仕掛けられていた爆弾
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本日二話目です、ご注意下さい。
突然、灰色ちゃんことシルキードラゴンの子供を、保護してしまうなんて事もあってバタバタしたが、相変わらず平和な日が続いている。
アベルによると、そろそろドリー達が戻って来るようで、ジュストがうちにいる日も、あと僅かになりそうだ。
うちにいるうちに、俺の持っている知識をできるだけジュストに教えておかないとな。
季節はすっかり春。
随分と暖かくなり、森の木々はどんどん葉を茂らせ、遠目に見ると森がモコモコして見える。
畑も春野菜が食べ頃になり、初夏にむけて新しい野菜や薬草もたくさん植えた。
畑仕事をしたり、ポーションを作ったり、装備を作ったりと、のんびりしているようで何だかんだで毎日忙しく動き回っている。
そんな感じで畑や内職に夢中だったせいで、俺がソレに気付いた時にはすでに手遅れだった。
いや、手遅れというかなんというか……悪い物ではないのだが……うん。
「わああああああああ……」
気付いた時にはそうとしか言えなかった。
わああああああああああ……。
「へー、綺麗に植えてあるねー。これ、ニュン草だよね。優秀な薬草だし、良かったねグラン。フローラちゃんが植えてくれたの?」
「お、おう。すごくたくさんあるなぁ……めちゃくちゃたくさんポーションや精油が作れそうだなぁ……ありがとう、フローラちゃん」
無意識に遠い目になる。
アベルと並んで見ているのは、家を囲む柵に沿ってずらーーーーーっと植えられたニュン草。
暖かくなって、一気に成長し緑の葉をたっぷりと茂らせ、柵を飲み込むように茂みになっている。
そして、柵に巻き付いたフローラちゃんがモジモジとしている。
良かれと思って植えてくれたのだ、役に立つ薬草だし、悪い物ではないし、ここにあっても困るわけではないしな。
うん、ありがとう、フローラちゃん。
でも、これはちょーーーーっと、植えすぎじゃないかな!?
三姉妹達の加護に、フローラちゃんの栽培技術が加わって、とても立派なニュン草の茂みが出来上がってしまっている。
先日、リッチ・ビショップが現れて柵を跳び越えた時は、まだ背が低くて葉が小さくよく見なかったので、気付かなかった。
いや、あの時気付いたとしても手遅れだったな。
シランドルに旅行中に、フローラちゃんが柵に沿って植えてくれていた花は、ニュン草という薬草だった。
ニュン草はスゥッとした爽やかな香りのする薬草で、その香りだけでも気分のリフレッシュ効果がある。
ポーションにすると体力回復効果や覚醒効果のあるものになる。
その他にもお茶にして良し、軟膏にしても良し、精油にしても良し、精油にすれば同時に芳香蒸留水もできて、それはスキンケアにも使える。
つまり、使い勝手の良い非常に優秀な薬草なのだ。
そんな、薬草をフローラちゃんが柵に沿って植えてくれていたのだ。ありがたいと言えばありがたい。
ありがたいのだが、このニュン草という植物、非常に生命力と繁殖力が強い。
ようするに、枯れない、めちゃくちゃ増える。どれくらい枯れないかというと、ニュン草を枯らそうと思えば塩を撒かなければいけないレベルだ。
抜いたとしても、地下茎が残っていればそこからまた生えてくるし、地下茎を伸ばして増えていくし、花が咲いて種が飛び散ればそこに生える。折れた茎を地面に刺せば、そこから地下茎が伸び普通に育つ。
たくさん植えてあるなぁ……、種が飛ぶ前に花を摘まないと来年が怖いなぁ。
いや、来年の事は来年考えよう。俺は今を生きる男だ。
うむ、これだけあれば森にニュン草を取りに行く必要もないし、ニュン草は虫除けにもなる。いい事しかないな!!
よし! 問題ない!! 考えるのやめ!! 花が咲いて、種が飛び散る前になんとかする!!
そう、ニュン草は花が咲くと質が落ちるから、蕾が付いたら刈り取るのは正しい手入れなのだ。
とりあえず地面の中で地下茎が広がって行かないように、根止め用の板をニュン草に沿って地面に刺して行くか。
そうだな、そうやったら花壇みたいで、見た目も良くなるしそうしよう。
深さは三十センチくらいでいいか。地面の上に出す部分を入れて四十センチくらいの長さで、幅は十センチ、厚さは一センチあればいいな?
