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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第十二章

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変わらない日常

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

 ハッとなって目が覚めたら、いつも目覚める時間だった。

 場所は自分のベッドの上。服もちゃんといつもの寝衣。


 あ、あれ?

 昨夜はカメ君とチュペとそれからナナシも一緒に夜の森へ散歩へいって、新必殺技を編み出そうとしていたらシイタケさんが現れて、真夜中のサンマパーティーをして酔っ払って寝落ちして、そしたらリリスさんが現れて……まだリリス姉さんに会うわけにはいかないから寝たふりをしていたらカメ君がムニャムニャカメカメと寝言を言い始め、それを聞いていたらいつの間にか意識がなくなっていた。


 つまりガチで寝落ちをした。多分。


 なのにどうしてちゃんと寝衣に着替えて、ちゃんとベッドに寝ていたのか。

 酔っ払って寝落ちしても、ちゃんと部屋に戻って寝衣に着替えて服を着て寝ている俺ってばえっらーーーい!!


 ………………ちがうな。


 多分、きっと、おそらく、間違いなくそうじゃない。

 だって目が覚めて体を起こして目に入ったものが、明らかに俺ならそんなことをしない状態だった。

 記憶がないほど酔っ払って帰ってきた俺が、そんなことをするほど几帳面かと思ったか!?


 目に入ったのは、部屋に置いてある二人掛けサイズのソファーの上に置いてある綺麗に畳まれた俺の服と、その横に綺麗に揃えて並べられている装備品。

 俺がそんなことするわけないだろ、リリス姉さん!! いや、リリスさん!!


 間違いなくリリス姉さんだろうなぁ、という確信と共につい苦笑いを漏らすのはリリトの記憶からくる双子の姉への感情。

 それと同時に、母親に一人暮らしの部屋を見られたような羞恥の感情は、故郷の村にいるはずのシスターリリスさんに対してグランという俺が覚えた感情。

 森の中で無防備に寝落ちするような俺が悪い、そして無事に部屋まで連れて帰ってくれたことには感謝するけど気恥ずかしさでいっぱいである。


 だけど転生開花から溢れてきた記憶はちゃんと残っている。

 きっと昨夜リリスさんが現れたのは、俺の中で花開いてしまった過去の俺達の記憶を消すためだろう。

 シイタケさんがいなければ、きっと消されていただろう。


 ホッとしたような、消されてしまった方が何も知らないグランに戻れて良かったような、そんな二つの感情が寝起きの頭の中で混ざり合っている。

 そんな自分が情けなくて卑怯な人間に思えもするが、やっぱり俺はこの平穏が好きだから、何度も何度も繰り返す転生の中ずっと苦しんでいるリリトに手を差し伸べたい。


 欲望に流されがちな俺だからできること――グランでいられるほんの百年足らずの時間、平穏を満喫してもいいじゃないか。

 今しかできないことかもしれないから、欲に流されてもいいじゃないか。

 これは今まで頑張ってきたご褒美。たまには楽しく幸せに生きていいんだよ、リリト。


 今世は思う存分ダラダラして、来世から本気出す。

 

 だから――ただいま、日常。ただいま、グラン。


 ベッドから出て窓の前に行きカーテンと窓を開けると、視界を満たした朝の光とすっかり慣れ親しんだ森の香りに思わず目を細めた。


 さぁ、日常に戻ろうか。





「俺の知らない食べ物のにおいがする」


 朝食の席、アベルの冷ややかな視線が痛い。 

 でも、これこれ。このアベルのジト目と、お貴族様なのにどうしてなのか不思議なくらいに食べ物のにおいに敏感な鼻、そしていつもの粘着質な口調。

 これこれ、これが日常。


「これは魚のにおいだな」


 エルフは耳が長く人間より聴力が優れているが、耳だけはなく鼻もいいようだ。

 そしていつものコミュ強系爽やか笑顔。これも日常。


「僕、このにおい知ってます! サンマのにおいです!!」


 ジュスト、正解! でも世の中には言わなくていいこともあるんだぞ?

 このジュストのポロリも、日常。


「グラン、貴方とてもにおうわ。グランだけじゃなくて、カメもグランの付けている耳飾りも全部におうわ」


「私の名推理ではぁ、グラン達は私達の知らないところで魚を焼いて食べましたねぇ?」


「わたくしにはわかりますわ、夜中にこっそり抜け出してお魚パーティーを催されましたわね?」


「魚だけではなく、酒のにおいもするな」


 ああ~、さすが森の主と番人~~~~! 全部お見通しだああああ~~~~!!

