はじける美味さ
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「ちょっとグラン! ホント、何やってるの!?」
「お前どうしてそんなことをした!?」
「これは、グランが悪いわねぇ」
「はい、まっことに申し訳ありませんでした」
俺は今めちゃくちゃ怒られている。宿の部屋でドリーとアベルとリヴィダスに囲まれてめちゃくちゃ怒られている。
今回は完全に俺が悪かったので申し開きのしようがない。
「で、この白いの何?」
「ポップコーン、つまりハジケルトウキビ?」
「どうしてトウキビを爆発させようと思った!?」
「美味しいから?」
「美味しいなら仕方ないわね」
あ、リヴィダスはそこで納得しちゃうんだ。
「そっか、美味しいなら仕方ないね」
「うむう、それなら仕方ないが、あまり他人に迷惑はかけないようにな」
え? アベルもドリーもそれでいいの!?
何で俺が怒られていたかというと、夕食後に宿の部屋でポップコーンチャレンジをしたからだ。昼にポップコーンの話をしたから、食べたくなったんだよね。
収納の中にはトウモロコシことトウキビをストックしていて、挽いて使う為にしっかり乾燥させてある。
今世のトウキビの粒はパサパサで固い。前世のような柔らかくて甘いものではない為、そのまま食べずに挽いて粉にしたものを料理に使う事が多い。
その中でも特に硬い粒のトウキビを間違えて買ってしまい、挽くのが面倒臭くて収納の中に放り込んで放置したままのものがあった。
あれ? もしかして、これはいけるんじゃね?
少量で試してみると、小気味のよい音と共にポーンとなった。少し音が気になるが、これはいけると思い、大きめ鍋にザラザラとトウキビの粒を入れて、油を少量振りかけ上から蓋をして、携帯用のコンロにかけた。室内で料理をするので窓を少しだけ開けて。
パパパパパパパンパパパパパパパパンパンッ!!
カカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!
そして、大量のトウキビの爆発音と、爆発して出来たポップコーンが鍋の蓋に当たる音が、夜の静かな宿屋に響き渡る事になった。
思ったより音が響いてしまった為、近くの部屋の人が宿の人を呼んで様子を見に来てしまった。
しかし、一度弾け始めたトウキビはもう止められない。宿の人が来ても、爆発したトウキビが蓋に当たって蓋を吹き飛ばさないように、蓋を押さえるのに忙しい。
もちろんそんな爆音をさせたものだから、最初に様子を見に来たのは部屋にいたメンバーなのだが、何をしているのか聞かれても、トウキビを炒っているとしか言いようがないし、止めろと言われても止まるものでもなかった。
その結果、ちょっとした騒ぎになり。周囲の部屋の人と宿の人に迷惑をかける事になった。ごめんなさい。
集まって来た人にはポップコーンをお裾分けして帰ってもらった。塩かけて食べてください。お騒がせしました。
そして、それが一段落してアベルとドリーとリヴィダスにお説教をされる事となった。ジュストは三人の後ろで苦笑いをしている。
すみません、反省してます。今回は俺が悪かったです。次からは家でやるか、アベルに防音魔法をかけてもらいます。
ん? 鍋に消音系の付与すればいいのか。ついでに鍋自体に加熱系の付与すればコンロ要らず!? 蓋をロック出来るようにしておけば、爆発中も蓋押さえなくていいな? 空気穴も忘れてはいけないな! 寸胴鍋でやれば、たくさんポップコーンを作れるじゃないか!? 大きいと鍋を揺らすのが大変だから、自動で揺れるようにしておくか!! 俺って天才では!? 名付けて、いつでもポップコーン君一号!!
後で作っておこう。
「この白いのがトウキビを破裂させたやつか?」
鍋に山盛りに出来たポップコーンを、ドリーが興味深そうにしげしげと見ている。
「うん。あ、アベル、エールとそれを入れるカップを、キンキンに冷やしてもらっていいかな」
「いいけど、寒いのに冷たいエールなの? 部屋の中は暖かいからいいけど」
「これは冷たいエールが合うんだ。ジュストはレモネードでいいか?」
「はい!」
ポップコーンを知っているジュストの表情はキラキラしている。
俺達が酒を飲む時ジュストはいつもジュースだし、炭酸はレモネードが多いから、ジュスト用に何か他の炭酸飲料も作っておこうかなぁ。
ジンジャエールっぽいものなら作れそうだな。コーラは難しいけれど、がんばればいけるかなぁ。
先ほどの騒ぎで集まった人達にお裾分けしたが、ポップコーンはまだ鍋にいっぱい残っている。それを大きめの皿に分けて盛り、テーブルの上に並べた。量が多すぎて一つの皿に盛るのはどうやっても無理だった。トウキビはポップコーンにすると膨張するから仕方ないな。
そしてポップコーンには炭酸飲料!! と言うわけでビール……じゃない、エールだエール!!
