塩の町
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「うおおおおおおおおお……塩すげええええええええ!!」
街道から南側に少し離れた場所に見える真っ白な平原を見て思わず声を上げた。まるで雪化粧をしているようにその平原を白く染め上げているのは、雪ではなく塩だ。平原というか塩原だ。
美しくもあり恐ろしさも感じる真っ白い平原が広がっているのを、街道から遠目に見ることができた。
この辺りに来るのは初めてなので、この真っ白い塩の平原を見るのも初めてだ。
「あの白いのは、塩ですか?」
「そうだね。シランドルには塩の平原があると聞いていたけど、実際に目にするとすごいねぇ」
「雨期から乾期に変わる時期だからまだ少しぬかるんでいるが、本格的な乾期になると塩の砂漠というか荒野になる。これから行く町はその塩の平原に最も近い町だ」
「ね、少しこの塩の平原に寄り道してもいい?」
すまない、早くオーバロまで行きたいのだが、この真っ白な塩の平原に興味津々だ。
「言うと思った。でも、俺も塩の平原なんて初めてだし興味あるから行きたいな」
「僕はついて行くだけですので」
「まぁ、せっかく近くまで来たから、ちょっと狩りしていってもいいな」
やったーーーーーー!!!
塩の平原に入る前に、そこへの入り口となっているサルサルという町に立ち寄った。
町の冒険者ギルドに立ち寄って周辺の情報を集めた後、塩の平原に向かうつもりだったのだが……。
町に入って冒険者ギルドに向かう途中に、通りかかった商店街の塩屋の店頭に積み上げられた岩塩に、全力で釣られてしまった。
そして、そのまま店に入り、つい目についた岩塩を次々と買ってしまった。だって、綺麗なんだもん。
「ええ……グラン、そんなに岩塩買ってどうするの? 昔、海でいっぱい塩を作ってたから、山ほど塩を貯めてるんじゃないの?」
「岩塩は、含まれている成分で色も味も変わるんだ。俺が海水を分解して作った塩とは、また違った味が楽しめるんだ。しかもここの岩塩は調合素材にもなるみたいだぞ。サルサル岩塩だって」
【サルサル岩塩】
レアリティ:D
品質:上
効果:殺菌/痛み止め
料理、調合に用いる
サルサル塩原で採れる岩塩。
ほんのりした甘みがあり、苦みは少ない。
また、殺菌作用が強く風邪薬にもなる。
痛み止め効果もあり。
鑑定してみると、薬のような効果まである。これからの寒い季節に風邪をひかないように、うがいにも使えそうだ。
そしてほんのりした甘みに苦みが少ない塩なら、あっさりした料理にとても合いそうだ。
こんなの買うに決まっている。
そしてこのサルサル岩塩、ほんのりピンクなのである。
サルサルの町に来る途中にみた塩原は遠目には真っ白に見えていたが、実際にはほんのりピンクの塩が採れるようだ。
岩塩は含まれる物によって色が変わる。前世でも岩塩は、色によって風味が違っていた事を覚えている。
ほんのりピンクの塩の結晶は、まるで鉱石のようだ。思わず買っちゃったよね。
よし、岩塩も買ったしサルサルの町の冒険者ギルドへ行こう。
そのつもりだったんだけれど……。
このサルサルの町、塩原の傍にあるという事は、岩塩を使った加工品も多いのだ。
塩を使った加工食品だけではなく、岩塩で作られた食器や小物も売っているのだ。
「へー、岩塩で作った食器かー。面白いけど、洗うと溶けちゃうよね?」
「うん、使っているうちに少しずつ磨り減っていって、そのうち穴があくね。でも、器が岩塩だから、料理にほんのり岩塩の味が移るんだ。岩塩のグラスで酒を飲むのもいいぞ」
冒険者ギルドへ向かう途中、食器屋で岩塩を加工して作った皿やグラスを売っているのを見つけ、アベルと一緒に覗き込んでいる。
もちろん俺は買って帰る気満々である。
「グラン、お前この辺り来るの初めてだよな? 岩塩の食器の使い方なんてよく知ってたな」
しまった……。
「お、おう。昔入った料理屋で岩塩の食器で料理が出て来た事があるんだ」
あぶねぇ。昔とは前世の事である。一応昔には変わりないので嘘ではないから、嘘発見機は反応しないぞ。
「ほー、岩塩の食器を使う料理屋なんて、ここら以外だと珍しいな」
