箱があるのも稀だし、あんま高そうなものが出たこともなかったから、そのまま不人気系の魔物になっちゃったんだよね。こんなものが出ることが広まったら人気が出そうだねぇ」
ギルドで見た資料にも宝箱から牛鉱の報告はなかったな。報告をしていないだけで実際には出ているかもしれないが。
解体して出てきたら超ラッキーなものが、宝箱からゴロゴロ出てきてめちゃくちゃラッキーである。
「すげーな、宝箱からは食や薬に関するものだけって話だったからあんまり期待してなかったけど、意外と夢があるんだなぁ」
カリュオンがうんうんと頷いている。
確かに、食材や調合素材ばかりだと夢がなさそうに思えてしまう。
今回が特殊なだけかもしれないが、多少性能のいい程度の装備品や微妙な魔道具なんかより、ランクの高い牛鉱のほうが圧倒的に価値が高い。それがこの量である。
そのまま売った時の金銭的価値もすごいが、ポーションにした時の価値は更に跳ね上がるし、シルエットのような腕のいい薬師が作ったものなら、どれだけ高い効果のものになるか想像もできない。
効果次第では金には換えられないほどの価値のものができるかもしれない。
この先、今回のような貴重な素材が手に入る可能性もあると思うと、このダンジョンの宝箱は思ったより夢が溢れているな。
お読みいただき、ありがとうございました。




