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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第十二章

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閑話:変わりゆくもの

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「いいのよ、リリト。いいえ、グラン君。辛いことは何もかも忘れて、ただただやりたいことだけをやって、楽しく、幸せに――貴方の大切な人達と一緒に。それを邪魔するものは全部私が取り除くから、安心して――」


「主は過保護すぎでは? 此奴は主が思うよりずっと強い、そして自分でちゃんと考えておる……時々考えなしの行き当たりばったりの行動があるのは昔からだが」


「でも思い出せばリリトは動き出してしまうわ。本当はそんなことをしたくなくても、リリトは大切にしているものを傷付ける存在を絶対に許さないから。大切なものをどうやっても守ろうとするから。それは自分をどれだけ犠牲にしても。楽しくて穏やかな日常を望みながらも、自分の希望よりも自分の大切な人を守ることを第一にするから。そしてリリトには大切なものがたくさんありすぎるから」


「そうだな。リリトは他人が傷付くことを嫌うくせに、自分が傷付くのは自分が我慢すれば良いと思う悪い癖があるからの。そこはいきすぎるようなら我ら、兄や姉が止めてやらねばならぬとこだ。だがな、そういう面も含めてリリトであり、辛い経験すらも今のリリトを成しているものの一部で、それがあるからこそ今のリリトの強さや優しさがあるのだ」


「それでもやっぱりまだ思い出さない方がいいのよ。まだ、もう少し、ずっと、このまま、何も気付くことなくぬるま湯のような生を送ってほしい。自分の好きなように生きてほしい。そのためにはその記憶は――」


「記憶を封じてしまえば、以前のグランという人物に戻るだろう。だがそれは同時にリリトを否定することでもある。リリスの願いは我もわかる。我もリリトが幸せであってほしい。だが同時にリリスにも幸せであってほしい。そしてきっとリリトも自分だけが幸せではなく、皆が幸せであるであることを望むだろう。そしてその皆の中には当然リリスも含まれておる。リリスよ、主の望みはリリトの望みを何でも叶えることだろう? ならば主自身も幸せでなければ意味がないのだ。リリトがお前を忘れた世界は主にとって幸せか? お主が本当に望むものか?」


「――――それでも私は……私は、リリトが幸せならそれでいい。私のせいでリリトが不幸になるのなら、リリトの幸せの中に私はいなくていい。私が幸せになろうとすると、お父様はリリトを苦しめるから。リリトが苦しめば私が悲しむから……お父様に嫌われている私が。だから私はリリトの幸せの中に一緒にいたいと願っても、そこにいてはいけないの。いいのよ、私がその中に入れなくて外から見てるだけの方が、お父様も納得するから」


「難儀な性格よの、主も、親父も」


「仕方ないわ。私もお父様の子供だから、お父様と同じように面倒くさい性格でも仕方ないわ。いいえ、お父様の子はみんな面倒くさい性格でしょう? お兄様達も、古代竜達も、リリトだって――でもリリトはそこがリリトらしくて長所なんだけど。ちょっと!? いきなり勝手に頭を触ろうとしないで!!」


「よいではないか、よいではないか。そういう面倒くさい性格もまた主の一部であり、お兄ちゃんから見るとそうやって悩み意地を張る姿も可愛げのある部分なのだ。はははは、その程度の氷の槍をぶつけられるくらいなら平気だぞ。多少痛いがお兄ちゃんはまだまだ平気だぞぉ。うむうむ、リリト以外のことには冷めているようにも見えるが、そういう大人げない面もあることをお兄ちゃんはちゃんと知って……うおおおおお!? 氷塊は近所迷惑だからやめようなあああああああ!! そんなものをここに落とすとリリトも危ないし、リリトの家にも被害があるぞおおおお!! あとあそこにいるうるさい奴らも起きてくるかもしれぬぞ!!」


「大丈夫よ、あの家の住人にはしっかりスリープの魔法をかけておいたわ。私の血を引く者はもちろん、古代竜も神獣も、私の魔法を破ることなんてできないわ。でもリリト――グラン君を巻き込むのも、グラン君が気に入っているこの場所に被害が出るのも私の望むことではないからやめておきましょう。なのでお兄様も私の頭を勝手に触ろうとするのやめてちょうだい」


「ケー…………」


「……やることが大味すぎて、大雑把の化身のようなシュペルノーヴァ――の模擬体にまで溜め息をつかれておるぞ。まあ、その大味なところもリリトとそっくりでまさに双子なのだが」


「お兄様に褒められるなんて珍しいこともあるものね」


「え? 今のは決して褒めたわけではないが……いやいや、普段から会えば褒めてると思うのだが。うちの妹は性格にやや難があり、若干パワフルで大雑把でだが顔だけはメチャクチャ良くて男を片っ端から魅了して手玉に取ることに長け、数多の男の性癖を歪ませた、神史上最高の悪女!! しかし弟にはゲロ甘!! が、それも兄から見ればチャームポイントで可愛い、つまりうちの妹は可愛い――といつも思っているし、いつも言葉にして褒めていると思うのだが?」


「全然褒めてないと思うし、お兄様の兄馬鹿話なんて九割くらい聞き流していたから覚えていないわ。でもリリトと同じ顔で褒められるのは悪い気はしないわ。リリトよりずっと暑苦しいけど」


