ギミックは踏み倒すもの
誤字報告、感想、ブックマーク、評価ありがとうございます。
ニーズヘッグは蛇系の魔物が憑代となって、それに周囲の穢れた魔力が吸収されて生まれる魔物で、子供のうちは自然の中の物に擬態して、ひたすら周囲から穢れた魔力を集めながら成長しているらしい。そして、魔石の中の蛇が憑代となった蛇、つまり本体だった。
成長しきってしまうと、手の付けられない強さになるので、大きくなりすぎないよう毎年豊穣祭の時期にラトが始末しているそうだ。
しかしニーズヘッグが穢れた魔力を吸収するおかげで、森から穢れが取り除かれるので、ニーズヘッグは森には欠かせない存在なのだと言う。
故に、そのニーズヘッグの討伐は、森に住む妖精達にとっては年に一度の大事な行事らしい。
そんなわけで、ニーズヘッグが己の魔力から生み出すヘビの討伐が、ダーツ屋を含め妖精達のゲームの景品になっているらしい。なるほど、わかるようでわからん、妖精価値観。
ちなみに、ニーズヘッグの討伐が終わった後は、新たに蛇の魔物を魔石の中に閉じ込めて憑代にし、次のニーズヘッグの幼体を作るらしい。
つまり、俺達が倒したニーズヘッグは妖精達が作った魔物という事だ。だから魔石の中に蛇が入っていたのか。
「蛇の討伐は、ニーズヘッグの前哨戦みたいなものですわ。ニーズヘッグの産み出す蛇を倒し続ければ、ニーズヘッグは魔力をどんどん消耗して、その分弱くなりますの」
「皆さんに蛇を倒して貰って弱くなったところで、泉からニーズヘッグをおびき出して、退治するのですぅ」
「弱くなったニーズヘッグから魔石を取り出して、その中の蛇を引っ張り出して、プチってして終わりよ」
幼女達の話を聞いて、アベルと顔を見合わせた。
「もしかして、小さい蛇が出て来なくなるまで倒したら、ニーズヘッグは弱くなるの?」
「延々と再生繰り返してたのは、蛇をあまり倒さなかったからか?」
「ですですぅ。蛇が出なくなるまでやると、角の生えたお馬さんくらいになりますねぇ」
角の生えたお馬さんってユニコーンの事か。だったらBランクくらいじゃないか。
「ニーズヘッグにたくさん蛇を作らせて消耗させれば、再生能力もかなり下がりますわ」
「子供のニーズヘッグは、敵が近くに来ても蛇だけ出して姿を現そうとしないから、本体をつつかなければ、ひたすら蛇を倒すだけの遊びよ」
めっちゃ本体つついたな。泉に擬態してるとか思わないだろ。そういうルールあるなら教えといて欲しかったな。
「つまり泉をつつかなければ、あんなの出て来なかったってことだよね?」
「そういうことかな? まぁ、素材たくさん取れたし? 結果よしということにしとこう?」
「ホッホーッ!」
アベルと揃って溜息をついた。
素直に蛇を狩っておけば、あのアホみたいにしぶといニーズヘッグを相手にしなくて良かったらしい。
ニーズヘッグの肉や本体を食べて、すっかり立派な梟になった毛玉ちゃんだけは、超ご機嫌だ。
「アンタ達いったい何やったの……」
ヴェルの視線がなんだか生温い。
知らなかったから仕方ない! 素材もいっぱい取れたし、最終的には倒せたから結果よし!!
来年また来るようなら、ちゃんと手順を守って倒す事にしよう。
いや、来年もやっぱり再生する限り、無限素材集めでもいいかも?
「そ、そんな事よりもういい時間だから、そろそろ帰って夕飯の準備しないと! それにダーツ屋で貰った景品や、ニーズヘッグの素材も分配しないといけないしな!」
本来蛇だけを倒せばよかった所を、ニーズヘッグまで倒したので、ダーツ屋さんがたくさん景品をくれた。
本来なら、森の番人様に貢ぐ予定だった物らしい。
番人様が酔っぱらって寝ているうちに俺達が倒してしまったので、番人様に貢ぐはずの物を俺達が貰う事になった。
酒やら、食べ物が妙に多いな!?
