梟と蛇
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「うおおおおおおおお!!」
目の前まで迫っているニーズヘッグの口に向かって、収納から取り出したエンシェントトレントの角材を縦方向に突っ込んだ。
角材を口に突っ込まれたニーズヘッグは、口が閉じれなくなったが、それもすぐ噛み砕かれるだろう。
直後に視界が揺れて、アベルの横に引き戻された。
「助かった」
「もー、グラン無茶しすぎでしょ」
「アベルが助けてくれると信じていた」
毛玉ちゃんキャッチした後、アベルが引き戻してくれると信じてたからな! ありがとう、空間魔法使いのチート魔導士様!
「で、アレどうすんの? 肉片にしても再生するなら、これ以上戦う意味なくない?」
アベルが指差したニーズヘッグを見ると、俺が突っ込んだ角材をバリバリと噛み砕いているところだった。
そして、そのニーズヘッグを見てある事に気付いた。
「本体は魔石というか、魔石の中に蛇っぽい物が見えたから、おそらくそれが本体だ。それより、ニーズヘッグ小さく、というか短くなってないか?」
「言われてみるとさっきよりほっそりした気がする。長さは明らかに短くなったね。でも本体は魔石と言う事は、魔石を壊すまで復活するって事か」
「魔石の中身が生きてる限り再生しそうだけど、俺達が肉片を回収した分、質量が減って小さくなったみたいだ」
「そうみたいだね」
「つまり、使えそうな部位を切り取って再生させてを繰り返せば、有用な素材を中心に集めれるし、ニーズヘッグも弱る」
「今のグラン、すごく金の亡者、いや素材の亡者の顔になってるよ」
どういう顔だよ。
「まぁ、奴の体を削り取って質量を減らせば、再生してもどんどん小さくなるって事だな」
「そうだね。再生するだけの体が無くなれば、再生しなくなりそうだしね」
「再生しなくなるまで削って、最後に魔石だけになったら、どうにかして中の蛇にとどめさせないかな?」
「それならいけるかも。でもどうする? さっきデカイ攻撃入れたから、俺の方に来そうだし、あんまり大きな魔法使えそうにないな。しかも、肉片から再生してホホエミノダケの効果切れたみたいだから、ブレスもきそう」
角材を噛み砕いたニーズヘッグが、口を大きく開けているのが見えた。
口の中に黒い靄のような物が集まったと思うと、その直後、黒と紫が混ざり合った炎の玉が吐き出されてこちらに飛んできた。
アベルと左右に別れるようにそれを避けて、俺はニーズヘッグの方へ向かう。
「囮役は任せた!」
アベルが狙われてるなら、囮はアベルがやるしかないな。
「か弱い魔導士を囮にするなんて、ひどい近接だね!」
どの辺がか弱いのか教えて欲しい。
素材としては牙が使い道多そうだけど、牙を抜き取るのは無理だよな。顔の周辺の角を狙うのがいいかな。尻尾から切れば肉と鱗は取りやすそうだな。羽は先端の爪だけ貰うか。
ホホエミノダケの効果が切れてブレスを吐くようになったニーズヘッグは、ブレスを吐こうとする時には少し動きが遅くなるようなので、その時を狙えば、後ろからの攻撃がしやすい。
アベルを狙ってブレスを吐こうとしているニーズヘッグの後ろに回り込み、切り落とせそうな太さの辺りで尻尾を切り落とし収納へ放り込んだ。さすが、アダマンタイトの剣はよく斬れる。
尻尾を切り落としたので、ニーズヘッグの注意が俺に向き、黒紫の炎ブレスがアベルの方ではなく俺の方に飛んできた。
「うおっと!」
いきなりターゲット変えるのはやめて欲しい。ギリギリでそれを避けて、ニーズヘッグから離れる。
その隙をアベルが見逃すわけもなく、アベルの放った風魔法が、ニーズヘッグの顔の横に生えている牙を切り落とした。
その攻撃で、ニーズヘッグの注意がアベルに向いたので、その隙に地面に落ちた牙を回収して、いつの間にか再生している尻尾を再び切り落とした。すると、今度はこちらにニーズヘッグの注意が向いた。
さてはコイツ、あまり頭が良くないな? これはアベルと俺で交互に攻撃すればいいな?
