女の子達のアオハル
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「ほええええええええ……ホントにしょっぱい! 海は塩味!! ええ……終わりの見えない水? 全部塩水? つまり塩? ほえええええええええええ……どこまでも塩? 海産物だけではなくて、塩も!? ほええええええええええ……ひえええええええええええ……想像できない……海の価値が無限大すぎて想像できない……」
「そうですわ、海は人間の想像を遥かに超える広さで、その周囲には漁業以外にも海に関係する産業が発達し、それらが生み出すものは沿岸部だけではなく国全体を支え潤しているのです。海水より塩を製造する産業もその一つ。塩は人間にとって不可欠なもの、製塩産業に携わる方々は人々の命を支えていると言っても過言ではないのです。そしてここフォールカルテも製塩産業が盛んで、製造された塩を各地に運ぶためにプルミリエ侯爵家は陸と海の運送業に非常に力を入れておられる家門なのですの」
「あ、それは僕も聞いたことがあります。ユーラーティア王国東部の運輸網は、プルミリエ侯爵家が中心となって今の体制を作り上げ定着させたと。またプルミリエ侯爵家はオルタ辺境伯家と共同で東の隣国シランドルとの交易にも力を入れている――と、商業ギルドの講習で習いました。東部中心とよく言われてますけど、プルミリエ侯爵領周辺であるユーラティア東部が特にというだけで、ユーラーティア王国全体の運送業に大きな影響力を持っていると聞いてます」
「その通りですわ。さすがキルシェ、よくお勉強されておられますわ。ユーラティア王国で運輸業に力を入れられている家門はいくつもございますが、所有のキャラバン隊および船の数もその質も戦力も、全てにおいてプルミリエ侯爵家が頂点ですかねぇ。侯爵という階級の家門ではありますが、過去に王家の血も入っておられるお家でもあり、ユーラティア王国建国期から王家派の家門でもありまして、下手な公爵家よりも王家や国全体への影響力をお持ちの家門ですわね。しかもここ数年では、庶民向けの産業や娯楽産業にも進出され階級を問わず人々の生活に大きな影響と変化を与えた――と、習いましたわ」
ユーラティア王国東南部に位置するプルミリエ侯爵領の夏は長い。
内陸部であるピエモンはすでに秋の気配がしているというのに、フォールカルテ近郊の海岸はまだまだ夏の雰囲気。
エメラルドグリーンの海を臨む白い砂浜に、キルシェのほええええええが響き渡る。
キルシェがセレちゃんの授業に合流した後は、フォールカルテ郊外の海岸に移動して野外授業。
内陸部であるピエモンで生まれ育ったキルシェは、海を見るのが生まれて初めて。
そしてこの反応。
予想通りの微笑ましい驚き方の中に、商人的発想が混ざっているのはキルシェらしい。
そんなキルシェにセレちゃんが沿岸部の産業について話始め、年頃の女の子二人が海辺でアオハルな雰囲気になるかと思ったら、海を目の前に二人とも真剣な表情で勉強会のような空気になってしまった
行商人として各地を巡りたいという夢のために、パッセロさんと約束した冒険者ランクCを目指しているキルシェも今回は一緒に俺達の授業に参加して、今はその授業の真っ最中なので勉強会のような空気になるのは間違ってはいないのだが、せっかく海に来たのだからもっと海でキャッキャウフフフしてもいいのに。
むしろ女の子達がキャッキャウフフフする光景からしか得られない栄養素を俺にたくさん与えてほしい。
というわけで、今日は主役の女の子達にたっぷりキャッキャウフフフしてもらいながら、冒険者活動として最も重要なことの一つを学んでもらおうと思っている。
キャッキャウフフしながら学べる冒険者活動にとって最も重要なこととは――。
「ほら、セレもキルシェちゃんも話に夢中になってるのはいいけど、ちゃんと魚釣りはできそう? 魚がダメなら、カニやエビでもいいよ。砂の中にいる貝は捕まえやすいけど、砂を抜かないとジャリジャリするからすぐに食べるのには向いてないね。ふふ……でもね、自分で手に入れた食材を自分で調理して食べることができるなら、もしもの時に生き延びる手段になるからね。セレもキルシェちゃんもしっかり覚えて帰るんだよ」
「釣るのがダメなら、手で捕まえてもいいぞぉ。捕まえたやつはグランが料理をしてくれるから、それをしっかり覚えるんだぞぉ? 冒険者にとって……いや、生き物にとって食事は最重要事項、肝心な時に腹が減って力が出なくて苦戦ってのは避けたいからなぁ」
「腹が減っては戦はできぬ――どこかの国の昔の人がそう言っていたらしいが、まさしくそう。食事は冒険者の基本。俺達の回りには食材になるものはたくさんある。だけどその調理法を知らなければ美味しく食べられないどころか、毒になるものだって少なくない。きっとこれは冒険者活動以外でも、もしもの時に役に立つ。今日は、食材を調達して美味しく食べることをしっかり覚えてもらうぞ」
今日の授業は、冒険者にとって最も大事なことである食事の実習!
