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理を外れた者

誤字報告、感想、ブックマーク、評価ありがとうございます。

すみません、遅くなりました。

 朝食を済ませた後、荷物を纏めてスノウの家を出た。

 ここから、アベルの転移魔法で街道沿いの町に戻り、オーバロを目指す旅に戻る予定だ。

 ラミアのおねーさん達も見送りに来てくれた。


「世話になったな。ありがとう」

 預けていたラプター達を引き取って、スノウと見送りに来てくれたラミア達にお礼を言う。

「いいってことさ。また遊びに来ておくれ」

「ああ、またこっちに来る時には立ち寄るよ」

「そうだね。随分お世話になっちゃったからね。ありがとう」

「おかげで随分早く傷も治った。感謝する」

 ドリーが胸に手を当てて、騎士っぽい敬礼をした。


 一番重傷だったのはドリーだからなぁ。あの傷というか、雷魔法による火傷が一晩で治って、動き回れるようになったのは凄い。

 もともと頑丈なドリーだが、それを差し引いても、スノウの回復魔法とラミア特製の薬の効果の高さには驚く。

「これから東の端まで行くんだって? 気を付けてな。もう変な物を食べるんじゃないよ」

 全くその通りだ。アベルもドリーも反論できないのか、苦笑いをしている。


「それじゃ、また――」

「スノウ! スノウはいるか!」

 ラミア達に別れを言って、アベルの転移魔法で出発しようとしたその時に、バサバサと音がして頭上から声が聞こえた。

 声の方を見上げると、鷲頭の男が空中から舞い降りて来ているのが見えた。


 たしか、レイヴンと一緒にいた人かな? 顔の見分けがつかないので、どの人かはわからない。レイブンだけは長らしく、少し派手な装飾品を付けていて、醸し出すオーラが違ったのでわかるのだが、他の鷲頭を見分けるのは人間の俺には難易度が高すぎた。


「おお、お主は先日の人間の。ラミアの里に来ておったのか。いや、そんな事よりスノウ、力を貸して欲しい。レイヴンが人間と戦って負傷した」

「なんだって!? すぐに行くよ!」

 鳥の獣人の慌てた様子と、スノウの所まで助けを求めて来たという状況から考えると、レイヴンの状態は良くないのでは。

 少し一緒に飲んだだけだが、レイヴンはかなりの強者のオーラが出ていた。そんな、レイヴンにそれ程の傷を負わた相手とは……いや、人間にやられたと言ってなかったか?


「レイヴンの具合はどうなんだい? それと、レイヴンと戦った人間は仕留めたのかい?」

「レイヴンは重傷だが、命には別状ない。だが、レイヴンが傷を負ってる今、もう一度あの人間が来ると次はまずい」

「もう一度って事は逃がしたんだね」

「ああ。仕留める前にレイヴンが対話を試みて、反撃に遭った。逃げた人間も傷を負っている」


「ねぇ、グラン。あの鳥の獣人知り合いなの?」

 スノウ達の会話に嫌な予感を覚えながら聞いていると、アベルが小声で耳打ちした。

「う、うん。宿抜けて散歩した日に彼らも一緒に酒飲んだ」

「もうそこは気にしない事にするよ。ところで彼の種族、ガンダルヴァって見えるんだけど?」

 ガンダルヴァは神々の楽師とも呼ばれており、鳥の獣人の中でも古から存在する種族である。

 陽気で奔放な種族だが戦闘能力は高く、他の鳥の獣人とは一線を画す種族であると聞いた事がある。

 レイヴンのあのオーラを思い出すと、ガンダルヴァと言われても納得する。ラトと知り合いって言ってたしな。


 そして、そんな種族の長に重傷を負わせた人間とは。

「取り込み中すまない、レイヴンと戦ったという人間の特徴を教えて貰えないか?」

 答えは聞くまでもないような気がしている。

「黒い髪をした人間の子供だ」

 予想通りの答えが返って来た。

 アベルとドリーに視線を送ると、二人とも頷いた。


 対話のできる獣人にまで手を出したとなると、今度は種族間の問題まで発展する可能性が出て来る。

「俺達もその黒髪の子供と同じ人間だから、信用は出来ないかもしれないが、俺達もレイヴンの所に連れて行ってくれないか? レイヴンの傷が癒えるまで、俺達もその人間の子供の対応に協力させてくれ」

