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ホゥッとするお茶

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「ちょっと、俺にはまだ生ドドリンは早かったみたいだよ……」

「俺は次はいける気がする。ああ……あの匂いだんだん癖になってきた……」

「グラン順応性高すぎ。全く生態系違う孤島に流されても、すぐに馴染みそう」

 それは褒めているのか、貶しているのか。


 ドドリンのプリンの後、少しだけと、昼間に手に入れたドドリンを出してもらった。

 食べ過ぎるとお腹の調子が悪くなるかもしれないとの事で、すでにスムージーとプリンを食べた後だし、あの強烈な匂いの事もあって少しだけ。

 ほんの少しだけカットして出してもらって、俺の隣の席でアベルが遠い目になっているが、俺は、わりといける気がした。

 確かに匂いはキツいのだが、食べているうちに慣れてしまったのだ。

 慣れてしまえば、口の中では匂いは気にならなくなり、あの新鮮で濃厚な甘さを素直に楽しむ事ができる。

 そうなると非常に美味い。

 リリーさんが平気な顔をして食べているのは、普段から食べる機会があるからだろう。


 果物の甘味を濃縮したようなねっとりとした甘さ、食感はバナナに近い。

 今世では果物の品種改良が前世ほど進んでおらず、甘味より酸味が強いものがほとんどだ。

 そんな中で圧倒的な甘さを持つドドリンは、果物の甘さが好きな者にはたまらない果物……いや、魔物だろう。

 この独特の匂いがなければ、上流階級の人々の間で広まっていたかもしれないな。



 そして、すっかりドドリンの香りで満たされてしまった部屋を、給仕さん達が浄化魔法で消臭をしてくれた後、食後のお茶が出てきた。

 茶色く透き通ったお茶。

 ぱっと見た感じで紅茶のようなのだが、紅茶ほど赤くない。

 熱いお茶を口に含むと、非常に香ばしい味がした。そして懐かしい……。

「ほぅー……」

 思わず蘇った記憶からそのお茶の名前を言いそうになり、息を吐くふりをして誤魔化した。

 苦みも渋みもほとんどなく、ただただ香ばしさが印象に残り、ホッとするこの味は懐かしさのせいでなく、このお茶の効果に違いない。


「これ、お茶だけど紅茶じゃないよね? ええ? どういう淹れ方したらこいう味になるの? 苦みも渋みもないから物足りなさを感じるはずなのに、香ばしさが強くて気にならない。いや、朝食の後や午後のティータイムだと物足りなかったかもしれない。夕食の後、一日が終わってこれから休む時間だから、これくらいで丁度良く感じるのかも」

 出されたお茶を口にしたアベルが、ホゥと息を吐く。

 わかる、このお茶、飲んだ後にホゥと息を吐きたくなる。


「こちらは、法茶と言いましてチリパーハのお茶を、ツァイ産のお茶の葉で再現したものですね。茶の葉を発酵させないで乾燥させて、焙煎したものになりますね。苦みと渋みがほぼありませんので、食事中でも料理の味を邪魔しませんし、夕食後にお飲みなっても眠りを妨げにくいものとなっております」

 やはり、俺の記憶にあるものとほぼ同じものだ。そして名前まで似ている。

 食前に飲んだ龍茶といい、なんとなく前世を思い出すネーミングなので、俺やジュストみたいな者が過去にいたか、進行形でいるのだろう。

 いや、もしかすると、その逆もあるかもしれないな。

「へー、さすがお茶の生産地だね。食事前に出て来たお茶といい、外国の文化を地域の特産物に取り入れてるのは、さすが遠方との交易に力を入れてる家門のお膝元だね。このお茶は町でも売っているのかい?」

「ええ、売ってますよ。生産の規模はあまり大きくないので、他へ地域の流通はほとんどありませんが、法茶は品質の低い葉の再利用も兼ねて、地元の住民向けのものが町では多く売られてますね。龍茶の方は、商人に好む方が多くて、最近はお土産用として販売される量が増えておりますね」

 町で買えるのなら買って帰ろう。

 アベルみたいなお茶マニアではないけれど、食事に合わせたお茶は色々と揃えておきたい。

 ほら、いっぱい種類が揃っているってなんか楽しいじゃん?


