表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
381/1104

晴れ時々羊

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

 や、っちょ……、これは、思った以上に――やることないな!!!!!


 オルタ・ポタニコからアベルの転移魔法でピューッとやって来た食材ダンジョンは、一階層目からCランクでも強い部類の敵が群れていたり、Bランク相当の敵が出てきたりと、さすがBランク以上という入場制限があるダンジョンだった。


 ――なのだが、なんなのこのゴリラ達。

 気分は海岸のゴミ拾いのボランティア。

 殲滅速度が速すぎて、必要な部位選んで回収していると魔物の死体が溜まる一方なので、諦めて丸ごと収納に詰め込み始めた。

 少し離れたところでは、ドリーが喜々として巨大な剣を振り回している。

 テンション上がりすぎて魔物を真っ二つにするのはいいけれど、素材としての価値が落ちない程度にして欲しいな。

 小さい魔物なんかほぼミンチ状態である。

 あ、カリュオンが鈍器で小さい魔物ぺちゃんこにした。

 なんだこのゴリラども!?


「今日のドリーは何だか楽しそうねぇ。ついこの間、西の方に行ってた時も妙にのびのびしてたけど、今日はその時以上だわ」

 パーティー全体が見える位置からリヴィダスが少し呆れながら、補助魔法を飛ばしている。

「ドリーも意外と大人げないとこあるよねー、あっ! シルエット、それは俺が狙ってたやつ!」

「知らないわよ、アンタの魔法が遅いんでしょ。あ、ちょっと!? そっちのやつ次にアタシがやるつもりだったのに!」

 後方で魔法を撃っているアベルとシルエットが魔物を取り合うように、ピュンピュンと魔法を放っている。

 そのタイミングも狙う魔物も被っていて息がぴったりに見える。

 仲良しさんだなぁ。


 俺も攻撃に参加しようと思って、魔法使い勢の遠距離攻撃に負けないように弓を用意していたのだが、構えて狙いを定めている間に敵がいなくなっている。

 そして回収の仕事が発生する。

 もう俺、回収係でいいよね。そうだよね、俺は俺の仕事しよ。


「あー、グランー、そっちいったーーーー!!」

 前方からカリュオンの声が聞こえてきた。

 時々討ち漏らした魔物が走ってくるなんて、よくあることだ。

 それを処理するのも俺の仕事である。


「はいよー、任せろー、ってどこだ?」

 あれ? 何もこっちに来ていないけれど? 何がこっちに来ているって言うのだ?

 カリュオンの声が聞こえてきた方を見たが、大きな盾を構えるカリュオンと俺の間には魔物はいない。

 キョロキョロとした直後、視界に影が落ちた。

「は?」

「盾で弾いたら、勢い余って吹き飛んじゃった!! あとよろしく!!」

 あとよろしくじゃねええええええ!!


