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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第十三章

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最終日はサプライズ

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「お待たせ、戻ったよ」


 アベルが戻ってきたのは、セレちゃんの冒険者活動記録と、活動中に気付いたことや興味を持ったことを纏めたレポートに目を通し終わった頃だった。

 女騎士さんに先導されたアベルが、自然な仕草で部屋に入ってくる。その背後に隠しているサプライズをセレちゃんに勘付かれないように。


 アベルの背後――部屋の扉の外側、俺やセレちゃんからは死角になる位置。

 俺のよく知っている気配がすごく緊張した感じで、同時にこれから起こることを心待ちにしている感じで、すごく落ち着かない様子つまりすごくそわそわしながら、その時を待っていることに俺はすでに気付いていた。もちろんカリュオンも。 


 一方セレちゃんは、その気配にまだ気付いていない。

 ははは、安全だと思われるお屋敷の中だから気が抜けているのかなぁ?

 お嬢様としてなら構わないが、冒険者としては失格だぞぉ?

 そろそろDランクへの昇級試験に挑もうってところまできているのなら、周囲の気配には常に気を配る習慣を付けておかないといけないぞぉ?


 Dランクからは町の外での仕事が増える。

 町の外、つまり魔物が獣が出没する場所での仕事が増えるということ。

 町の周辺は警備も厳重で、魔物の数は少なく強い魔物も滅多に出没しないといってもゼロというわけではない。

 そしてどんなに弱い相手であっても、奇襲をされれば深刻なダメージを負う可能性は高く、それが致命傷になる場合もある。

 周囲の気配を見落としたことによる奇襲への対応の遅れは、経験の浅い冒険者の重大事故の上位である。

 見落とす原因は気の緩み。


 ここが信用のおける上位貴族の屋敷で絶対安全であったとしても、日頃から周囲の気配を気にするようにしておけば、それは癖となって体に染みつき無意識でも周囲の気配に敏感になる。

 死というものが近い場所にある職業だからこその自衛。一瞬の気の緩みで一生が終わることも珍しくない故に、生き延びている者ほど体に染みついている癖。

 どんくさアベルだって、何だかんだで平均的な冒険者より気配には敏感である。俺の記憶では出会った頃からすでに。


 平和で安全な場所で暮らしているのなら不要かもしれないが、あれば”もしも”という時を救ってくれるかもしれない技術と心構え。

 せっかくもうすぐDランク、危険な場所へ踏み込むことを許される能力があると認められる直前まできているのなら、冒険者活動をこの夏の思い出で終えるとしても身に付けた能力を今後に活かしてほしい。

 もしかするとそれがセレちゃんを救うかもしれないから。

 俺の先入観と想像でしかないけれど、身分の高い者にしかわからない危険はたくさんあると思うから。


 だから、扉の向こうにいるサプライズに気付いていないセレちゃんは、後でアベルにネチネチ言ってもらわないといけないなぁ。

 俺が頼まなくても、アベルはネチネチ言いそうだけど。


 でもその前に。


「アベルお兄様、お戻りになったのですね。お腹の調子は大丈夫ですの?」


「うん、ただいま。って、え? お腹? 調子? ………………………………………………グラン?」


「いやぁ~、急にお腹が痛いとかってトイレに駆け込んでたけど、もう大丈夫なのか? そういえばアベルは、今朝もトイレで大絶叫してたな? いやぁ~。朝から辛そうだったもんなぁ~?」


「く…………少し時間を稼いでおいてって言ったけど、そういう………………………………………………………………後で絶対に仕返しをしてやる」


 部屋に入ってきたアベルを迎えるセレちゃんの言葉にアベルが怪訝な表情となり、一呼吸ほどの沈黙の後にスッと目が細くなり、俺の方にグサグサと刺さるような視線を向けた。

 それがあまりに予想通りの反応で、極々自然に口の端が上がり笑顔となる。

 ついそのまま声を出して笑いそうになったが、そこは我慢をしてサプライズの登場までネタバレ回避に尽力する。


 決してアベルを煽っているわけでない。セレちゃんに最高のサプライズを届けるための行動である。

 ついでに話に信憑性を持たせるため、今朝のトイレで絶叫事件の話も付け加えておく。

 嘘というのは、時々本当のことを混ぜると真実味を帯びてくるものなのだー。


 賢いアベルは俺の言葉で状況を全て把握したようで、セレちゃんから見えない角度で、セレちゃんには聞こえない小声で、ギリギリと歯ぎしりをしながら俺にとって物騒な独り言を漏らしている。