「妹がお兄ちゃんに厳しくて、お兄ちゃんは悲しいよ」


「でもリリトの体のベースを、ベル兄様の右腕にしたのは正解だったと思っているわ。ベル兄様が生まれた頃のお父様は、まだ子供達に優しかったとアス兄様やリヴァ兄様が言ってたもの。私やリリトが生まれた頃のお父様は――ベル兄様達は昔の優しくて穏やかだったお父様に、私達のような後の世代に生まれた者は……汚れて歪んでしまったお父様に似てしまったから。リリトが私の片割れなのに私のように澱んでないのは、きっと綺麗だった頃のお父様に似たベル兄様の右腕の影響だから。だから私の体を分けてリリトの体を作れなかった、私ではきっと私――汚れて歪んでしまった父様に似てしまうから。だから、勝手に頭を触らないでって言っているでしょう!」


「汚れていない、歪んでもいない。父も、リリスも、他の兄弟達も。生きておれば多くのことを知り、経験し変わっていくもの――それは神とても。いや、無限の時を生きるからこそ変わっていくものなのだ。シュペルノーヴァとて昔は手が付けられぬほどの暴れ者だったのに、今ではずいぶん丸くなって加齢臭が出ているではないか。それは神――創世の神とて同じであろう。変わらぬ方が歪なのだ。ただその変わった方向が最悪な場合もあるのだが……慈愛と希望に満ち、自分に連なる者を待ちわび、だが失敗を繰り返しているうちにだんだんと臆病になり、それでもその中の成功に喜び、それらの成長を望みつつも成功したものが己を超えそうになった時にはあせり、妬み、その感情を制御できず周りを振り回す――単純でありがちで矛盾した感情。だがその矛盾は解消することなく、いつまでも共存し続ける。神だって感情のある存在なのだから」


「ベル兄様は本当にズルい。そうやって誰でも許すところがリリトにそっくり。いいえ、リリトがベル兄様に似ているのね。悔しいけど、リリトが似たのがベル兄様で……昔のお父様でよかったわ。エル兄様やアル兄様に似なくてよかったわ」


「お? 少しデレたか? いいぞいいぞ、もっとお兄ちゃんを敬うが良い。よしよしよしよし、やはりうちの妹はツンツン可愛い」


「勝手に触らないでって言ってるでしょ! リリトと同じ顔で、暑苦しいことはやめてちょうだい!!」


「ははは、危ない危ない。せっかくメンテナンスが終わった右腕を粉砕されるとこだった。おっと、あまり騒ぐとさすがにリリトが目覚めてしまうかもしれないぞ? 寝落ちしている子亀も子亀のようなものだが一応古代竜だからな、あまり騒ぐと目を覚まして面倒くさいことになるぞ?」


「く……仕方ないわ。ベル兄様には日を改めてお話に伺うことにするわ」


「ケ………………」


「す……すやぁ……」


「カ……カメェ……」















 う……うるさい。


 飲んで食ってして気持ちよく寝落ちをしていたが、すぐ近くで聞こえる話し声――最初はボソボソだったが、だんだん大きな声になり、人間の町など簡単に吹き飛びそうなバカでかい魔力がナチュラルにぶつかり合っている。


 こんなのすぐ真横でやられて、目も酔いも醒めないわけがないだろう。

 だけど俺の中に残る記憶が、ここは寝たふりをしておけと言っている――目覚めるとリリスがリリトの記憶を封印するかもしれないから。

 まさに触らぬ神に祟りなしというやつ。


 うん、大昔からそんなだったからリリトの寝たふりスキルは非常に高い。

 カメ君にはあまり聞かれたくないけれど、聞かれちゃったか……あ、カメ君はガチ寝落ちしてるっぽい?

 とりあえず可愛いお耳は俺の指でこっそり塞いでおこう。


 うん、リリスさん――リリス姉さんの気持ちはわかるけれど、俺はやっぱりみんなで幸せになりたいんだ。

 俺が今存在できているのは、リリス姉さんのお陰だから。


 何が何でも幸せになるよ、みんなで。

 誰が欠けても意味がないから。


 だから今は寝たふり。

 今をやり過ごしても、完全に思い出したわけでないふり。

 寝ぼけたり酔っ払ったりしてポロリするかもしれないけれど、自分で制御ができないふり。


 ベル兄さんには気付かれていそうだけれど、ベル兄さんは俺の味方。

 ううん、ベル兄さんは俺達兄弟全員の味方。誰一人不幸のままにしたくないと思っている。


 リリス姉さんは、すぐに自分を疎かにするから。俺のためにいつも父さんに怒られているから。


 そんな風にいつも俺を思ってくれているリリス姉さんは、俺の描く平穏の日々にはリリス姉さんもいないと意味がないじゃないか。


 でもさすがはベル兄さん。リリス姉さんの手綱を上手く握ってくれている。 


 だからリリス姉さんのことはベル兄さんに任せて、今はまだ寝たふりをしながら時を待つよ――。


 グランの中で寝たふりをして、平穏で平凡な毎日を楽しみながら。


 いつかそこにリリス姉さんを迎える計画をこっそりと練りながら。


お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
ベル兄さんの愛とてつもなく大きい。実は一番まともかも(笑)
加齢臭wまあ、神様も変わっていく者ですよね。作品によっては変わらないかもだけど。 なんにせよ、二人のやりとりがシリアスだったりコントになったりw 結局グランさんもリリスさんも、さらには、ここにいないア…
>シュペルノーヴァとて昔は手が付けられぬほどの暴れ者だったのに、今ではずいぶん丸くなって加齢臭が出ているではないか。それは神――創世の神とて同じであろう。 神も加齢臭出すのか~(明後日の方を見ながら
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