 慌てて床に落ちた黒い影を避けると、すぐに上からその影の主が落ちて来た。

 バチバチと火花を散らしている、モコモコで可愛い小型の羊ちゃん。なお、素手で触るとすごくビリビリする。

 魔力をほとんど通さないアダマンタイト製の短剣で、羊の首を切り裂いてとどめを刺す。

 アイテム回収係も楽じゃない。


 すでにみんなテンションを上げているが、ここはまだ一階層目である。

 食材ダンジョン一階層目。

 入り口付近はトンネル状の洞窟だったが、その辺りは何もなく少し進むと急に空間が開けて春のような環境の草原に出た。

 爽やかな心地のいい温かさ、緑色の草原の上をサワサワと音を立てながら吹き抜ける少しひんやりとした風、非常に気持ちの良いエリアだ。

 その草原で草食の魔物がもしゃもしゃと草を食べている。

 中には群をなしているものもいるが、そのほとんどはこちらから手を出さないと害はないものばかりである。

 そんなのどかな光景なのだが、その魔物達はランクが高めの魔物ばかりである。そして食用可能。お肉美味しい。


 ランクは高めだが、このダンジョンに入場できる冒険者なら問題なく倒せる強さだ。ただし、単体に限る。

 単体なら何とでもなる大人しい草食の魔物が、群を作ってのんびりと草を食べている。

 攻撃をしなければ大人しいのだが、手を出すと当然のように反撃はしてくる。

 同族なら仲間意識もあるようで、一匹つつくと群全体で反撃をしてくる。

 うわぁー、のどかに見えるけれど、強力な範囲攻撃がないとソロで群をつついたら酷い目に遭うやつだ。

 そんな感じで最初の階層では、パーティーが魔物の群を相手に乱戦を繰り広げているのを度々目にしながら進んできた。


 一階層目で狩りをするパーティーが多いので、二階層に直行しているとその手前に羊の群が居座っていた。

 ランポペコラという体長一メートル程度にしかならない魔物にしては小さめの羊だ。

 その少し小振りで可愛いモコモコの羊ちゃんなのだが、こいつらのモコモコの毛は静電気どころか雷を発生させ、常にバチバチと火花を散らしている。

 強さはCランク、肉は少々癖はあるが美味しい、羊毛は雷属性の素材として人気がある。

 大人しい類の羊なら毛だけ刈らせてくれないかなって思ったけれど、そんな呑気なことができるパーティーではなかった。


 どうせ近くに他のパーティーがいないならとカリュオンが範囲攻撃をぶちかまし、ランポペコラどころか近くにいた他の小さな魔物の群まで巻き込んで大乱闘開始である。

 俺が穏便に羊の毛刈りがしたいと言う前に始まるサーチアンドデストロイ。

 そんな乱戦の中、突進した羊の群をカリュオンが盾で受け止めて押し返したうちの一匹が、勢い余って俺のとこまで吹き飛んできたのだろう。

 押し返したというか弾き飛ばしただな。


「あー、ごめん。またそっちいったー!!」

 飛んできた羊を処理したと思ったら、次が飛んできた。

 お前、わざとやってないか!?

 それとも何か? 今日の天気は晴れ時々羊か!?


「ん?」


 弾き飛ばされてきた羊を処理して回収したところで、上空に大きな魔力のうねりを感じ、爽やかに晴れ上がったダンジョンの空を見上げた。

「ボスが来るよ!!」

 後ろからアベルの声が聞こえた。

 周囲を見回せばたくさんいたランポペコラが全て殲滅されている。

 そういえばこの階層のボスはランポペコラを全滅させると出てくるってギルドで読んだ資料に書いてあったな。

 大型のランポペコラだっけ?


 空中に濃い魔力の渦が発生し、それがだんだん凝縮されるように集まり実体化していく。

 濃い魔力により形成され、その中の生態系も魔力が実体化したものであるダンジョンでは、時折このように魔物が生み出される場面を目の当たりにすることもある。

 今回のように特定の魔物を全滅させると、その上位の魔物が出てくるということもわりとよくある現象だ。


 おっと、ボスが出てくる前に散らかっているランポペコラの死体を回収しないと、大型のボスが降ってきたら踏み潰されちまう。

 ボス出現の予兆に合わせて、ドリーとカリュオンが少し後ろへと下がるが、彼らとすれ違いながら大急ぎで転がっているランポペコラを回収する。 

 頭の上では魔力が渦巻き、その圧で押さえつけられているような感覚がして首が痛くなる。

「グラン、そろそろ戻ってらっしゃい!」

 背後でリヴィダスの声が聞こえる。

「あと一体!」

 地面に転がる最後の一体に手を伸ばして掴んだ瞬間、フワリとした浮遊感と共に景色が流れた。

 馴染みのある浮遊感の中、掴んだランポペコラを収納へと放り込む。

「ギリギリまで粘りすぎ」

「アベルが引き戻してくれると信じてたからな」

 空間魔法で俺を引き寄せたアベルの呆れた声に手を上げて応えた直後、先ほど俺がいた辺りに大きな白い塊がドーンという音と共に降りたって地面が揺れた。

「ラムロードだなんて、すごく美味しそうな名前の羊肉だよね」

 アベルよ、確かにめちゃくちゃ高級感ある肉名のようだが、羊肉ではなくてまだ羊だ。


 上空で魔力が集まり形を成して地面に落ちてきたのは羊。

 今日の天気はやはり晴れ時々羊なのかもしれない。

 姿を現した巨大羊ラムロード――周囲のランポペコラを全て倒すと出てくる巨大ランポペコラ、このエリアのボスだ。

 ギルドで読んだ資料によると強さはA、雷属性、大きな個体で十メートルほど。

 俺達の前に現れたのは、どうやらその大きな個体のようだ。



お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