新技の開発とは
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ヴァッサーフォーゲルとして生きていた頃は今のように平和な時代ではなく、竜の国が絶大な力を持ち、それ以外の種族の国を属国として支配しており、それに不満のある種族が竜の支配から独立しようとあちこちで争いがあった時代だった。
人間の国も竜の国からの独立を望み、独立のための戦いが激化していた時代にヴァッサーフォーゲルは生まれ、国王に勇者として任命され独立戦争という名のゲリラ戦に身を投じることになった。
そのためヴァッサーフォーゲルだった頃の俺は、今の俺よりも強さを求めることへのモチベーションが高く、日々の鍛錬は俺のそれよりはるかに激しいものだった。
今の俺よりも体格が良く、パワーもスピードも技術もあり打たれ強かったのはその結果で間違いない。
まぁ、魔法が使えない範囲弱者だったので、多勢に無勢で困ったらとりあえず放火することが多かったけど。
……その度に思ったより燃え上がって、ガーランドによく小言を言われていたなぁ。そうそう、まるでアベルみたいな湿度と粘着質なお小言。
懐かしいけれど、今とあんま変わんない気がしてしまうな。
でももしいつか、万が一、微粒子レベルの可能性で俺があのジットリジメジメなガーランドに再び会うことあるならば、奴が俺に気付かなくても――いや、今の俺はヴァッサーフォーゲルでも何でもないから、今さらヴァッサーフォーゲルが抱えていたものを俺の口から言っても仕方ないな。
ああ……俺が俺だと気付かれなくて、ちっぽけの存在として気にも留められないと悲しいから、やっぱ世界のどこかでアイツが元気にしていることを願っているだけにしよう。
そんなヴァッサーフォーゲルの戦い方は多少の被弾は覚悟したパワー重視のスタイルだったため、当たれば威力は非常に高いが大振りで隙も大きい技が中心だ。
俺と同じく剣を得意としていたが、取り回し重視で片手剣を好む俺とは違い威力重視の両手剣を好み得意としていた。
あああああああ……ヴァッサーフォーゲルの戦い方を思い出そうしたら、洞窟系ダンジョンの狭い通路で長い両手剣を振り回して天井や壁にぶつかりまくった記憶があああああああ!!
だがそのまま力任せに剣を振って、ダンジョンの天井や壁を粉砕して大惨事になって、ガーランドにメチャクチャ文句を言われた記憶があああああ!!
何やってんだ、ヴァッサーフォーゲルの頃の俺ええええええ!! 絶対非常識なゴリラ脳だろ!!
違う、これはグランじゃなくてヴァッサーフォーゲルの記憶なんだ!! 今の俺――グランは非常に常識的な人間なので、ダンジョンで長剣を振り回したりなんかしない!!
うむ、この辺の脳みそゴリラの非常識技は思い出さなかったことにして、今世の俺の戦い方にあったヴァッサーフォーゲルの技術を思い出そう。
ヴァッサーフォーゲルだった頃の俺はとにかく威力重視だったが、それでも威力だけでどうにもならない時のために威力を抑えた速度重視の攻撃もできないことはなかったから。
できないことはないが、好みの関係でとにかく威力重視のもっさりした攻撃が多かった記憶ばかりが残っている。
それは確かに一撃の威力は高いのだが、威力にこだわりすぎるせいで無理矢理な攻め方をするため被弾も多くいつも傷だらけだった記憶。
その戦闘スタイルは、今の俺よりもずっと鍛えて頑丈な体だったヴァッサーフォーゲルだからできることで、俺がそのまま真似をすると確実に大怪我をして以後の戦闘の効率を下げてしまう。
ついに痛いのも嫌なので、ヴァッサーフォーゲルの戦い方をそのまま取り入れるのではなく、今の俺に合わせてアレンジをするつもり――。
――だったのだが。
「うーん、これは盾を構えた相手を盾ごと斬る――というか粉砕する技。ダメだな、これはパワーが必要だからそれだけ攻撃前後の隙が大きくなる。というかずっと盾を構えてるなら、その間こっちも別の攻撃の仕込みをして、盾を解除した瞬間に攻撃すればいいよな。そういえば武器を投げつけることもよくあったな……いや、武器を投げつけるのはもったいないから、収納にたくさんストックしてる丸太を投げればヨッシ。他には――突進してその勢いと自分の体重を乗せた突き刺し攻撃かぁ……一撃で仕留められればいいけどダメだったあら反撃を食らうんだよなぁ。やっぱ今の俺に仕えそうなのは――勢いのある直線的な攻撃を横にずれて避けつつ、相手の勢いを利用して脇腹を切り裂く……あれ? これは俺もよくやるし、わりと得意だな。もしかして覚えてなくても魂に染みついてるってやつか。まぁ、あの時ほどパワーはないから、これが通用する相手は限られてるけど……やはりパワーと力、筋肉こそが全てを解決する。つまり力こそパワー、やっぱもっと体を鍛えなければダメだなーって、思考がドリーみたいになってきた!! ダメだ、ダメだ!! ここは落ち着いて思い出した技をもっと試してみよう……って、カカシがもうそろそろ限界だな」