アベルもそれに気づいたらしく、ニーズヘッグが俺の方を向いた隙に、先程とは反対側の牙を風魔法で切り落とした。
気づいたらもう、二人で交互に攻撃するよね。
しぶといだけで普通に攻撃通るし、頭もそんなによくないので、このままアベルと交互に攻撃をして削って行けば、そのうち再生しなくなるだろう。
そう確信しながら、アベルと交互に攻撃しているうちに、ニーズヘッグはだんだん小さくなっていった。
そのサイズがちょっとずんぐりしたロックパイソン程になって、そろそろとどめがさせるかもしれないと思い始めた頃。
「あー……、飛んでっちゃったか」
かなり小さくなったニーズヘッグが、上空へと上がった。
先程アベルに空中でデカイ魔法を喰らったので、空中を警戒していたのか、ずっと飛ばなかったニーズヘッグがかなり上空まで舞い上がってしまった。あれだけ上空まで上がられると、俺は手の出しようがない。
上を見上げると、空中でバチバチと火花のようなものが散っているのが見える。空気がザワザワし始め、魔力が動いているのがわかる。
何か大きな魔法が来る前兆だ。
ヒュッと視界が切り替わって、例によってアベルの横まで引き戻された。
「防御魔法張るよ」
「頼んだ」
アベルがピラミッド状の光の障壁を展開した直後、ニーズヘッグが黒い稲妻を纏いながら上空から突進して来て、アベルの出した光の障壁にぶつかった。
パリンッ!
高い音がして光の壁が砕け、ニーズヘッグが突っ込んで来た。
「なっ!?」
「くそっ!」
反射的にアベルを突き飛ばすように、一緒に横に倒れ込んだ。その上ギリギリをニーズヘッグが通過していった。
「あぶねぇ」
「戻って来るよ!」
俺達の上を行き過ぎたニーズヘッグが、向きを変えて再び突進して来るのが見えた。
「アベルそのまま伏せてろ。筋力系の強化魔法だけかけてくれ」
「わかった。あれどうにかできるの?」
「多分いける」
自分の身体強化スキルの上にアベルの身体強化も乗った状態だ。ニーズヘッグの大きさはもうあまり大きくない。少し大きめのロックパイソン程度なら多分いける。
こちらに向かってくるニーズヘッグに向かって、アダマンタイト製のロングソードを構えなおした。力負けはしないと思うが、上手く行くかはタイミング次第だ。アダマンタイトのロングソードなので、剣の強度も長さも足りているはずだ。
「さあ、こいよ」
ニーズヘッグが口を開けて目の前まで迫って来た。スッと横に避け、ニーズヘッグの開いた口に横向きで剣を入れて、両手で剣を握って踏ん張った。
体全体、特に腕にものすごい衝撃が来て、ゴリゴリと激しい振動が剣から腕へと伝わってくる。アダマンタイト製とは言え、流石に刃こぼれしそうだ。
突進してきたニーズヘッグの口に横向きに入れた剣が、ニーズヘッグの勢いでその体を二枚に下ろしていく。
ニーズヘッグは俺達から通り過ぎた場所で、上下二つに分かれて地面に落ちた。
突進してくる系の敵には、やっぱこの戦法に限るな。
再生する前に回収しようとしたら、上下に別れても魔石が残っている方は生きている様で、片身しか回収できなかった。
「これ、また再生するのか。めんどくさい奴だね。このまま魔石叩き割りたくなるよ」
これで更に小さくなるとは言え、めんどくさい敵だな。
Sランクの魔物の魔石なので、出来れば回収したいけど、どうしたものか。
「再生する前に出来るだけ切り落としとくか」
地面に転がったまま再生を始めたニーズヘッグの残った半分に近づいた。
「ホッ!」
突然毛玉ちゃんがフードから飛び出して、ニーズヘッグの方へと飛んで行った。
「毛玉ちゃん、危ないよ。って、でっかくなってる!?」
フードから飛び出して来た毛玉ちゃんは、フクロウらしい姿になり体も大きくなって、普通のフクロウよりも二回り以上大きなサイズになっていた。
もしかして、ニーズヘッグの肉食べたから!?