収納の中のエンシェントトレントの材木を板にするか?
いやー、あれ切るの面倒くさいな?
根止め用の板なら、ピエモンの農業ギルドにもありそうだな。
葉っぱを摘んだ後、パパッとピエモンまで行ってこよう。
せっかくたくさん植えてくれたのだし、綺麗に育っているので、ニュン草の新葉を摘まないのは勿体ない。
たくさん摘んでも、枯れないどころか、また葉が出てくる。
今年はたくさん体力回復のポーションが作れそうだな!!
アベルがずっと本と睨めっこしているし、覚醒効果のあるニュン草で爽やかな飲み物を作るのもいいな。
若い葉はお茶やポーションにして、次には大きくなった葉は精油用にするかな。
そうだ、これだけたくさんあるから、一株ほどパッセロ商店にお裾分けするか!!
ぬ、鉢植えを部屋に置いておけば虫除けにもなるし、植物が部屋にあるというのは心もやすまるだろうから、鉢植えにしてジュストに一つあげよう。
アベルは実家が広そうだから、アベルにもお裾分けしようかなぁ。
そう、これはただのお裾分けである。
「俺達がシランドルに行ったり、ダンジョンに行ったりしている間に、庭の空いたスペースに花の咲く薬草をたくさん植えてくれたみたいだね。ほら、あっちにあるのは、ラヴァンじゃない? 初夏に紫の花が咲いて綺麗なやつだよね。花は嫌いじゃないから、色々植えてあるのを見るのは楽しいね」
「え? ラヴァン?」
「ほら、騎獣達の遊び場の周りの日当たりが良い場所。まだ小さいから草かと思ったけど、あれラヴァンだよね?」
アベルが指差した方を見に行くと、森を切り開いて作った騎獣達の遊び場の柵に沿うように、ラヴァンが生えてきている。
俺達が王都のダンジョンに行っている間に、種を撒いてくれたのかな?
「おぉう……ラヴァンか。これも、ありがたいな」
ラヴァンは紫や白の穂花を付ける多年草の薬草で、とても香りが良く、この香りはリラックス効果が強い為、俺はこれを手荒れ対策用の軟膏の香り付けによく使っている。
花はお茶にして、香りを楽しみながら飲む事もできる。リラックス効果があるので、眠れない時などにおすすめだ。
また、この香りを嫌う虫が多い為、虫除けの効果もある。ポーションにして振り掛けておけば、虫系対策にもなるし、ラヴァン自体に抗菌作用もある為、虫刺されの薬にもなる。
使い道が多く、俺のお気に入りの薬草でもあるのだが、コイツは油断すると育ち過ぎる。
ニュン草のような脅威的な繁殖力はないが、手入れをしないと一つの株からどんどん茎が出てきて成長していく。
うん、成長し過ぎないようにこまめに手入れしような。
「あっちにあるのは追憶紫蘇かな? その根元にたくさん生えてる小さな花はヴァルキリーグラス? あっちはオルガ草に、メリサーだっけレモンみたいな匂いの薬草も植えてあるね。すごいすごい、畑にも薬草が植えてあったし薬草園みたいになってきてるね」
フローラちゃんが畑とは別に、庭の空いたスペースに多年草系の薬草を色々と植えてくれていたようだ。
いやあああ、本当にありがたいなぁあああああああ!!
全部繁殖力や生命力が高くて、油断すると巨大化したり大増殖したりするやつだよ!!
これは、気合い入れて管理をしないと、うちの敷地が森ではなく薬草に飲み込まれるやつだ。
毎年うちの庭でたくさん……本当にたくさん薬草が採れそうだな!!
俺の収集癖をわかっていてやってくれたのか!?
フローラちゃんは、ホントお気遣いのできる妖精さんだなぁ。
せっかくなのでちゃんと使わせてもらうよ!!
ちゃんと使わせてもらうけれど、フローラちゃんには、限度というものを早めに教えておこう。
お読みいただき、ありがとうございました。




