遥かな影-5
「え?」
「俺がケリつけてやるよ」
汚い身なりの男はニヤリと笑いながらそう言った。一瞬悪寒を感じたが、美加はつられて頷いてしまった。
「俺なら、松下にヤキ入れて、あんたが俺の女だってことにして、手ェ出さないよう話つけてやるよ」
「でも…」
美加の頭の中に不安がよぎった。全部、仕組まれているんじゃないだろうか。
「いいさ、心配しなくても、大丈夫。どうだ、どうする?」
「…でも、お金なんて…」
「いいぜ、別に金でなくても」
「え?」
「一日、俺に付き合いな」
「え?それって…」
「まぁ、変なことじゃねえから、安心しな。いいな、契約成立だ」
男は立ち上がった。そして美加を見下ろしながら、ニヤリと笑った。
「俺は、元木、元木純也って言うんだ。まぁ、こんな厄介事ばっかり首突っ込んでるから、ジャッカルなんて呼ばれてるけどな」
「…ジャッカル?」
「あんたは?」
「あ、広瀬美加といいます」
「何年?」
「三年。緑ヶ丘の三年生です」
「中坊ね。そんなのまで狙うたぁな」
「あ、あの……」
「まぁ、まかせときな。二三日したら、また会おうぜ」
男は立ち去って行った。美加は、ぼんやりとしたまま、そのまま残されてしまった。
* * *
数日間、何も起こらなかった。
塾の帰り道を変えたこともその理由のひとつだったかもしれない。公園の前を避けて小学校の裏を通るようにした。その道はコンビニが明るかったのも、安心できる理由だった。だけど、コンビニの前に人がたむろしていると、剛がいるのではないかと不安になった。だが、そうした不安も全て気苦労でしかなかった。