これからもよろしく
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作った。すごくたくさん作った。
すごくよく寝てスッキリしたらすごく家のことを、特に料理がしたい気分になって、その衝動を抑えきれなかったから。
作れば作るほど思い出し思い付く、作りたい料理の数々。
思い出すことを恐れなくなった俺の頭の中に、容赦なく次々と蘇るサンマの美味しい記憶。
思い出せば当然食べたくなり、それを実現するためのサンマはカメ君にたくさん貰った。
もうやるしかなかった、止まることができなかった。
今世の俺は、欲望に素直な性格なのだ。
だから欲望の赴くままに作った。
そしてその分つまみ食いをした。つまりたくさんつまみ食いをした。
つまみ食いが昼ご飯とおやつになるくらいに。
そして出かけていたみんなが帰ってきて夕飯の時間。
「く……グランから食べ物のにおいがしたからつい自分も食べたくなったけど、魚は骨が面倒くさいから苦手なんだった。油断すると口の中に刺さるし……くそ、空間魔法で骨だけ転移させたいけど、骨の正確な位置がわからないから失敗すると魚の身が崩れそう」
「サンマってやつはこうして箸で軽く上から身を押さえるか、もしくはこうやって胴体の部分を背と腹から箸で軽く挟んで全体的にほぐしてから身の真ん中に箸を入れると――ほら、ポロンっと身が取れた。これで背骨とそれにくっ付いてるでっかい骨は簡単に取れるんだ。小さい骨はそのまま食べても大丈夫だ。で、これに醤油をかけたララパラゴラ下ろしを乗せてぇ……はぁぁぁ~んまぁ! あぁ~、やっぱサンマは、お腹いっぱいでも無限に食べられる気がするぅ~」
「お腹いっぱい? 夕飯を食べ始めたばかりなのに? グラン? また何か食べてたの? 俺のいない時に?」
「アッ!? いや、食べたというか味見しただけだよ。そうそう、味見。たくさん寝たからすごくスッキリして、すごく料理を張り切りたい気分でたくさん作ったから――ほら、今日の夕飯はすごく豪勢だろ? それだけ味見の量も増えただけだよ。そうそう、美味しい料理には味見は欠かせないのだぁ~……う、でもさすがに揚げ物はちょっとクるものがあるな」
「アッ! その反応、絶対に味見とかつまみ食いって量じゃない量を食べた後でしょ! ほら、そこの青と緑と焦げ茶のチビッ子達の反応を見れば明らかだよ! 食い意地が張ってていつも我先に好きなものを自分の皿に山盛りにしてるのに、今日はすごく大人しいよ! しかもお腹がポンポコリン……いたっ! いたっ! いたっ! 食事中に色々投げつけないで! 赤い子も、君がいない間に抜け駆けをしてた子達に文句くらい言っていいと思うよ!」
「ゲッ!? ゲゲゲゲゲゲレゲレゲレゲレゲレ!!!」
「カメッ!? カメカメカメカメ……」
「キエッ!? キエキエキエキエ……」
「ズモッ!? ズモモモモモモモ……」
「ジュストも家にいたはずだけど、まさかジュストを仲間外れになんかしてないよね?」
「それは大丈夫です! お昼ご飯は――これです、これこれ! サンマの揚げ焼きでした! 午後から作っていたメニューは夕飯の時まで楽しみを取っておこうと思って、僕はつまみ食い……いえ、味見には参加しませんでした!!」
「そっかぁ……味見ならしかたないねぇ。ちぇ、兄上のところに行くのは一日遅らせて、俺もつまみ食いに参加すればよかった! 俺だってグランの作った料理をお披露目前に食べたいから、今度つまみ食いをする時は俺がいる時にしてよね!! あ……ホントだ、グランの言ってた方法でやると魚の身が綺麗に取れた。へぇ、これなら魚の身の中に混ざってる鋭い……骨も一目でわかるね」
そしてあっさりバレた!
馬鹿なっ!?
料理をしていたのだから俺達ににおいが染みついているのは当然で、今回はにおいでバレることはないと思っていたのに!
俺のついうっかりな発言からつまみ食いの気配を察知し、つまみ食いでお腹パンパンになっていていつもの勢いがないカメ君達の様子でそれを確信する。
更にはチビッ子の中で唯一つまみ食いに参加できなかったサラマ君をけしかけて、テーブルの上でサラマ君と三チビッ子の睨み合いが始まってしまった。
しかもジュストに話を振れば、素直なジュストがありのままを答えるのはわかりきったことだろ!?
汚い! それは汚いぞ、アベル!!
くそ! 名探偵アベルめ! 策士アベルめ!