食材を調達し、自分達の手で食べられる状態にし、実際に食べてみる実習!
つまり調理実習だーーーーーー!!
いつぞオルタ・クルイローのリサイクルショップで俺と一緒に選んだ装備を身に付けたキルシェと、いかにも女騎士(見習い)といった感じの上品な装備を身に着けたセレちゃんが、並んで海に向かい食材集めを始めようとしている姿を後ろから見守るアベルとカリュオン。
その後方では、野外用の調理機器のセッティングしながら、女の子達のアオハルシーンをひっそりと期待している俺。
そして更にその後方では――。
「これはアオハル……確実にアオハルの予感ですわ。あっちもこっちも尊みで溢れるアオハルの予感がしますわ……」
リリーさんが俺の考えていることを代弁するかのような独り言を漏らしている。
このアオハルの予感がする光景を心ゆくまで見送りたいところだが今は授業中、仕事としてここに来ている俺はそろそろ真面目に自分の役割に戻らなければならない。
そしてリリーさんも。
「リリーさん、調理器具のセッティングは終わったから、俺達で調理するものの調理にとりかかろうか」
「え? あ、はははははい! 料理は嗜み程度ですが、グランさんの足を引っ張らないようにがんばります!」
「足を引っ張るも何も、これを湯で温めるだけだろ? 確かにこの携帯食は本格的な調理器具がなくても、料理が得意じゃなくても、温かい料理を出先で手軽に食べることができるな。さすがリリーさん、すっごいものを考えついたなぁ~」
「ほほほほ、お褒め頂き光栄ですわ。食は生存の基本、そして人生の娯楽。いつでもどこでも美味しいものを食べたい、どうせ食べるなら少しでも美味しいものを――と思うのは誰も同じだと思いますわ。危険な場所で活動される方々だからこそ、その活力のために美味しいものを召し上がってもらいたいと思いまして、こちらのお湯で温めるだけの携帯食を開発いたしましたの」
今日の授業は調理実習――とそれと並行して、リリーさんの開発した携帯食の試食。
アベルが始めようとしている商会で取り扱う予定の、冒険者向け携帯食の試食を。
俺やアベルのような収納スキルやその類の魔法を持つ者、もしくは時間魔法がかかっているような高性能のマジックバッグを所有しているようなものならば野外での食事事情はかなりよくなるが、そのレベルでの収納スキル持ちも高度な空間魔法と時間魔法の両方を使いこなせる者もそう多くなく、それほどの性能のマジックバッグは豪邸が買えてしまいそうな値段になる。
使えたとしても容量が少なかったり、中身の時間はしっかり経過したり。
かりに使えたとしても、食事よりも冒険者活動のための必要物資や冒険者活動の戦利品を持ち運ぶことが優先になる。
そのため食事は必要なものを効率良くとなり、場所を取らず軽い乾物系の保存食が増える。
それはそれで嫌いではないのだが、それだけではやはり食事として寂しい。
いつ死ぬかわからない危険と隣り合わせの冒険者だからこそ、その食事が最後の晩餐になるかもしれないから、できるだけ美味しいものが食べたい。
俺もそういう想いから、ちょこっと容量を食うことになっても収納に料理や食材を詰め込んでいた。
子供の頃から鍛えまくった収納スキルのお陰で容量には多少余裕もあったので。
だが冒険者の多くはそうではない。
出先の食事は保存食を簡単に調理した質素な食事。それが最後になる者もたくさんいる。
そんな冒険者のことを考えた手軽に美味しい携帯食をリリーさんが開発したということで、今日の調理実習はその携帯食の試食会を兼ねることとなった。
その携帯食というのが――。
停滞の魔法がかかったポーション瓶に詰め込まれた料理。
停滞魔法の効果の源となっている封印の紙テープを切って、瓶ごとお湯で温めるだけ。
その料理というのは、挽き肉をたっぷり入れて煮込んだミートソース!!
ミートソースの瓶をお湯に入れて温めて、パスタを湯がいてかけるだけでお店のパスタの味!!
パスタがなければパンを浸して食べてもいいし、少し薄めてスープとして飲んでもいい!!
すごい! お手軽! 前世にあったレトルト食品みたい!
お読みいただき、ありがとうございました。




