六 ラヴラを救え
そして、そこで俺の夢は覚めた。
天井が明るい。
ランタンの火は消えていたが、外の日がテントを透かして辺りを照らしている。
ほんのりと頭痛がする。
(嫌な夢を、見てしまった……)
嫌に生々しい腐れた思い出が、泥沼から触手を伸ばしてきやがった。
思い返せば、あの時から歯車が狂い始めたのだろうか。
あの時の俺の選択が、パーティ追放の運命をすでに決めていたのだろう。
だが、仕方がなかった。あの犠牲のおかげで、俺達は生きながらえたのだから。
「……チッ」
まあ、そんな事はもうどうだっていい。
今の舌打ちで全てを忘れよう。
俺は起き上がった。
「すぅ……すぅ……」
ふと、隣で寝息が聞こえてきた。
(……ラヴラか)
獣人の少女ラヴラが、犬のように丸まって寝ていた。
今日限り泊めてやると言う約束だった。
「……おい、起きろ。朝だぞ」
声をかけるも、ラヴラは反応しなかった。
しょうがない、起きるまで待っていてやろう。
そう思い、俺は外に出た。
どれくらい経ったろうか。
ここを離れるわけにもいかないので、俺はずっと剣を素振りばかりしていた。
「おはよう……あれ、リリィ……どこぉ? どこぉ?」
テントの中から声が聞こえる。どうやらやっと起きたらしい。
「外だ」
俺は答えると、ラヴラも外に出てきた。
「おはようぅ……ふぁあ、寒い……」
寝起きでぐちゃぐちゃの髪に、耳や尻尾はへたりと萎れている。
今起きてきました満載の、ふんわり加減だ。
「何してるの……?」
「朝のトレーニングだ」
俺はそう言い、剣を芝生に置いた。
それを細い目で彼女は見つめる。
「へえ……今始めたばかり?」
「いや、お前が起きるまでずっとやっていたぞ」
「え、……息切れひとつしてないのに?」
彼女は疑わしくも驚いた。
「そんな事より、もう朝だ。約束は終わりだ、帰れ」
「えぇ、そんなぁ。もう少し一緒にいようよ」
「甘えるな。俺には俺の仕事があるんだ。邪魔をするようなら殺すぞ」
「ひっ、ごめん……。分かったよぅ」
一喝すると、ラヴラはびくりと体を震わせて渋々承諾した。
背中を向け、森の奥に足を歩ませる。
その尻尾はへんなりと萎れていた。
途中で彼女はちらりとこっちを見て。
「また……ね?」
と静かに呟いた。
(またね……か)
どうやら彼女はもう俺の事を友達かなんかだと思っているようだ。
……言っても聞かないのであれば、好きにすればいい。
その結果奴が死のうが、自業自得だ。
……。
「待て」
俺はラヴラの背中に向けて声を投げた。
ラヴラは足を止めて、振り返り首をかしげる。
「念のためだ。これを持っていけ」
俺は鞘付きのナイフを彼女に投げ渡した。
彼女は弱い。何かあった時の、せめてもの護身用だ。
彼女ならそのナイフを悪用したりはしないだろう。
「うん、ありがとう」
彼女は笑顔で礼を言うと、たたたっと森の奥に走っていった。
その尻尾を振って走る背中を見つめて、俺らしくもない、と思うと同時に。
(この程度なら罰は当たるまい)
とも思った。
さてと、再び禍脈を辿らねば。