 三姉妹達が動きをシンクロさせながらこちらに呆れた視線を向けるのも、ラトがやたら酒に敏感なのも日常。


「カメェ?」


「キッ! キエエエエエエッ!」


「ズモモモモモモ……」


「ゲレ……ゲレレ……ゲエエエエ!?」


 そして食卓の上では、カメ君が他のチビッ子達に詰め寄られている。

 きっと俺と同じようにサンマのにおいがするのだろう。これは今夜はサンマパーティーかな?

 このチビッ子達がじゃれ合っている光景もまた、もうすっかり日常。


 これの騒がしくて収拾が付かない状況が、俺の日常。

  




 目が覚めたのはいつもよりも少し遅い時間。

 いつもなら早朝の鍛錬を終えワンダーラプターと畑の世話に取りかかるくらいの時間だった。 


 この時間から朝の鍛錬を始めるとやらなければいけないことが押して朝食の準備が遅れると思い、服を着替えカメ君を肩に乗せてワンダーラプター達のいる小屋へ直行した……ら、サラマ君がワンダーラプター達の朝トレと朝の餌やりを済ませてくれていた。

 ええ……ワンダーラプター達がめっちゃサラマ君にペコペコしているけれど?

 さすがはサラマ君……サラマ君は少し変わったサラマンダーっぽい妖精で、見た目よりずっとすごいだけってことにしておこう。


 じゃあ俺は小屋の掃除を――と思って掃除道具のある倉庫に向かおうとしたところで、ゲーーーーッという雄叫びと急激な浮遊感に襲われ、気がついたらリビング前のテラスに転移させられていた。

 ああ……うん、病み上がりだからワンダーラプター小屋の掃除みたいな重労働は控えろってことかな?

 俺はもうすっかり元気なのに、サラマ君は心配症だなぁ。

 でも心配してくれて、俺の代わりにやってくれるというなら任せちゃおう。サラマ君は頼られるのが結構好きみたいだし。


 ワンダーラプター達をサラマ君に任せるなら、畑の水遣りと朝食のサラダに使う野菜でも収穫でもしようか?

 水遣りはカメ君に手伝ってもらえばすぐに終わるし、病み上がりの俺でもみんなに心配されるようなことはないと思って畑にいったら、苔玉ちゃんとカリュオンが畑に水遣りをしてくれていた。

 じゃあ俺は食べ頃の野菜の収穫を――と思ったら、キエエエエエエッという雄叫びと共に数分前にも味わった浮遊感。そしてまたリビング前のテラス。


 もぉ~、苔玉ちゃんも心配症かなぁ?

 肩にいたカメ君がいなくなっているということは、カメ君は水遣り要員として畑に残されたのだろう。


 でも心配してくれているなら、あまり体に負担のかからないことをやろう。

 体に負担のかからないこと――そう、朝食の準備を!


 と、キッチンにいくとすでに三姉妹と焦げ茶ちゃんが朝食の準備を始めていて、手伝うつもりで近付くとズモオオオオッという雄叫びと本日三回目の浮遊感と共に今度はリビングのソファーの上に投げ出され、向かいのソファーでゴロゴロしていたラトと目が合って「よく来たな、ゆっくりしていくがいい」と言われ、よく来たなもクソもここは俺の家だと思いつつも諦めて俺も朝食までゴロゴロすることにして、ゴロゴロしているうちにアベルもジュストも起きてきて朝食タイムとなって現在のこの騒ぎ。



「わかった、わかった! 今夜はサンマ!! お外でサンマ!! ちょっぴり早い秋の味!! 昨夜、カメ君がいっぱいくれたのがまだあるから、今夜はそれでサンマパーティー!!」


「昨夜? やっぱり昨夜は俺に内緒でチビカメと何か楽しいことをして、美味しいものを食べてたんだね!? サンマ? 何それ、魚? それもちゃんと詳しく聞かせてもらうからね!!」


 ああ~、しまったサンマの話を一区切りさせるつもりが余計なことを言ったかもしれない。


 でもアベルが煩いのも、アベルが面倒くさいのも、やっぱり日常。


 俺の中はちょっぴり変わったかもしれないけれど、俺のいる日常は変わらない。


 

 

 

お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
さんま美味しいよなぁ!オイラは山育ちだからさんまといえばもっぱら塩漬けさんまなんだが。生さんまのふわふわ感も良いけど、塩で身のしまったさんまがオイラの中では「さんま」なんだよなぁ。
平和でホノボノでいつもの日常で…お母さんに、物で溢れた部屋を見られたような心境でw皆にサンマパーティーを咎められw(羨ましがられ?w)何かをしようとしたら、病み上がりだからと過保護に転移させられてw平…
なんだ『転生開花』がついでに母親に部屋を掃除された時に 机の上にエロ本奇麗に並べらてた記憶とか思い出させるとかしないんだ(スットボケ
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