俺のこともちょっとくらいは認めろよ
誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。
「こっちだ、†堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファー†!!」
起き上がろうとしたところを再び名を呼ばれ体を傾けた奴の目が、全力で走る俺を追う。
そうだ、俺に集中しろ。
名を呼んだだけでお前を怯ませるのも、お前の周囲の闇を払いお前の住み処を抉るほどの武器を持っているのも俺だ。
さぁ、俺の方に来るんだ。
名前を呼ばれ弱体化している状態であるにもかかわらず、奴は特に何もすることなくアベルとカリュオンの最大級の攻撃が掻き消された。
そう、防がれたというか掻き消されたのだ。光が強大で濃すぎる闇に飲み込まれるように。
それはカリュオンが言ったように、奴に纏わり付いている闇によって完全無効化されたのだろう。
濃すぎる闇に光が飲まれる感じ――あの闇を上回る光なら闇を振り払い、奴にダメージを与えることができるかもしれないが、アベルとカリュオンの全力だと思われる攻撃をあっさり掻き消してしまったことを考えると、力押しであの闇を破るのは俺達では不可能だろう。
ならばやはりあの闇をどうにかしなければ――カタストロフィー・スターの復活を待ってあれを吸い込んで取り除かなければならない。
そうしてあの闇が剥げたら、もう一度アベルとカリュオンに本気の攻撃をしてもらうことになる。
そのためにはカタストロフィー・スターの復活を待つだけではなく、今魔力を消耗している彼らが魔力を回復する時間を稼がなければならない。
特にカリュオンはここまで激しい攻撃を受け止め続け最大級の引我応砲を二発も撃っているため、平気そうな顔をしていてもかなり消耗しているはずだが、俺が近くにいると俺を狙って飛んでくる攻撃を無理してでも受け止めにいくだろう。
俺だけではなくアベルやジュストを守るために。
だから彼らのところから俺が離れるのが最も効率がいいのだ。
カタストロフィー・スターを左の肩に担いだまま走る。
その上には、メラメラと燃えるような火の魔力を纏うチュペがちょこんと乗っかって寛いでいる。
うぉぉぉぉい! お前がそこでポカポカしていたら、カタストロフィー・スターが冷めないだろ!!
あぁん? カタストロフィー・スターが持っている熱がほどよく気持ち良いてか!?
てめぇ、今日はいつになく態度が悪いな!? いや、いつものことか!?
はーー、シュペルノーヴァは偉大で雄大でかっこいいっていうのに、うちのチュペときたら……あちっ! いきなり火の玉をボッと吐くんじゃねえ、カタストロフィー・スターが冷めないだろ!!
「むあー、真名の効果で大人しくなっていても周りの闇の攻撃は止まんねーなぁ。しかももう起き上がりそうだし……†堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファー†!! はー……つら……」
チュペに気を取られている間にも、あいつの纏う闇からヒュンヒュンと闇でできた矢や飛んできており、それを避けながら奴が起き上がりそうになればその名を叫び怯ませる。
「うおっと、危ねぇ!! 危ねぇけど、そんな雑な攻撃には当たんないもんねー! やーいやーい、お前のエイム、クソエイム~~~~!! あっかんべーーーー!!」
ヒッ! 飛んできた矢を避けならちょっと煽ったら飛んでくる矢の数が増えた。
さては貴様、煽り耐性が低いな?
いいぞ、そのまま俺に夢中になってこっちに攻撃してこい、あっかんべーーーー!!
