閑話:変わっても変わらぬもの
誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。
「サンマと一緒に掻き込むほかほかご飯は最高。ああ~、サンマだけじゃなくてほかほかご飯に載せた大根おろしぃ……シンプルに醤油だけでぇ……ああ、でも旨味調味料を隠し味にぃ……。ああ~。それとそれとそれと~、ほかほかご飯には辛子明太子も合うし、パリパリ数の子も合うし、なめ茸も~、海苔の佃煮も~、海苔と醤油も~、卵かけご飯も~、ほかほかご飯は日本人の魂なんだよぉ~。これの美味しさをみんなに……いや、俺が食べたい! いつでも食べたい! ずっと食べたい! 何度生まれ変わっても食べたい! だからご飯の美味しさをみんなに教えて、この世界でも美味しいご飯ぉ~むにゃむにゃむにゃむにゃ……」
「カメ……カメ……カメ……ヵ……ヵ……ァ……」
「うむ……酔っ払って寝てしまって、隠していたものが全部漏れてしまっているが、お兄ちゃんはちゃぁんと知っているし知っていても知らないふりをするから気にせずに寝言を垂れ流すがよいぞ。うむうむ、弟の成長をこっそり見守るのはお兄ちゃんの醍醐味故な。カメも一緒に寝てしまっておるな。まぁ、此奴もリヴァの孫故に我の親戚だからだいたい弟みたいなものだの。悪くない悪くない、弟や妹が増えるのはお兄ちゃんの楽しみが増えてよきかなよきかな」
「ケ………………ッ」
「姿形は変われどリリトの帰還を素直に喜べばいいものを、相変わらず素直じゃない奴だのぉ。ま、主はまだ若くて青い頃のシュペルノーヴァの模擬体だからの。うむうむ、懐かしいの……素直になれず悪ぶって、意地っ張りの負けず嫌いで、すぐカッとなってあちこち当たり散らして――もう万の時を越えて見るその姿とその態度、懐かしくそして初々しいのぉ」
「ケーーーーーーッ!!」
「ほほほ、そういうところそういうところ。しかし模擬体であることに加え一度力を失いかけた故に、火の魔力に満ちた場所以外は魔力効率の良い小さき姿か。その様子ではまだ他の生き物に化けることも難しいようだの。ふむ、シュペルノーヴァの模擬体でシュペルノーヴァと元は同じといえど、これからは彼奴とは別の生を歩み、全く違う経験を積み上げ、今の彼奴と同じ時を経る頃には彼奴とは全く違うシュペルノーヴァになっておるだろうな。例えるならシュペルノーヴァの別の可能性といったところか。おっと、主はもうシュペルノーヴァの模擬体ではなくチュペルノーヴァであったな。すまぬすまぬ……おっと、あぶない。そうやってすぐ火を吹くとこは、やはりシュペルノーヴァだな」
「ケーーーーーーッ!!」
腹一杯飯を食い、酒を飲んで酔っ払い、そのまま寝落ちして地面に転がりむにゃむにゃと寝言を漏らしている赤毛の人間――万の時の昔、我の弟だった者を見下ろしながら微笑ましいような、懐かしいような感情を覚えつつも、やや心配なような複雑な気持ちになる。
その赤毛の横に、へそ天で転がりピーピーと鼻を鳴らし眠りこける子亀にも。
お主ら、無防備にもほどがあるぞ!
だが現在の弟は人間であり発展途上だと思えばこの無防備さも――いやいや、この無防備さが此奴の魂に染みこんだ古の記憶の影響で我が誰かとわかっての無防備さだとしても、あの時代より万を超える時を生きた我があの頃と変わっていないとはいえぬだろう。
もしかすると長い時の中で歪んでいるかもしれないというのに、どうしてそう簡単に信用し無防備な姿を晒すのか。
しかしそれは不安になると共に嬉しくもある。
魂に刻まれた記憶が我を忘れることなく、あの頃と同じように我を信じ懐いてくれているのは悪い気はしない。
うむうむ、心配ではあるが我の前では良しとしよう。お兄ちゃんの前で弟が安心するのは当たり前のことで良いのだ。
赤毛はそれで良いのだが……そこの亀!! お主はもっとシャキッとせんか!!
