雪月花
竹林を通り化野へ抜ける道は、二重になっているって知ってたかい?
知らない? 長年京都に住むが、聞いたこともないって?
まぁそうだろうね。だって表向きのことじゃぁないんだもの。
普通に嵯峨野を歩けば、竹林は点在している。
だけどこの裏道を通るとね、その竹林は繋がっているんだ。
どこにって? そりゃ、決まってるじゃないか。さっきも言ったろう。
化野さぁ。
裏道を通るのは、死んだ奴だけ。誰だって死んでみないと分からない。
こんな風にね。……こら、どこに行く、引き返しちゃなんないよ。
僕の言うことが、まるで己が死んでいるみたいに聞こえるって?
よぉく思い出してみな。あんた、ここまでどうやって来た?
もうずっと寝床に伏せって、手足も衰え、立てやしなかったろう?
この道は裏の道。隠世への道さ、お察しの通りにね。
京都にはこんな場所がいくつもあるって、あんた知ってるだろう?
六道ヶ辻、蓮台野、この先の化野も……全部葬場じゃないかって?
そりゃそうだろ。死んだ人間は、普通は身内があの世まで送る手筈を整えてくれるが、あんたはそれを捨てたんだ。だから、自力で逝くしかない。
けど肝心のあんたは、なんで自分がここを進むのかすら、忘れてやがる。
……死にたくないって? 死んどきな。もう死んじまったんだから。
そもそもあんた、この世に未練なんてもんが残ってたかい?
生に噛り付くほどの意味が。手放せないものが。捨てちまったろうに。
輪廻を外れてまで今世に拘る価値なんざ、あんたの今生には無かったろ。
死ぬのが怖いってだけなら、死んどきな。あの月を追って逝け。
大きな方を目指すんだ。そうすりゃまた、次の生で現世に戻る……。
正しい道で戻りな。現世へ戻りたいなら。ちゃんと隠世を通ってね。
……行ったね。心配せずとも、お前たちはずっと永劫、ここを巡ってる。
だってお前たちは、どうせ常世の住人。この世の歯車のひとつさ。