遥かな影-8
* * *
夕暮れが迫った頃、美加は保育院を後にした。元木が駅まで送ってくれた。その横に並んで歩きながら、美加は、楽しくて仕方なかった。
「ねえ?」
美加が問い掛けると、元木はゆっくりと振り返った。
「なんだ」
その仕草に笑顔を向けながら質問した。
「あそこって、なんなの?大きな子もいるのに…保育園?」
「へん。違うよ。保育園は、ガキの行く所。あそこは、児童養護施設さ」
「養護施設?身体が不自由な子たちなの…?」
「はは。まぁ、昔は孤児院って言ってたらしいけど」
「孤児院?」
「あぁ、そうさ」
「孤児なの、あの子たち?」
「そういう子もいる。そうでない子もいる。……どっちにしろ、あそこしか、家のない子たちばかりの家さ」
「そう……」
「色々あんだよ、世の中は」
「ん……。ねぇ」
「なんだ」
「どうして、こんなことしてるの?ボランティア?」
はは、と笑うその笑い声は今までに聞いたことないような軽い調子だったので、美加は驚いた。
「あそこが俺の家さ」
「え?」
「俺も『孤児』なんだ」
「……そう、なの」
「あぁ。まぁ、気にすんな。それで、下のガキの相手して遊んでやるんだけど、たまに外の人をつれて来るんだ。ボランティアの大学生とかも来てくれるんだけどな。まぁ、俺の方でも調達してくるようにしてるんだ」
「そうなの…」
「野郎相手の時は、金でケリつけるようにしてるんだけどさ、女の子相手の仕事の時は、金取るより、こうやって遊んでもらうようにしてるんだ。まぁ、女相手に金まきあげるのも俺のプライドが許さないってのもあるけどな」
「ふふ…、素敵ね」
「素敵なんて、もんでもないさ。あいつらも、淋しいだろうからな。誰かが来てくれるのが一番嬉しいんだよ」