「ホッホッホッホッ!」
毛玉ちゃんは短く鳴きながら、再生するニーズヘッグの胴体をつつき始めたかと思うと、そこからコロリとニーズヘッグの魔石が出て来た。
「え? 毛玉ちゃん優秀」
毛玉ちゃんがニーズヘッグから魔石を取り出したので、残った部分も収納する事ができた。
さて、残りは本体が入っている魔石だけなのだが。
「ホッホッー!」
ドヤ顔で胸を張っている毛玉ちゃんの足元で、魔石がカタカタと揺れながら、地面の上を這って逃げるように毛玉ちゃんから離れ始めた。この状態でもまだ動くとは、なんとしぶとい。
カタカタと揺れながら、地面を這うニーズヘッグの魔石を、毛玉ちゃんは片足で押えた。その表情、なんとも誇らしげでとても可愛い。
毛玉ちゃんが、足の下でカタカタと揺れている魔石を嘴でガツンとつつくと、中から黒い小さな蛇が飛び出して来た。
そして、毛玉ちゃんはその蛇を嘴で摘まんで、そのままゴックンと飲み込んでしまった。
「ええ……ちょっと毛玉ちゃん、飲み込んじゃった!? 変な物食べたらおなか壊すよ? ペッしたほうがよくない?」
「ホォー?」
あざとく首を傾げられたが、毛玉ちゃんが飲み込んだのは、魔石の中にいたニーズヘッグの本体だろう。
あんなもの食べて大丈夫なのか!?
「ホッホッ」
毛玉ちゃんがニーズヘッグの本体を抜き取ってしまった魔石を足で掴んで俺のとこに持って来た。
ニーズヘッグの本体が抜けた魔石は、黒かった色が橙色の魔石に変化していた。
「ええー? どうなってんの? 魔石の中に本体がいるのも驚きだけど、その魔石から本体引っ張りだして食べちゃうとか、妖精って不思議」
驚いているアベルの視線を受け止めながら、毛玉ちゃんは俺の肩にとまってドヤ顔をしていた。
「これで打ち止めっぽいかなぁ」
辺りを見回したが、何も出てくるような気配はない。
「かなー? もうちょっと待ってみて何も出なかったらかえろうか」
アベルも俺もニーズヘッグの返り血だらけになっているので、アベルに浄化魔法をかけてもらいつつ様子を見ていたが、何も出てこないようなので、そのまま帰還用の魔法陣から帰る事にした。
俺達が倒したニーズヘッグは子供だったようだが、あのしぶとさの上に体を削って小さくなった後でも、アベルの魔法障壁をあっさり割ってしまうとか、大人のニーズヘッグだとどれだけの強さかなんて考えたくないな。
帰還用の魔法陣から帰ると、ダーツ屋のカラスの妖精と一緒に三姉妹達が待っていた。
「ええ? グラン達がニーズヘッグ倒しちゃったの?」
「ラトが飲んだくれてる間に、番人のお仕事終わっちゃいましたねぇ」
「仕事をしないラトは、ただの飲兵衛ですわ」
三姉妹達が呆れた顔をしていた。
え? アレ倒すの番人の仕事だったの!?
お読みいただき、ありがとうございました。