「カメェ?」
「ケェ?」
冒険者ギルドで買える鍛錬用のカカシを斬り付けながら、つい独り言をボソボソと漏らす俺と、そんな俺を近くの石の上に並んで座ってクッキーをポリポリ食べながら見ているカメ君とチュペ。
色々試しながらついつい漏れる俺の独り言に、カメとチュペがクッキーをポリポリしながら首を傾げる仕草をシンクロさせている姿が視界の端っこに入ってほっこり。
植物系の魔物素材で作られた鍛錬用のカカシには再生効果が付与されており、多少壊してもすぐに元通りになるので実戦用の武器で訓練にも使える。
もちろんそれなりの値段もして、再生という魔力を多く消費する付与のため使用回数はそこまで多くないのだが、買ってきたカカシをフェニタイトという再生効果を持つ宝石を使って改造し元のカカシよりちょこっと再生効果を高めて使っている。
といっても、やはり真っ二つに斬ったり粉砕したりしていたら、すぐに素材の魔力が尽きてしまい使えなくなってしまうのだが。
俺が試し斬りに使っていたカカシももうボロボロ、後一回粉砕したらもう再生効果が切れてしまいそうだ。
だったらもう思いっきり粉砕してしまうか。
そうだな、せっかく思い出したのだから試してみたいよなぁ――ヴァッサーフォーゲルだけではなく、リリトの戦い方も。
「チュペ、ちょっとだけ力を貸してくれ! 試し切りだからちょっとだけでいい! 剣に炎!」
「ケッ!? ケーーーッ!!」
クッキー分くらいの力なら貸してくれてもいいだろ?
モシャモシャとクッキーを食べているチュペに声をかけると、一瞬驚いたような表情になったがすぐに俺の意図に気付いたようでクッキーを食べるのを中断してボッと小さな火の玉を吹き出し、俺が手にしているミスティール制のロングソードに炎を纏わせた。
そうだ、上手いぞ。
これはリリトとよくやっていたやつだよな、シュペルノーヴァの炎を剣に纏わせて斬り付ける攻撃。
もちろんその灼熱の炎はちゃんと加減をされており、剣を燃やしたり溶かしたりすることはない。
本来ならはその炎で俺の身体を強化しながら更に威力を上げることもできるはずだが、今は試し斬りそして病み上がりなので、チュペもそこを理解して剣に炎を纏わせるだけだ。
チュペの炎を纏った俺の剣が、真っ暗な夜を切り裂くように赤い筋を描く。
その先にはもうボロボロのカカシ。
懐かしいという気持ちを覚えながら体はごく自然に動いていく。その動きを何度も繰り返し、魂まで染みついているような感覚と共に。
ザンッ!
自分が思っていた以上に滑かに体が動いて振るった剣がカカシを真っ二つにし、それがボッと音を立てて燃え上がり一瞬で灰となった。
灰は風に吹かれサラサラと夜の森に消えていきカカシは再生することなく、俺の剣は纏っていたチュペの炎もスッと静かに小さくなり消えていった。
炎の赤い光が消え再び戻ってきた夜の闇の中、剣を下ろしながら心の奥底から懐かしいという感情が生えてきて思わず目を細めた。
「ケッ!」
「カッ!? カメメメメメメメッ!!」
が、その感覚もチュペの得意げな鼻息の後に聞こえてきたカメ君の何か訴えるような声で、すぐに心の奥底に引っ込んでいった。
カメ君も何かやりたいのかな?
でもカメ君とのコンビ技はないからなぁ……だったら、作ればいいだけだな!
そうだな、記憶にあるものばかりを真似しないで、今の俺らしい戦い方を編み出したいよな。
よっし! 思い付いた!
チュペは俺の左耳のウル・オブ・クリムゾンにいる、そしてカメ君も俺の左肩が定位置。
だったら、コンビじゃなくてトリオでいいじゃないな。
一人より二人、二人より三人! いくぜ、今思い付いた今世の俺の新必殺技!
「カメ君、とりあえずお試しだからあまり大きくない水球を空中――高めの位置に出してくれ! チュペはもう一度俺の剣に炎を!」
「カメーッ!」
「ケーーーーッ!」
カメ君が人の頭サイズの水球を俺の頭上にプカンと出し、チュペが再び俺の剣に炎を纏わりつかせた。
「カメ君、チュペ、ありがとう! いくぜ、今思い付いた俺達のコンビネーションアタック!」
炎を纏う剣を振り上げ、空中に浮く水球へ向かってジャンプしてそれを勢いよく斬り付ける。
チュペの炎は模擬体とはいえ炎を司る古代竜の炎。
触れたものは一瞬で灰となり、水は蒸気となる――そう、蒸気となり爆発するのだ。
ボンッ!!!
カメ君が出した水球をチュペの炎を纏った剣で斬り付けると、水球が一瞬にして沸騰し大きな音を立てて激しく飛び散った。
それは俺が水球を斬って安全圏まで逃げるより早く。
そして飛び散った熱湯が、まだ爆発の影響圏内にいる俺の上に降り注いだ。
新技の開発とは一のひらめきと九十九の失敗である。
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