奴を煽りながら引きつけ、全力で走りアベル達から離れる。
しかし名を呼んでから奴が復帰するまでの時間は短くなっているし、奴を引きつけておくにしてもあまり長い時間は無理そうだ。
肩の上のカタストロフィー・スターはまだ熱い。
この調子ではカタストロフィー・スターが復活するまでに、俺の体力がきつくなってきそうだ。
だったらカタストロフィー・スターの復活を早めないといけないな。
「ケ?」
降り注ぐ闇の矢の中を駆け抜けながら横目で左肩を見ると、カタストロフィー・スターの上で寛ぐチュペがアホ面で首を傾げた。
そもそもお前がそこでポカポカしているからカタストロフィー・スターが冷めないのだから、お前にはちょっと働いてもらうぞ。
ちょっぴりピンチかもしれないが、ここで終わるわけにはいかなんだ。
ここには俺だけじゃなくて大切な仲間もいるし、俺の帰りを待っている奴らもいる。
そして俺も今の生活が、グランという人間であることが、この人生が気に入っているんだよ。
「チュペ、これはお願いじゃなくて命令だ。ソウル・オブ・クリムゾンに居候をして、ちょいちょいつまみ食いをしてるんだから働いてもらうぞ」
「ケッ!?」
いつもよりも低い声に、いつもよりもきつい視線は、ちょっと家主の威厳を出そうとしただけでほぼ無意識だったのだが、カタストロフィー・スターの上で寛いでいたチュペはいつもより威厳のある俺に驚いたのかビクンと揺れてシャキッと体を起こした。
どうだ、これが家主の威厳だ。
それに何となくわかったんだ。
ツンデレチュペは意外にも、お願いされたり自分から力を貸したりするよりも命令される方が好きなんだ。
ただし好感度の高い相手に限る。
「そんなにつまみ食いが得意なら、カタストロフィー・スターの持っている熱をつまみ食いすることもできるよなぁ? チュペルノーヴァ! カタストロフィー・スターが持っている熱を吸い上げろ!! できるだろ? お前は全ての炎を隷属するシュペルノーヴァの――シュペルノーヴァの力を持ったチュペルノーヴァという存在なんだもんなあああ!! ただ熱いだけじゃなくて、それを吸い取って冷ますくらい簡単だよなぁ!?」
シュペルノーヴァの力を持っているチュペルノーヴァ、お前ならできるよなぁ?
俺の視線はもう奴の方に戻っている。
奴の攻撃を躱さなければならないから、いつまでもチュペの方を見ているわけにはいかない。
だけどダラダラしたチュペがやる気を出したのはわかった。
ホント、チュペはツンデレだなぁ。
命令されるのを待っていたんだろ?
この状況で俺がどういう判断をするか、俺がチュペの力を理解しているか、俺がその力を上手く利用できるか、それらを見定めながら俺がお前に命令するのを待っていたんだよな。
お前の助けをただ待っているだけの俺には興味がないと。
どうだ? 俺は合格か?
それともやっぱり、あそこで眠っている彼じゃないとダメか?
だけど自らの意思で俺について来たのはお前だろ?
だったら俺が生きている間くらいは、俺のこともちょっとくらいは認めろよ。
俺はもうお前をシュペルノーヴァではなくチュペルノーヴァだって思ってんだから。
「ケーーッ!!」
装備越しでさえも熱く感じていたカタストロフィー・スターの熱が、チュペの声と共にスーッと引いていくのがハッキリとわかった。
さっすがチュペだな、この程度のことは楽勝ってか?
奴の攻撃を躱すの忙しい俺はチュペの方を見ることはできないが、カタストロフィー・スターの上からフンスという得意げな鼻息はしっかり聞こえた。
それと同時に沈黙していたカタストロフィー・スターが緩やかに、周囲の沌属性の魔力を吸い込み始めたことにも。
そして無意識に口の端を上げなら、ポチッとカタストロフィー・スターの起動ボタンを押した。
気を吹き返すように、そして目覚めるようにカタストロフィー・スターの砲身に刻まれた細工に光が灯る。
「いけ、カタストロフィー・スター! †堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファー†の闇を吸い込んでしまえ!!」
もちろん俺が叫ぶまでもなくカタストロフィー・スターは、沌の魔力で形成されている漆黒の闇を吸い込み始めている。
しかしその量は膨大で、一度はチュペのおかげでクールダウンした砲身が再び熱を持ち始めている。
「頼むぞ、チュペ!」
「ケッ!」
得意げに熱を吸収するチュペの気配。
だがこの感じだと、最大級のカタストロフィー・スターマインを放てばカタストロフィー・スターは完全に沈黙してしまうかもしれない。
だが、これで決めてやる。
身体強化を一度中断し立ち止まる。
そこに降り注ぐ無数の黒い闇の矢。
だがその全てはカタストロフィー・スターに吸い込まれ、混沌の闇を振り払う力となっていく。
その全てを吸い尽くす頃にはアベルもカリュオンも立ち直るはずだ。
その時が俺達の反撃の時だ。
だから待っていろ、†堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファー†!!
お読みいただき、ありがとうございました。




