閑話:無意味で無価値な日々の始まり
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「くしゅんっ! くしゅん!」
「どうした? 風邪かぁ? って、何でナチュラルに俺達と一緒にいるんだ? 冒険者なんかにも登録しちゃってよぉ」
「カゼ? ああ、風邪ね? 僕は病気になってならないから、風邪にもならないよ。え? ここにいる理由? 冒険者? そうしたいと思ったから? 自分のやりたいことに理由を求めるなんてナンセンス。それがやりたいからやるだけ。僕がここにいるのは、君達と一緒にいたいだけだし、君達が冒険者ってやつをやってるのを見てたらやってみたくだっただけ」
「風邪をひかないどころか病気にならないって羨ましいな、おい。一緒にいたい? 俺達がやってたから? どんなにお綺麗な顔でも、男に言われてもなぁ……ま、悪い気はしねーが」
「風邪じゃないなら、誰かがどこかでお兄さんの話をしてるんだね」
「僕の? 誰かがどこかで僕の話を?」
「うん、風邪でもないのにクシャミが出るのはどこかで誰かが噂をしてるからだって、妖精の言い伝えにあるんだ」
「ふぅん? 僕の話をするような奴なんていないと思うのに。僕は誰からも信仰されることのなかった無価値の神だからね。神だった頃も、無価値な失敗作だと神でなくなった今も、地上の者達は僕という無価値な神がいたことなんて知らない――だって僕は信仰する価値などない神だから。そうだね、僕の話をする奴なんてせいぜい僕の兄弟とその友達…………彼らは僕のことを避けていたから、僕の話なんかしないな。弟……は寝てるし、妹くらいなぁ? でも、その妹も僕と同じくらい他の兄弟から避けられてたからね、話をする相手なんて双子の片割れの弟かシュペルノーヴァくらいしかいなさそうだし……うーんうーん、誰だろう僕の話をするなんて。ふふ……でも僕の話をするってことは、彼らにとって僕は話題にする価値がある存在ってこと……ふふ、悪くないね。特定してお礼に行かなきゃ☆」
今、神って言った! サラッととんでもない自己紹介をした!
間違いなく人間ではないことは確信していたが、とんでもないことを当たり前のように言いやがった!
しかもなんかとんでもない名前が混ざってた! 途中からものすごく湿度が高くて粘着質で不穏な独り言になっていたけれど、一般的な人間には全く縁がないとんでもない竜の名前が混ざってた!!
ほぼ独り言の中に登場した妹ってのも、その双子の片割れの弟っていうのも、間違いなく一般人が関わることがないような存在に違いない。
もしかしたらその双子ってのも、シュペルノーヴァのような誰でも知っている伝説みたいな奴か!?
神話や宗教に疎い俺でも知っている有名どころのそういう存在で双子といえば――アスタロトとアスタロス、メタトロンとサンダルフォン……だめだ、その手の話は疎すぎて全然思い付かないな。
思い付いても、どういう伝承の奴らかなんてさっぱり記憶に残っていないな。
もちろん、俺の目の前――安居酒屋で俺達と一緒にテーブルを囲んでいる、明らかに場違いなキンキラキンの美形も、俺の知っているそういう存在の名の中にはない名だった。
そういう存在が、どうしてだか俺の前にちょくちょく姿を現すようになったのはここ一月くらいのことだろうか。
ぶっちゃけ、人間とは格の違う素材ということは肌で感じ取っていた。故に、あまり関わりたくないと心底思っていたのだが、向こうからこられたらどうしようもない。
それがだいたい飯時。
二、三回続くとこいつが飯時に現れるのが当たり前のようになり、いつの間にか飯以外の時――仕事中にも現れるようになり、自分にとって無価値なことをやりたいとかいって冒険者に登録し、ほっぽっておくととんでもないことをやらかしそうな予感しかしないので、冒険者のあれこれを教えながら奴のランク上げに付き合っているうちに共に冒険者活動をするようになり、気付はこいつが一緒にいるのが当たり前のように思えていた。
そして元々そういう存在で、今はそうではなくなった者――創世の神に反逆し世界の底にあるという氷の地獄に落とされた元神々は邪神だの悪魔だのと呼ばれている。
つまりそういう存在ではなくなったとサラリと語ったこいつは、邪が付く方のそういう存在ということだ。
あれ? これってもしかして、邪神に取り憑かれたってやつでは?
いやいやいやいやいや、きっとただの気まぐれだな! すごく気まぐれそうな奴だし!!
…………………………………………さっさと飽きてどこかにいってくれええええええええ!!
うちにはすでに手の焼ける妖精のパックがいるので、手の焼ける人外は間に合ってます!!