ポップコーンの味付けには色々あるが、今回は王道塩味だ。せっかく醤油が手に入ったのでバター醤油もやってみたいが、それはまた次回以降だ。
「すごく山盛りね。これ食べきれるの?」
ポップコーンは爆発して実がふわっと膨張するので、器に盛ると量がかなり多く見える。
ポップコーンが山盛りにされた皿が並んでいるのを見て、リヴィダスの表情が引きつっている。
「中身はスカスカだから、量食べられると思うよ。まぁ余ったら収納の中に入れておけばいいし」
「確かに、フワフワというかスカスカって感じの食感だね。でもその独特の歯ごたえが悪くないし、塩味がすごくいい。これはグランのお勧めの通り冷たいエールが合うね。交互に延々いけちゃいそう」
早速アベルがシャクシャクとポップコーンを食べている。アベルはこの手の菓子は好きだと確信があった。きっとポップコーンにハマると思うんだ。
「確かにこれはエールと交互に延々いけそうだな」
ドリーはポップコーンをわしづかみにしてモグモグしている。
「エールと延々いけるって悪魔のような食べ物ね」
と言いつつ、リヴィダスの手も止まらなくなっている。
「お腹いっぱいなってもやめられないですよね」
「胸焼けするのわかってても、食べるのやめられる気がしない」
ジュストも手が止まらなくなってしまっている。そういう俺も手が止まらない。
塩味で飲み物が欲しくなって、飲み物を飲むとまた塩味が欲しくなる。恐ろしい無限ループである。まさに悪魔の食い合わせ。
「今日ね、リヴィダスの知り合いの穀物問屋さんと商談して来たんだけど、定期的に俺達用にコメを仕入れてくれるって」
「マジかー!!」
アベルがモシャモシャとポップコーンを口に運びながら言った。ポップコーンを食べる姿が、無駄に様になっていて何だか悔しい。
アベルが今日商談とか言っていたのは米の事だったのか。ありがたいありがたい。
「他にもショウユとササ酒? 他に何かある?」
「だったら味噌かな、後味噌と醤油の原料のソジャ豆も欲しいし……海苔も欲しいな、後小豆っぽいものがあったら欲しいし、米は米でも餅米があれば、それに米ぬか……」
「待って待って、結構色々あるね。俺はどんな食材かわからないから、コメが入ってきたタイミングで纏めて交渉してみよう」
「うん、わかった。その時は俺も一緒に行くよ」
「うん、お願い。ユーラティアにはない食材だから、バーソルト商会を窓口にしてこっちの食材のレストラン展開するのもありかなって、帰ったらティグリスに相談してみるよ。その時はグランも一緒ね。食材の使い方はグランが詳しそうだし」
「おう、任せろ!!」
こっちの食材をユーラティアで輸入するようになったら、わざわざここまで買いに来なくていいしな。バーソルト商会様にがんばってもらおう。
「ところでドリーは、今日どこに行ってたの? こないだの奴隷商の事後処理まだ終わらないの?」
「ゴフッ!」
アベルが思いっきり藪をつついたのでむせた。
「あら、グラン大丈夫?」
「お、おう。ちょっとむせただけだ」
「ああ、奴隷商の屋敷で麻薬の原料をグランが見つけただろ? あれが見つかったおかげで、麻薬取引の捜査もかなり進んで、オーバロの近くの森でその原料の植物を栽培してるという場所を掴めたと言う話でな。ちょうど担当者がオーバロに来てたから同行して来た」
「へぇ~」
「まぁ、行ってみたらお粗末な畑で、魔除けの結界が壊れて、畑に魔物が入り込んで食い荒らされてたがな。まぁ、植物の一部でもあれば証拠になるし、畑を潰す手間も省けたし、結果良しだな」
あ、それでいいんだ。まぁ、自分とこの国の事ではないし、いいのかな?
「え~、それ魔物が食べても大丈夫な系? 変に凶暴化とかしない?」
「ああ、そこまで強いものでもなく、加工前ならちょっと酩酊状態になるくらいのものらしい」
「ふぅん」
藪から蛇は出なかったようだ。
「ああ、だが畑に入り込んだ草食の魔物を追って来たのか、中型亜竜種らしき鉤爪の跡が残っていたな。地面が踏み荒らされていて追跡出来なかったから、俺達は追跡を諦めたが、近いうちに冒険者ギルドに討伐依頼を出すようだ。町に近い場所に肉食の亜竜がいるのは危険だからな。グラン達は今日森にいたみたいだが、亜竜系は見なかったか?」
「あ、ああ。俺達がいた辺りでは亜竜系と遭遇はしなかったな」
亜竜とは遭遇はしていない。ワンダーラプター君とオストミムス君を、連れていただけだ。
「そうか。まぁ、奴隷商の件も麻薬取引の件も、証拠はほぼ揃って、残るは関係している貴族を摘発して終わりだと聞いている」
「へ~、そっか。それはよかったな~」
藪から蛇が出そうになったが、引っ込んでくれたようだ。
結果的に、オストミムス君が食い荒らしても大丈夫な畑だったようでよかった。中型の亜竜の痕跡も、実物が見つからなければどこかへ移動したと判断されて、討伐依頼は取り下げられるだろう。しばらく森にワンダーラプターとオストミムスを連れて行くのはやめておこう。
オーバロの近くにはダンジョンもあるみたいだし、そっちに行こう!!
その後、作ったポップコーンは結局全て食べ尽くし、予想通りアベルはポップコーンにハマってしまった。
そして、近所迷惑にならずにいつでもポップコーンを作る事ができるように、即席ではあるが"いつでもポップコーン君一号"がその夜誕生する事になった。
ポップコーンにできそうな、硬いトウキビを見つけたら買い込んでおかないとな。
翌朝、ポップコーンをお裾分けした宿屋の人にポップコーンの作り方を聞かれ、昨夜騒がせたお詫びも兼ねて、硬いトウキビを分けて作り方を教えたら、その後早速、厨房からパンパン聞こえて来た。
そして数年後、多くの物品の集まる港町オーバロでポップコーンが流行り、"いつでもポップコーン君・改”がバカ売れして、俺の懐が潤う事になるのを、この時の俺はまだ知らない。
お読みいただき、ありがとうございました。
夜、窓を開けてポップコーンを作る大迷惑男。