結末を見届ける理由
誤字報告、感想、ブックマーク、評価ありがとうございます。
感想の返信遅れてもうしわけありません!!
毎回ありがたく読ませていただいてます。
デスマーチが暫く続いてバタバタしているので、少しずつ返信返させていただきます。
レイヴンの望みで――いや、正確にはレイヴンが俺に気を利かせてくれたのだろう。
部屋にレイヴンと二人になったタイミングで口を開いた。
「やっぱり気付いてたか。ラトも何となく気付いてそうだなって思ってたけど、気を遣ってくれて助かる」
「やはり、仲間には話していなかったのか」
「まぁな。俺の持っている記憶は必ずしもこの世界で正しく使われるとは限らないからな。それに異質でもある」
自分で言って少し寂しい気持ちにはなるが、そこは自分が普通とは違うのだと自覚しているので、出来ればアベル達には知られたくない。
自分もまたコーヘー君と同じ、この世界で異質な存在なのだ。
アベルもドリーもそれを知ったからと言って、態度が変わるような奴らじゃない事はわかっている。だが、もしもを考えるとやはり言えない。
仲間だと、友人だといいつつ、結局信じきれていない自分が情けない。
ラトやレイヴンは俺が知っているどんな人物や魔物などとも"格が違う"という雰囲気がある。
アベルですら俺のギフト"転生開花"の内容までは見抜けなかった。
しかし、ラトやレイヴンのような存在なら、俺の秘密はバレてしまっていても、おかしくないなとは思っていた。
「うぬ。しかし主は理の下、こちらの世界に生まれた者だ。主のような者は他にもおる」
俺の存在は理の内――異質ではあるかもしれないが、ちゃんとこちらの住人だと言われた気がして少し安心した。
「やっぱり、他にもいるんだな。それで、あの少年は理の外から来た者だという事でいいか?」
「その通りだ。不運な偶然が重なって、こちらに来てしまったのだろう。戻る事が出来るかと言われると難しい」
何となく予想をしていた答えだった。
この世界のところどころに、前世を思い出される物や言葉が残っている。俺と同じように記憶を持ってる者や、あちらからやって来た者がいたという証だ。
「彼は、別の世界から来たって事だな?」
「そういうことだ」
彼がいつどうしてこちらに来たかはわからないが、あちらの常識はこちらの常識とは全く違う。教えてくれる者がいなければ、自分の常識と思い込みの元で行動してしまうだろう。
おそらく十代の少年。夢見がちで純粋な年代。そして俺と同じくらいの時代から来たのなら、ファンタジーな世界に憧れていても、おかしくない年頃でもある。
何も知らないまま、力だけを手に入れてしまったら。
「……っ」
思わず頭を抱えた。
もし俺が、物語の中にあるような単純な"正義"に憧れたまま、この世界に転生してたらどうなっていただろう。
俺にはこちらの世界を知る時間があったが、不幸な偶然が重なってこちらへ来たと思われるあの少年にはその時間があったようには思えない。
レイヴンがあの少年にとどめを刺さず、対話を試みたのも、重なった不運に気付いたからかもしれない。
「あの子供のように、偶然が重なり異なる世界から紛れ込む者は、過去にも稀にいた。そのはずみで、何かしらの力を手に入れる者も少なくない。彼もそうであったのだろう」
カリクスで聞いた話では、その少年は魔物に悩まされている人々を助けながら移動していた。
力だけを手に入れて、事情を何もしらず、憧れの中で持っていたイメージで行動しているのだとしたら?