とりあえず、ごちゃごちゃ言っていないで食え。
つまみ食いをしたのは、テーブルに並んでいる料理だけだから安心して食え。
うちに居座り始めてからすっかり上達した箸使いで、俺が教えた通りサンマの身をほぐして食え。
このやり方なら鋭い骨はスルってだいたい取れて残ったのもちゃんと見えるし、身に埋まり込んで残っている小骨は食べても大丈夫だからとりあえず食え。
今日の夕食は予定通りサンマづくし。
あれもこれもと思い出しているうちに、どんどんメニューが増えてしまったのは予定外。
定番のサンマの塩焼き、ついついつまみ食いが捗ってしまったサンマの揚げ焼き、そして更につまみ食いを加速させたサンマの竜田揚げと唐揚げ、つまみ食いごろかガッツリ食べてしまったサンマの炊き込みご飯、つまみ食いしすぎた口直しにと作ったらサッパリ風味が食べすぎた腹の隙間にちょうどよくて追いつまみ食いが進んでしまった焼きサンマの身をほぐし身が入ったマリネ、酒のつまみにもちょうどいいかと思って追加で作ったサンマの蒲焼きは一口サイズに切って焼いたためこれもパクパクとつまみ食いが捗った、それからスープもあった方がいいかなとサンマの身で作ったつみれと苔玉ちゃんに貰ったキノコのお吸い物。
思い出した端から作って、作った端からつまみ食いをしてお腹ポンポコリン状態になってきたところで、気付けば夕方。
出かけていた者達がわらわらと帰ってきて、みんな揃ったところで夕食の時間になって今に至る。
「でもホントにすごい品数だけど、病み上がりに無理をしてない? ちゃんと家で大人しくしてた? 一緒にいたのがお腹ポンポコリンのポンコツチビッ子達だから、グランと一緒になって非常識なことを……いたっ! いたっ! いたっ! だから、食事中に氷とか木の実とか石ころとか投げないで!」
つまみ食いしまくっていたことにちょっぴりプリプリしていたアベルだが、テーブルの上に所狭しと並ぶ料理の数々に心配症モードに突入してしまった。
心配症のついでに、どさくさで俺を非常識扱いするのはやめろ。
「ああ、大丈夫だ。料理すること自体は好きだし適度に体も動かすから、ずっと寝ていた後の気分転換にも軽い運動にもなって、心も体もスッキリしたくらいだよ。それにこうやって料理が並んでるのを見ると、回復したなって気分になるじゃん? うん、だいたい回復したな! よっし、もうだいたいいつも通り! いっぱい心配をかけたけど、だいたい復活したぞ! いつも通りに戻った! もう大丈夫! だから――これからもよろしく!!」
ずらりと並んだ料理は回復の証にも見える。
そして戻ってきた日常の証。
そう思うとちょっぴり照れくさいけれどどうしても言っておきたかったんだ――これからもよろしくって。
時間の許す限りこの日常が続きますようにって。
ちょっぴり変わったけれど、実はそんなに変わっていない俺をこれからもよろしくって。
「もー、グランのそういうところズルいよね。うん、これからもよろしく。じゃ、ご飯を食べよ! 話してたら食事が進まないよ!」
「よろしくっていうか、こっちこそこれからもよろしくな。ほら、苔玉もグランちの居候になっちまったんだから、しっかりよろしくしとけよ」
「キエエエエッ!」
「カメッ!?」
「モッ!!」
「ゲーーーーーッ!」
「あらあら、抜け駆けのよろしくはダメみたいですねいえ。チビッ子さん達はなんだかんだで仲良しですね」
「ちょっと、アンタ達! グランの家に居候する対価に木の実とか海のものとか石とか果物をグランに渡すのはいいけど、あまり変なものを渡すのはやめてよね。それはそれで面白いけど、グランはグランだから何をやらかすかわからないわ」
「ヴェルに常識的なことを言わせるなんて、相当のことだと思った方がよろしくてよ?」
「む……気付けば居候が増えているが、元祖居候の座は譲らんぞ。故にこれからも三姉妹共々よろしく頼むぞ」
「は? グランの家の元祖居候は俺だよ! ラトより俺の方が先だったでしょ! 勝手に歴史修正しないでよね! 元祖居候は俺! これからも元祖は俺!」
「僕は学校に戻らないといけないので今はグランさんの家の居候にはなれませんが、いつか独り立ちできる日がきたら僕もよろしくお願いしますっ!」
「いや、居候ってそんな競うようなものか? 一人立ちしたらもう居候じゃないだろ!? ていうか、そんなくだらないことで競ってないで飯! 飯を食え!! 最後のしめにサンマのお茶漬けもあるから、とりあえず飯!!」
食事中だというのに木の実が降ってくるわ、魚は降ってくるわ、石ころが降ってくるわ、南国フルーツが降ってくるわ、ヴェルがすごくまともなことを言い出して明日の天候が不安になって――いや、俺が何をやらかすかわからない非常識人みたいに言うな! 貰いすぎるのはよくないけれど、これは居候の代償だからセーフ!!
その横でラトとアベルがしょうもないことで競い始めるわ、ジュストは微妙に不安な未来予想図を描き始めているわで、収拾が付かなくなりそうになったところでパンパンと手を叩いて食事に戻るように促した。
これからも、よろしく。
いつものように騒がしい食事の時間、心の中で何度もそう言った。
お読みいただき、ありがとうございました。
今年も一年ありがとうございました!!!
来年もよろしくお願いします!!
それではみなさま、良いお年を!!!!