仮にも水を司る最高峰の古代竜、そして我と齢の近い弟リヴァイアサンの孫――つまり神と古代竜の両方の偉大さを継承した偉大な亀であろう!!
それがどうしてうちの可愛い弟と一緒になって、酔っ払って爆睡をしているのだ!? そもそも古代竜という生き物は、不定期に訪れる休眠期以外は睡眠を必要としない生き物だろう!?
それがどうしてただの子亀のように、無防備にひっくり返っているのだ!?
いや、もはやただの子亀だ!! しかも亀のくせに腹がぽっこりしておるが、古代竜の威厳はどうした!?
そうか、今代の赤毛に誑し込まれて餌付けをされ誑し込まれて、古代竜から亀に成り下がってしまったか。
うむ……うちの弟に誑し込まれて餌付けをされてしまったのなら、古代竜が亀に成り下がるのも仕方がないか……。
あの古代竜きっての大問題児のシュペルノーヴァ――の最もいきり散らしていた時代の模擬体ですら、すっかり懐いてしまっているのだから。
というか此奴が生まれてしまった経緯、正確にはあのダンジョンが形成されてしまった経緯についてはお兄ちゃんだからもちろん気付いているのだが、兄弟の中でも頭百個くらい抜けて大問題児のリリスとベリアルに大問題児古代竜シュペルノーヴァが加わってやったことなので、とりあえず生温い気持ちで見守ることにしてこっそりと他にバレぬように周囲にいくつもダンジョンをこさえておいてやった。
あの辺りはちょうど古代竜の国だった場所故、命を落とした古代竜の墓もある影響でダンジョンがポコポコできても可笑しくない故。
そして我のような偉大で自由な元神が、好き勝手ダンジョンを作って遊ぶくらい稀によくあることである。
そもそもあれほど大事をやらかして、ただ地底に隠しただけでどうしてバレないと思ったのか。
詰めの甘い問題児トリオである。
だがそんな問題児でもお兄ちゃんにとっては可愛い弟と妹、そして弟みたいなものの古代竜である。
奴らだけの秘密のつもりだろうが、お兄ちゃんもこっそり共犯者になってやろう。
お前達ではきっと手に負えないことになるから――親父も、そしてリリトも。
本当は争いなどない方がよい。お互い気に入らぬのなら、それはそれで関わらぬようにすればよい。
問題など無理に解決しなくても、何事もなく平穏に過ごせればそれでいい。
平穏というぬるま湯にどっぷりと浸かることは決して悪いことではなく、むしろそれが許されることだからこそ平和なのである。
火種があっても燃え上がらなければ良いのだ。
だから親父がこの世界に興味を失ったままでいい。
だからリリトも目的を忘れてやりたいことやって生きていればいい。
リリトだけではなく、かつてリリトを取り巻いていた者達も。
皆、古の目的など忘れて平穏な時を過ごせれば良い。
それができぬ者がいるから、平穏が続かぬのだが。
それでも今は平穏が許されている故。
「こうして無防備に眠りこけるほどの平和ボケも平穏の象徴か」
「ケーッ!」
「良いではないか、良いではないか。お兄ちゃんが弟の頭を撫でるくらい。何だ、もしかしてお主も頭を撫でて欲しいのか?」
「ケーーーーーーッ!!」
あまりに無防備に眠りこける赤毛の頭を少々撫でてやろうとしたら、生意気に炎トカゲが火の玉を吐き出して邪魔をしおった。
仕方ないのでチュペルノーヴァなどという気の抜けた名前を付けられ、すっかりその名前に馴染んでしまっておる炎トカゲの頭を撫でてやろうとしたら、更に大きな火の玉を吐き出しおった。
素直になれぬ意地っ張りな奴め。
しかしこういうくだらぬやり取りもまた平穏の証。
願わくばこの平穏が永遠に――。
「あらあら、ベルお兄様。こんなところで会うなんて奇遇ですね。今日も楽しそうで何より。よかったら私も混ぜてもらえないかしら?」
願ったばかりなのに、平穏とは長く続かないものである。
背後から聞こえてきた鈴を転がしたかのような澄んだ高い声に、願いの虚しさを実感した。
お読みいただき、ありがとうございました。