 他国の事なので、あまり関わらないつもりだったが、今回の被害者はラトの友人だ。


「あの子供の行動が、人間の総意だと思われたら困るしね」

「あの子供を捕えるのは俺達も協力する。その上で、その子供の処遇もそちらに任せよう」

 アベルとドリーが俺の言葉に続いた。黒髪の少年の行動を種族間の火種にしたくないと言う、貴族的な考え方だと言うのは俺にもわかる。

 一族の長が人間に重傷を負わされたとなると、ガンダルヴァ達も穏やかではないだろう。

 異国の地ではあるが、人間ではない種族に人間の国籍など関係はない。


「わかった。では、グラン、先日会った辺りに迎えをやる、そこで待て」

「了解」

 こうして、俺達はガンダルヴァの村に向かう事になった。





 アベルの転移魔法で麓の町まで戻り、そこからワンダーラプターに乗って、先日レイヴン達と会った場所を目指した。

 何となくの位置しかわからないけど、近くまで行けばきっと迎えのガンダルヴァが見つけてくれるはず。


 待ち合わせ場所までの道中、ところどころ森の木々がなぎ倒されて、戦闘行為が行われた痕跡が残っていた。あの夜遭遇した猿の魔物の群れにも会ったが、何かに怯えているように木の陰でこそこそとしていた。数も少ないような気がするので、何となく何があったのか察する。


 俺達冒険者は魔物を狩るのが仕事だ。そして魔物の中には人間を襲う物もいる。

 魔物が人間を襲うのは、魔物なりの理由がある。食料の為、縄張りの為、自己防衛の為。中には快楽の為に人間を襲う魔物もいる。

 人間も安全や防衛の為、食料や素材の為に魔物を狩る。そして人間の中にも理由なく魔物を狩る者はいる。

 人間と魔物は、相容れる存在ではない。相容れない存在であろうとも、どちらかが滅べば解決するという話ではない。


 この世界は人間以外にも多くの種族がいる。言葉が通じ対話ができる種族も少なくない。

 この世界は前世とは――平和な日本という国とは違う。世界は決して人間だけが中心で廻っているわけではない。



 だいたいこの辺だろうという辺りをウロウロしていると、あの時にいたらしいガンダルヴァが迎えに来てくれた。

 やっぱり誰だったかまでは見分け付かない。さっきの人より翼がちょっと黒い気がする? その彼に案内されて、ガンダルヴァ達の集落に到着した。


 ガンダルヴァの集落は森の木々の中にあり、その木の上に住居が作られていた。

 その中でも一番大きな木の上にある、大きな家へと案内された。

 見るからに"族長の家!"といった感じなので、そこがレイヴンの家なのだろう。

 



「おお、グランか。来てくれたのか」

 肩から胸にかけて包帯を巻いており、片翼がボロボロになって痛々しい姿だが、意外と元気そうな声のレイヴンが、ベッドの上で座っていた。その横には、レイヴンの手当をしたと思われるスノウがいた。

「突然押しかけてすまない。一緒にいるのは仲間のドリーとアベルだ」

「よく来た、こんな姿で申し訳ないが、ゆっくりして行ってくれ」

 俺達と同じ人間にやられたというのに、先日と変わらぬ友好的な態度だった。

「もし良かったら、レイヴンが戦ったという人間の子供について教えてくれないか」

「うぬ。お主にならあの子供の件、任せても良いぞ」

 レイヴンは意味ありげに目を細めた。



 レイヴンの話によると、森にやって来た少年が、俺がレイヴンと出会った辺りまで迷い込んで来たらしい。

 そこまでの道中で、俺と同じく猿の魔物の群れに襲われたようで、彼は俺と違い反撃をして多数の猿の魔物を殺したようだ。

 猿の魔物の縄張り内だったが、襲われたなら返り討ちにするのは仕方のない事で、それだけならよくある話だった。


 その後、その少年は更に森の奥地へと進み、次々と魔物を狩り始めた。

 その数があまりに多く、ただ殺すだけという行為だった為、レイヴンが少年の元へと向かったそうだ。

 レイヴンは少年を打ち負かし、とどめを刺さずに対話を試みようとしたが、その時に反撃され逃げられたそうだ。

 少年の持っていた光魔法で作られたと思われる剣で斬られたという傷は、傷口の周囲が焼け焦げていて非常に痛々しい。

 時間はかかるが完治はするとの事で、その事は一安心だ。


「すまない、俺達と同じ人間が――」

「いいや、主らが謝ることではない。同じ人間だとしても、あの子供の行動が人間の総意だとは、我々も思ってはおらぬ」

 ガンダルヴァは人間より、ずっと古い種族だし、ラトと修行仲間だというレイヴンは俺達より遥かに年上だ。そう考えると、種族間の関係については俺達より遥かに詳しいし、達観もしているだろう。


「それにあの子供、理を外れた者だな?」


 猛禽類の鋭い視線が俺の方に向けられた。


「しばしグランと二人で話したい。他は席を外してくれぬか?」


お読みいただき、ありがとうございました。

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