「珍しいからつい使い方とか手入れのやり方とか聞いたんだよな。せっかくだからグラスと皿買って帰るかな!!」
岩塩の食器を手に入れる機会なんて滅多になさそうだし、当然買って帰るつもりだったしな。
岩塩のプレートも買って、肉を焼いてもいいなぁ。グラスはお酒以外に、うがい用にも欲しいな。
ラトは酒好きだからこういうの好きそうだよな。お土産にちょうど良さそうだな。
「まーた、グランが買い込んでる」
「いいんだよ、これが大人の特権だ。ジュストのも一つ買っておこうな。俺からのプレゼントだから気にするな。これからだんだん寒い場所に移動するから、風邪をひかないようにうがいしような」
「は、はい! ありがとうございます!」
結局、食器もいっぱい買ったった。
よし! 今度こそ冒険者ギルドだ。
「なんだあれ? 岩塩で作った彫刻かな?」
家具屋のショウウィンドウに飾られていた、精巧な作りの亜竜系の魔物の彫刻が目に入り、思わず足を止めた。
「岩塩を掘ったのかな。すごいね鱗の一つ一つまで作り込まれてて、今にも動き出しそうだ」
貴族故に目の肥えているアベルですら、その出来を褒める程に細かく作られた魔物の彫像。まるで生きたまま彫刻になったように、非常によく出来ている。
「ああ、あれはおそらくシオマネキという魔物の攻撃で、塩にされてしまった魔物だな。ここまで綺麗な状態の物は珍しいな」
ドリーが顎をさすりながら彫刻を見ているが、その口から出て来た言葉は物騒だ。
「シオマネキという魔物は相手を塩にする攻撃をしてくるのか?」
「ああ、大きなカニのような魔物なのだが、時々泡を吐き出してきて、それを大量に食らうと塩になっちまう」
名前からしてカニっぽい気はしたけれど、やはりカニだった。しかし俺が知っているシオマネキとは少し……いや、かなり違うようだ。
そしてカニ食べたい。
なんか物騒な魔物っぽいけれど、カニ食べたい。俺の経験では魔物はだいたい美味しいから、シオマネキも美味しいはずだ。
前世のシオマネキも地方によっては、食べていたしな。きっと、今世のシオマネキも食べられるはずだ。
「そのシオマネキって強いのか?」
「いや? 泡に気をつければ平気だな。泡も大量に浴びるとか、何度もくらうとかしなければ、当たった部分がちょっとパリパリするくらいだ。甲殻類だから少し装甲が堅いのと、ハサミで挟まれなければ大丈夫だ。ああ、後たまに大量の塩も吐き出して来るから、食らうと後で装備の手入れがめんどくさいな」
塩攻撃はちょっと嫌だな。
しかし、塩を吐き出して来るならそれも資源だよなぁ?
カニだし、塩だし、シオマネキって泡だけ注意すればおいしい魔物では?
「グラン、欲にまみれた表情になってるよ?」
「え? カニ食べたい。そうじゃなくて。いやそうだけど。ジュストもカニ食べたいよなぁ?」
アベルが呆れた顔をしているが、カニ食べたいよなぁ?
「カニ食べたいですね!!」
「よし! カニだ!! カニを獲りに行こう!!」
「シオマネキって食べられるのか?」
ドリーが首をかしげている。
「え? カニなのに食べられないのか!?」
「さぁ? 俺はシオマネキは食べた事ないな?」
「まぁ、実物見て鑑定すればわかるよな」
食べられなかったら諦めよう。
つい寄り道をしまくってしまい、サルサルの町の冒険者ギルドに到着するのがすっかり遅くなってしまった。
塩原という特殊な場所の為、他では見ることのないサルサル固有の魔物が多そうなので、まずは冒険者ギルドで下調べだ。
情報収集大事。
ここのとこ、ニーズヘッグといいピンクのクソ鳥といい、前情報なしでひどい目に遭ってばかりなので、情報が得られる時はちゃんと情報収集をしてから行こうね。
ニーズヘッグはいきなりだったし、ピンクのクソ鳥はクックーに冒険者ギルドが無かったから仕方なかったんだ……いや、言い訳はよくないな。
今はジュストもいるからね。冒険者として基本に忠実に行動しよう。
塩原という特殊な場所ということもあって、サルサル固有の魔物の種類が多く、調べているうちにすっかり時間が経ってしまったので、今日はもう宿に入って塩原の散策は明日のんびりという事になった。
お読みいただき、ありがとうございました。
 




