気を引くつもりが心惹かれて
おとなしい子を見ると笑わせようとしてしまうのは男の本能なんですかね。遠い昔を思いだしつつ書きました。短いですが楽しんで貰えたら嬉しいです。
柳田さんは大人しい子だった。机に座って本を読んでばかりいて友達と話すような事も無かった。
そんな様子を見ていて『笑わせてみたい』となんとなく僕は思った。ただの好奇心であって、好意の類いではなかった。今思えば野次馬根性のような下卑た思いだったかもしれない。そんな僕のチャレンジ開始から1ヶ月が過ぎた。残念ながら未だに彼女を笑わせる事は出来ていない。
最近流行りのお笑いも真似してみた。一発ギャグも披露した。でも、柳田さんは反応すらしてくれなかった。伸びた前髪で目元は見えないけど、冷たい目線を送られている気がした。
……胸がチクリと痛くなった。それから僕は無理に笑わせるのを辞めて彼女が好きそうな本を沢山読む事にした。そして本の話を彼女にしてみた。その日から柳田さんは徐々に僕と話しをしてくれるようになった。しかし、それでも笑ってはくれなかった。
ある日の授業、学校の視聴覚室で授業があった。何やらビデオを見るらしい。その日は偶然にも柳田さんが授業当番でテレビの準備をしていた。だが、急にキョロキョロと辺りを見渡している。……どうやらリモコンを探しているようだった。
僕も目線を泳がせて辺りを探してみると部屋の隅に転がっているリモコンを見つけた。
僕はリモコンを拾って柳田さんに声を掛ける。
「柳田さん。パチパチ君あったよ」
すると柳田さんは、ポカーンとして表情で僕を見た。……何か変な事言っただろうか?
「……パチパチ君って、何?」
「──あっ!?」
僕は自分の失敗を理解した。僕の家ではリモコンの事を何故か『パチパチ君』と呼んでいたのだ。気を抜いていたせいで口からつい溢れてしまった。
僕は恥ずかしさのあまり黙りこんでしまった。その時、柳田さんの方から「クスクス」と声がした。僕は恥ずかしさに耐えつつ彼女に目を向ける。
……心臓が跳ねた。
前髪の隙間から目元が優しく下がり、笑いを堪えている為か少し涙を湛えた眼差しが僕を釘付けにした。
僕の頬が恥ずかしさとは違う何かで火照っていく。その日僕は、生まれて初めて恋に落ちた。