――ふふ、退屈凌ぎでできそうなことを教えてくれた君達のことはちょっぴり気に入ったから、僕のことをアルと呼ぶことを許してあげるよ。
この反面の男がそう言ったのは、こいつに付き纏われ始めて数日後。
こいつが冒険者をやってみたいと言いだし、不安いっぱいすぎてつい冒険者登録と初心者講習に付き合ってやった後から。
まずそのキンキラキンの髪の毛。どう見ても目立ちすぎ、お日様が歩いているのかってくらい眩しい。
でも金色は金運が上がりそうで大好きだから、少しおとなしめの薄金髪くらいに見える魔導具でも付ければいいのではないかと、以前田舎の雑貨屋で買った髪の毛の色の変わるヘアピンをくれてやった。
小っこいくせに髪の毛の色を変えるなんていうとんでも魔導具が、何だって田舎の雑貨屋で売られいたかわからないが、相場よりやや安めだったので何となく買ってしまった。
制作者がいる日なら変化後の髪色の要望を聞いてくれるらしいが、残念ながらその日は不在。
たしかパックと出会う直前――そうそうパックと出会った、あの赤毛の家から近いピエモンって町のそこそこ繁盛していそうな商店だったな。
嫌がるかなぁって思ったら、なんかよくわからないが機嫌良さそうに前髪に付けて、無事眩しすぎない薄金髪になった。
自分が強すぎるからすぐ付与は消えてしまうけれど、ヘアピンが気に入ったから付けておくとか言って。効果が消えたら自分で、他者からは薄金髪に見えるようにしとくんだとさ。
それってペアピンいらなくね? と尋ねたら、理由はないけれど何となく欲しいからいるといって、ペアピンは奴の前髪にくっつくことになった。
でも、そういうのあるよな。いらないもんだけれど、理由なく手元に置いておきたいもの――自分にしか価値がわからないものってあるよな。
それからその顔の右側――目の周辺だけを隠す仮面。
それ、格好いいよな。男ってやつは、やっぱそういう格好いい仮面に憧れるんだよな。
でもそれ、すっげー目立つんだよなぁ……理由あって右目を隠しているみたいだけれど、目立ちすぎるよなぁ。
かといって隠しようもないし、まぁいっかー。男はちょっと目立つくらいが、格好いいもんな。
と格好いい仮面は、気にしないことにした。
奴が付けている仮面のことを格好いいといったら、お気に入りの弟がくれた大切なものだと超笑顔で教えてくれた。
だったらやっぱり、隠さないで見せびらかした方がいいな。
そして無事冒険者登録と初心者講習を済ませ、アルは無事に冒険者となった。
登録にいった時たまたまギルド長が受付にいて、何故かアルの登録作業をギルド長がやってくれた。
ぶっちゃけ王都の冒険者ギルド長は苦手なんだよなぁ。何というか、本能的な苦手意識。
圧倒的強者というのは何となく気配でわかる。それがわかなければ、盗賊なんてやっていられない。相手を見誤れば、あるのは死だから。
そんなギルド長がマジマジとアルを観察するからアルが何かしないかちょっぴり不安だったし、あのギルド長ならアルが人ではないことに間違いなく気付いているはずでどういう対応をするか全くわからなかったのだが、ギルド長はしばらくアルを観察した後、アルの冒険者としての活動条件に俺の同行という条件が付け冒険者登録をした。
おいいいいいいいい!? パックにもその条件が付いているよなああああああ!?
何だそれは!? 俺は人間社会一年生の人外達の保護者か!?
しかもそれをアルの奴も、俺が冒険者だから登録してみただけなので、俺と一緒じゃないと意味がないからそれでいいなんていうから、結局その条件で落ち着いてしまった。
でもアルが人間社会のルールに沿って冒険者活動ができそうなら、この条件は外れるらしい。
……その条件が早く外れるように、俺が頑張るしかないのか。
こうしてアルが冒険者になった直後、王都地下水路の大規模清掃が行われることになり、俺もパックもアルもそれに参加。
アルとパックが途中で掃除に飽きて魔法で浄化しようとするのを、ここは不要なものや汚いものが溜まっていることに意味がある場所だからと、全力で止めていたら――ここ最近のち超得大ニュース、馬鹿でかい二隻の古代竜襲来&大乱闘事件が起きて、アルもパックもそれに気を取られて王都地下水路の程よい汚さと平和は守られた。
ありがとう、古代竜達!!
で、その後は古代竜の襲来の影響で、体調を崩した者も多く出ただけではなく、あちこちで魔導具が故障しまくって、王都は復旧で大忙し。
日々、役人や騎士達や衛兵が町を走り周り、竜生植物や古代竜から落ちた鱗の噂を聞いた者が他の町から集まってきて、古代竜襲来なんていう実質災害後なのに王都は大賑わい。
そんな日々の中、あっちこっちに生え始めた竜生植物の採取依頼、そして王都の上空で乱闘を繰り広げた古代竜から落ちた鱗探しの依頼を日々こなしている。
気まぐれすぎる妖精のパックと、自称無価値な元神のアルと。
仕事が終わればこうして三人で安居酒屋に入って適当に飯を食って、宿に戻って寝る。
フラッと現れるだけだったアルも、今は俺と同じ宿屋に泊まっている。つーか、目を離すのが恐いので同じ部屋にしてもらっている。
面倒くさくはあるが、この賑やかさは嫌いではない。
むしろ一人でコソ泥をしていた時より楽しいような気もする。
あの頃の方が自由で気ままで、面倒なことなんて全部スルーでよかったのに。
やらなくていいこと、付き合わなくていいこと。
冷静に考えれば、損の方が多そうな今の状況――まさに無意味で無価値どころかマイナスかもしれない。
でもそれが悪い気がしない。
無意味で無価値――。
この世には価値がないといわれるものなんてたくさんある。
だけどそれは見出されていないだけのものの方が多いだろう。
だからその価値が見出された時、それはそれまででは考えられないほど価値が跳ね上がることがある。
無価値とは、それ以下には価値が下がらないもの。
これから上がるしかないもの。上がらなくも全く損はないもの。
それだけでも価値のある存在じゃないだろうか。
つまりそれは、これからどうなるかわからないだけの希望ってやつの種かもしれない気がした。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回から新章です。