考えただけでもゾッとする。
まるで物語のように、突然知らない世界に来る事になって、元の世界にはない力を手に入れた。
最初は偶然上手くいって感謝された。
その次もまぁまぁ上手くいった。
更にその次も悪い結果ではなかった。
何も知らない世界で、勘違いを起こすには十分である。
おかしいと気付き始めても、すぐに受け入れる事が出来るほど成熟していない年齢。
偶然はいつまでも続かない。このまま暴走し続ければ、暗い未来しかないだろう。
全く知らない相手に、想像だけで同情するものではないのはわかっていても、やはりあの懐かしい顔立ちと髪の色を思い出すと、見捨てるのに躊躇いが生まれる。
「主が無理に関わる必要はない。この森で起きた事は、我々の手で始末せねばならぬ事だ。ただ、主がここにこうして現れたのは、何か思う所があったのだろう?」
「相手がただの下衆なら良かったんだけどな。たかが同郷の子供だってだけで情を掛けるなんて、やっぱ甘いと思うか?」
「主が甘いと言うのなら、道に迷った子供だという理由で、敵にとどめを刺さずこの体の私も甘いよの」
レイヴンが嘴を鳴らして笑った。
そんなレイヴンを見て溜息をついた。
「その少年がどっちに行ったかわかるか?」
「まだ、森の中をうろうろしておるが、南に向かっておるようだの。私と戦った時の傷でかなり弱っておるな。間もなく南の森に入りそうだが、かの森は古来よりの森、主もおらず力のみが支配する無法の地だ。どうする?」
「行くよ。追いつければ話してみる。それともレイヴン達に任せたほうがいいか?」
「この森から出てしまえば、我々とは関係ないからの。しかし、南に向かうなら放っておけば、南の森の者が始末して終わるだろうよ」
「その方が楽そうだけど、何だか後味悪いな」
苦笑いをして頭を掻いた。
「しかし、あの迷い子はすでに多くの業を負っておる。助けたとて、手遅れやもしれぬぞ」
「そうか、でも行って来るよ」
手遅れだとしても、最後まで見届けておきたい。
「やはり勇者よの」
「ん? 何か?」
レイヴンが何かボソリと言ったがよく聞き取れなかった。
後味悪いの嫌だし、かと言って生き残ったとして、再び知り合いが傷つけられるような事が起こるのも嫌だ。結局は結末を見届けて自分が安心する為なんだよなぁ。
そして、望まぬ結果が待っているにしても、偶然放り出された全く知らない世界で、同郷の子供が誰にも知られずたった一人で消えて行くのを、不運だとか自業自得だとかで片付けれるほど、俺自身が割り切れてない。
レイヴンとの話を終えて、居間に戻って来た。俺と入れ違いにスノウはレイヴンの部屋へ戻って行ったので、今は俺達三人だ。
「話は終わった?」
「ああ。悪い、ちょっと南の森の方に寄り道する事にした。アベル達はここか町で待っていてくれ」
コーヘー少年を探しに行くのは、俺の個人的な感情なので、アベルやドリーに付き合って貰うのも悪い。
俺がコーヘー君を探しに行っている間、アベル達はガンダルヴァ達の村にいても構わないと、レイヴンの許可はすでに貰っている。
「あの子供を探しに行くのか?」
「ああ。俺の我が儘だから付き合わなくていい」
そもそも、米探しもコーヒーの購入も全て俺の我が儘なのだが。これ以上俺の我が儘に付き合って貰うのは、いくら付き合いの長いアベルとドリーでも申し訳ない。
「俺はついて行くよ。グランを一人で未知の場所に行かせるなんて、危険すぎる」
確かに南の森には強い魔物がいるって話だし、行った事ない場所だしな。アベルが心配するのもわかる。
「指名手配者の追跡だからな、冒険者の仕事だ。当然同行するぞ。それに、南の方はAランク級の魔物がうじゃうじゃいるからな、戦力は多いほうがいい」
ドリーは南の方の森行った事あるんだっけ? 知ってる人が同行してくれるのは非常に助かるけど。
「いいのか?」
「うむ。お前らだけでは心配だし、戦力は多い方がいい。しかしあの辺りまで行くとなると川を越える事になるな。森の中から抜けるとなると骨が折れるな」
「ああ、それはレイヴンが馬を貸してくれると言った。アベルとドリーにも借りれるか聞いてみる」
馬は馬でもケルピーさんだけどな。
「馬? こんな森の中なのに? ガンダルヴァの使ってる馬なら平気なのか?」
ケルピーさんなら平気そうだよなぁ。
レイヴンに頼んだら、南の森の付近までケルピーに送って貰える事になった。
ケルピー達の中にも、コーヘー君にやられてしまった者がいたらしい。
先日俺がお世話になったケルピーさんは無事だったようで、今回も森まで送ってくれる事になった。
南の森は強い魔物が多く、ワンダーラプター達には厳しい為、彼等は俺達が戻るまでガンダルヴァの村でお留守番になった。
餌用のお肉を渡して、こっちの方ではあまり馴染みのない魔物の肉をお礼にお裾分けしたら、ガンダルヴァの皆様が快くワンダーラプターの世話を引き受けてくれた。
いざ出発って時に、迎えに来てくれたケルピー達を見て、アベルとドリーの顔が引き攣ってたのは言うまでもない。
わかる、俺も最初はびっくりしたもんね。でも、ケルピーさん案外いい人……いや、いい馬だよ。
お読みいただきありがとうございました。