「そういえば、以前リリーさんが言ってた、お茶の農家に伝手があるって、この辺りの事?」

 前に緑茶を分けてもらう話をした時に、リリーさんがそんな話をしていたんだよな。

「ええ、そうです。今がお茶の収穫の開始時期なので、以前お約束した緑茶はもう少ししたらお渡しできますね」

「やった! あれ? でも一番茶って高価だったよな? そんなの回してもらってもよかったのかい?」

 品質の良い物を融通してもらえるのは嬉しいが、それで農家の人に迷惑がかかるのは困る。

「そうですねぇ……、本来は紅茶の方がメインですし、一番茶は需要が一番多いので、お渡しできる量は限られてきますね。二番茶以降でしたら、多めにお渡しできますね」

「おっ、じゃあ二番茶以降も定期的に緑茶を売ってもらっていいかな?」

「ええ、もちろん。緑茶が好きな方が増えるのは喜ばしい事ですわ」

 俺も、日常的に緑茶が飲めるようになるのはすごく嬉しいし、抹茶系のおやつも作れるようになるのは楽しみが増えるな。


「ところで、こちらには、冒険者のお仕事で?」

「ああ、いや、俺の実家がペトレ・レオン・ハマダの近くで、里帰りのついでに観光?」

 ペトレ・レオン・ハマダとは、俺の実家のある山地の西に広がる、岩石だらけの荒野だ。

 冒険者になった後に知った事だが、強い魔物がうようよいる上に、環境も過酷で高ランクの冒険者でも辛い場所と言われている。

 その為、人の手の入っていない場所もあり、未知の遺跡やダンジョン、資源が眠っている可能性もあるらしい。

 いつか探索してみたいなとは思っている。いつかね……だって、砂漠とか荒野は暑いし辛いから……いつか、元気が有り余っている時に。


「で、俺はその付き添い? 転移魔法が使えるし、グランの一人旅なんて何をやらかすかわかったもんじゃないし? その途中でフォールカルテに来たから、そういえばリリーさんの実家だなって思って、お茶の産地まで足を運んだら何か面白いものが見れそうな気がして行ってみたら、本人がいたってわけ」

 おい、俺が何をやらかすと言うのだ!? 相変わらず失敬な奴だな!!

 って、フォールカルテにリリーさんの実家があるって、アベルは知っていたのか。そういえば、物流に強いお家みたいな事を言っていたっけ?

 二人とも貴族だし、お互いの家の名前くらいは知っている感じなのかな?

 まぁいいや、貴族の世界なんてどうせ俺には関係ない世界だ。

 貴族社会の事はわからないが、リリーさんが遠方の珍しい物を仕入れてくるルートを持っている事はよくわかった。


「里帰り、お二人で……転移魔法、なるほどです。おほほほほほ……転移魔法、そう、長距離を移動できる転移魔法使いだなんてさすがですわ。ペトレ・レオン・ハマダの辺りは、道もあまりよろしくありませんし、強い魔物が多いですからねぇ。ええ、ええ、確かに高ランクの冒険者の方でも、一人旅は不安な地域ですねえ」

 ホント、そうなんだよなー。

 冒険者になる為に実家を出て、大きな街道沿いに移動したけれど、街道沿いですら強い魔物が多くて王都まで辿り付くまで苦労したし。

 当時は子供だったから、更に強く感じたのだろうな。今だとチョロいかもしれない。

 今回はアベルの転移魔法で楽できるし、実家に帰る前に少し寄り道をして、面白素材探しをしてみてもいいな。


「王都の方面では見かけない土砂や治水対策を見れたし、珍しいお茶と料理も味わえて、ツァイに立ち寄ってみて良かったよ」

「そうだなー、リリーさんにも会えたし、ちょっと臭かったけどドドリンも悪くなかったな」

 アベルのリクエストで立ち寄って、お茶と薬草を買うくらいかなって思っていたけれど、予想外の収穫があった。

 ツァイに立ち寄ってみて良かった。

 次にドドリンに会ったら、もっとスマートに倒してやるからな!?

「そう言っていただけると、光栄でございます。またぜひ、ツァイにいらしてください」

 法茶をすすりながら山間部のあの懐かしい段々畑の光景を思い返すと、なんだか前世の祖母ちゃんちが浮かんで、また見に来たいと思ってしまう。



お読みいただき、ありがとうございました。

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[一言] 腐った方々から結婚前の親御さんへの挨拶扱い受けそうよねえ
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