遥かな影-4
剛の怒りがついに爆発した。と、美加の腕は軽くなった。はっとして見ると、見知らぬ学生服の男が剛を殴り飛ばしていた。突然のことに剛は倒れ込んでしまっていた。
「おい、痴漢はもっとおとなしくするもんだぜ」
その男は剛を見下ろしながら、そう言った。剛は慌てて起き上がると、逃げ出すように駆けて行った。
男は振り返って美加を見た。公園の灯かりがその男の姿を浮かび上がらせていたが、学生服はうす汚く見えた。ばさばさの髪の間から冷たい瞳が美加を見ていた。一瞬身を竦めたが、慌てて礼を言った。
「あ、ありがとうございます」
「まぁ、いいってことよ」
素浪人みたいな雰囲気だと思いながら、美加はまた頭を下げた。
「ところで、彼女。さっきの様子だと、あの痴漢、顔見知りみたいだけど、またやって来るんじゃないか」
「あ…そうかもしれません」
「よかったら、力になるぜ。話してみないか」
どうしてその言葉にのってしまったのかわからなかった。ただ、まだ頭が混乱していたようだった。ベンチに腰掛けていきさつを話すと、その男は頷いて言った。
「わかった。松下ね…、あいつは嫌な奴さ。質の悪い奴でさ、あんたのこと知ってるんなら、もしかしたら、つきまとってくるかもしれないな」
「え?そんな…」
「さっきの、あの痴漢は、どんな奴なんだ」
「そう言われても…、しばらく会ってなかったから…」
「松下の言いなり、ってとこだな。要は」
「…そうかもしれません」
「じゃあ、あんた、危ないよ。ヤラれるかもしんないな」
「ヤラレル、って?」
「まぁ、危ないってことさ」
「…そんな……。どうして…」
「藤工だろ。モテない連中の吹き溜まりで、チンピラの松下だろ。まぁ、間違いないね」
「どうしよう………」
「俺を雇いな」