 ははは、くるとわかっている仕返しなら回避してやるぜー。


 それより今はサプライズの時間だ。

 アベルもそれをわかっているので、セレちゃんから見えない角度で般若のような表情で俺を睨んでギリギリしているだけ。

 あー、楽し。


 アベルを煽るのが楽しいのではなくて、サプライズを前にしたこの状況が楽しいのだよ。

 アベルを煽って楽しいのはただのオマケ。

 あー、楽し。


「そ、そうだね。ちょっと調子が悪くて気分は最悪だけど、プルミリエ侯爵家にいる間に頑張ってたセレにプレゼントを用意してきたんだ。Dランクの昇級試験手前まで来てるって聞いたけど、熟練冒険者の俺の目から見てまだまだ一人前には程遠いし、相変わらず心構えも足りてないみたいだけど、冒険者活動をして見て気付いたことをセレなりの視点で掘り下げて考察してたことは褒めてあげる。だからご褒美。今日は――最後の授業は彼女も一緒に、冒険者活動の実習をするよ。キルシェちゃん、こっちにおいで」


「は、はいっ!」


 こういう時くらいデレデレに褒めればいいのに、相変わらずツンが混じりアベル。

 そしてご褒美。


 部屋の外を振り返ったアベルが呼んだ名は、俺もよく知っている名。

 帰ってきた返事も、すごく緊張しまくった様子で上擦りまくっているが俺のよく知っている声。


 アベルの言葉と返ってきた声に、キョトンとなるセレちゃんの表情はちょっぴり予想通り。

 そしてそのキョトンとした顔が一度驚きへと変わり両手が口に添えられた後は、サプライズが姿を見せると思われる方向――アベルの後方へ、視線が釘付けになる。


 そして――。


「キルシェ!?」


「セレちゃん、お久しぶりです!」


 アベルの後ろからキルシェが緊張でいっぱいの表情をした顔を出した瞬間、セレちゃんの表情が大きな花がパアアアアッと咲くように歓喜に充ちた笑顔になった。


 サプライズとはキルシェ。

 セレちゃんが冒険者になりたいと思ったきっかけ。


 初夏の頃、王都で出会い仲良くなった二人は、あれから冒険者ギルドを通して”頻繁に”手紙のやり取りをしているらしい。


 俺は気付いている。

 物流が前世ほど発達していないこの世界、ピエモンとフォールカルテほどの距離を数ヶ月の間で手紙を何度も往復させることは一般的にはほぼ不可能だということを。

 そうだなぁ……冒険者ギルドの運送サービスを利用した場合、ピエモンとフォールカルテほどの距離なら片道半月程度。いや、事務処理や運送サービスの馬車便を考えると一月はかかるだろう。


 セレちゃんはキルシェと文通をするために冒険者ギルドに登録をしたが、冒険者ギルドの運送サービスだとこのペースでの文通は無理だよなぁ?


 キルシェはピエモン周辺の地理しか詳しくないから、フォールカルテまでの距離なんてきっと全く実感がない。

 むしろフォールカルテという町がどこにあるか知っているかもあやしい。

 セレちゃんはお嬢様だから、平民の利用するような運送事情なんてわからないかもしれない。

 だから二人とも気付いていなくてもおかしくない。


 なぁ、アベル? ツンツンしているけれど、転移魔法っていうチートを持っているお前なら何か知っているのじゃないか?

 ツンツンしているけれど、意外と兄弟のことは大好きだよな。



 そして今日もそのチート転移魔法で、サプライズをセレちゃんのところに連れてきた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
アベル家って兄弟仲はすこぶる良いよなぁ。親子間は最悪だけど。
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