遥かな影-1
遙かな影~close to you~
某月某日―――曇。風向、北西。
美加が外へ出ると、もうあたりは完全に暗くなっていた。さよなら、と挨拶をして、友達と別れると家路を急いだ。
街灯の灯火が、かすかに道を指し示しているように感じながら、いつもと同じ道なのに妙な不安に襲われていた。
秋も深まった閑静な住宅街の道は、ほとんど人気がない。
―――痴漢でも出たら、どうしよう。
そう思って公園の横を通ると、公園の灯かりは煌々と輝いていて、ほっとひと安心した。と、ベンチに人がいるのが見えた。
―――学生服。
ちょっと、興味を持ったが、こんな時間に佇んでいるのは、きっと高校生だと思って美加は通り過ぎようとした。そうしながら、様子を伺って覗き込むと、少年は煙草をふかした。その仕草に目を奪われて、その方向を見ていると、相手の少年が美加に気づいた。はっとして、目を背けようとして、その少年に見覚えがあった。
「あ、美加ちゃん」
少年は、美加の名前を呼んだ。美加は無視することもできずに、言葉にならない声で返事を返した。
「やぁ、久しぶりじゃない。こっちおいでよ」
少年は手招きしている。美加はためらって近づくこともできなかった。