ダーツ屋さんの報酬には、珍しい調合素材や果物やお酒、それに魔石やよくわからない装飾品もあった。
ついでに、ニーズヘッグを二枚おろしにして、刃こぼれしてボロボロになったアダマンタイトのロングソードの代わりにと、ミスリル製のロングソードをくれた。何だか、元より高価な物になった気がする。
アダマンタイトは魔力と相性があまり良くないので、妖精達では上手く直せないらしい。これは俺も自力で修理できない奴だから、でっかい町で鍛冶屋行くしかないなー。
何だかんだでニーズヘッグの鱗すごくたくさん毟ったし、牙や肉もあるし、魔石もでっかいし良い儲けだった。
「なんだかたくさんもらったねぇ。今回は、グランがトドメ刺せなかったら、撤退コースだったから、グランが多めに取ってよ」
「蛇引き当てたのアベルだしな。いつもの感じの配分でいいよ」
ニーズヘッグの魔石と魔法関連の付与のされている類の物はアベルが引き取って、それ以外は俺が引き取るのがいいかな。
「トドメ刺したのは俺じゃなくて毛玉ちゃんだな? 毛玉ちゃんいなかったらもっと長引いてたし、毛玉ちゃんにも分けていいよな?」
「そうだね」
「ホォー?」
首を傾げるフクロウめちゃくちゃかわいい。
「毛玉ちゃん何か欲しい物ある? お肉? お肉以外に何か欲しい物は?」
「ホッホッホッホーッ!」
毛玉ちゃんは翼を大きく広げて、足踏みをしている。お肉が欲しいであってるのかな?。
「お肉だけでいいのかい? お肉は生モノだけど大丈夫?」
「ホーッ!」
お肉を出すと、毛玉ちゃんがお肉を受け取って、そのお肉がヒュッと消えた。
「毛玉ちゃん収納スキルあるのか。さすが妖精」
「ホッホッホーッ!!」
猛禽類のドヤ顔可愛い。収納スキルあるならお肉たくさん渡しても大丈夫だな。
「アレで会話が成り立ってるのがすごいですわ」
「私もあの子が何を言ってるのかわかりませんねぇ。さすがグランですねぇ」
「グランって何かそういうスキルがあるの?」
「さぁ? 俺の鑑定で見える範囲だとそれっぽいものはないけどね。昔からグランは、動物に話しかけて一人でずっと喋ってる事、よくあったよ。グランってああ見えて、あんまり友達いないからね。動物見るとすぐ話しかけちゃうんだよ」
俺がせっせと毛玉ちゃんにお肉を渡している後ろで、幼女達とアベルが何かボソボソ話してるようだがよく聞き取れない。何となく、俺に失礼な事言われてる気がする。
毛玉ちゃんにお肉を渡した後は、幼女達と一緒に我が家に帰って来た。少し遅れて千鳥足で、すごく酒臭いラトが帰って来た。
「グランとアベルが、ニーズヘッグを始末してくれたと聞いた。感謝する」
そう言って、ラトはいつもより多めの食材と、金色のリンゴを俺とアベルにくれた。
「金色のリンゴなんて初めて見た。鑑定してもよくわからないな」
「俺の鑑定でもよくわからないや」
「森の神木の実だ。もしもの時に食べれば、どんな深い傷でも癒えるし、強い毒も消える。更に魔力も回復する」
「エリクサーみたいな物かな」
アベルがリンゴを手のひらの上に載せて、まじまじと見ている。
「うむ、エリクサーの材料にもなる実だ」
「もったいなくて、使うタイミングに困りそうだね」
「その前に、こんなの使う状況に陥りたくないな」
何だかすごくレア素材を貰ったようなので、そっと収納の中にしまっておいた。
エリクサーの素材というのは気になるけど、俺のスキルでは作れる気もしないし、他に何の素材を使えばいいのかもわからない。
そのままでも効果あるなら、とりあえず収納に入れておこう。しかし、これを使うような事態が、この先ない事を願う。
そして、今回のニーズヘッグの騒動で、ホホエミノダケもニトロラゴラ爆弾ポーションも使い切ってしまったのだが……。
あのお祭り以降妖精達が頻繁にうちに遊びに来るようになり、おやつを渡すとくれるお土産の中に、たまにホホエミノダケとかニトロラゴラが混ざっている時もあって、また在庫が復活してきた。というか、渡される物の中にしれっと混ざってて恐ろしい。
ラトがよくホホエミノダケを持って来るのは、妖精から貰った物だったのかもしれない。
毛玉ちゃんも頻繁に遊びに来るようになった。毛玉ちゃんはもう毛玉ではなく、立派なフクロウだ。
雛の頃は真っ黒だった体は、今では艶のある黒になり、羽の先には銀色の模様が混ざって、なんだかすごくかっこよくなっている。
お祭りの時あげたパウンドケーキがお気に入りのようで、毛玉ちゃんがいつ遊びに来てもいいように、パウンドケーキをストックしている。時々、森で狩ったと思われる魔物を持って来てくれて、夕飯も一緒に食べる日もある。
言葉は喋れないようで、ご飯やおやつを食べてちょっと遊ぶと、森へと帰って行く。昔のラトみたいだな。
森の傍で妖精と交流のある生活――これってすごくスローライフじゃない!?
そーだよ、これだよ! こういうのんびりした生活がしたかったんだよ!!
お読みいただきまして、ありがとうございます。




