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冷酷勇者と獣人少女。  作者: いぬはしり
二章 王都奪還
32/67

十 その勇者に人の心は無く

「リリィ、何か食べたい物はある? 奢ってあげるよ」


「いらん」


「本当に? じゃあ何か欲しいものは……」


「いらんと言っている」


 さっきからこんな調子で、ラヴラはにやにやとご機嫌だ。


 道を歩きながら、ずっとこんな風に俺に欲しいものはないかと聞いてくる。

 急に大金が入ってきた物だから、少し調子に乗っているようだ。


 そういう所はまだまだ年相応だな。

 尻尾を振るラヴラを見て思う。


 賞金だけじゃなく、剣を引き抜けた事も嬉しいのだろう。

 あの場では恥ずかしそうにしていたが、何せどんな大男でも抜けなかった剣が抜けたんだ。

 それは自信がつく事だろう。当然、俺が手伝った事は言っていないけれども……。


(いや……)


 ……もしかしたら、ラヴラの事だ。俺が何らかの手を加えた事に気づいているのかもしれない。

 だから恩返しのためにさっきからこうしているのだろうか。


「あっ、見て。美味しそうな食べ物があるよ。どう?」


「なんだ。また腹が減ったのか? それだったらその金で太るまで食べればいい」


「うぅ。そういう事言わないでよ……」


 軽口を言い合いながら、歩き続ける。

 横には上機嫌なラヴラだが、俺の意識はずっと後ろに向いていた。


(誰か、尾けてきている)


 この人混みの中、なかなか分かりにくいが、かなり手慣れた動きで俺の後ろを尾けてくる輩がいる。

 一人か二人か、人数までは分からないが確実に誰かがいる。


「ラヴラ、ここらで曲がるぞ」


 そう言って、俺はラヴラを連れて大通りを曲がり、裏通りへと向かう。

 すっかり人混みの喧騒は消え、しんとした退廃的な空気が辺りを支配した。


「なんだか怖い所……。ここに何か用があるの?」


 ラヴラはぴったりと俺にくっついたまま言った。


「ああ、ここいらで待ち合わせているはずなんだが」


 ラヴラの用は済んだ。

 次は、俺の用だ。元からの用と、たった今出来た。


 そこから少し歩いて、完全に人目が消えた頃。

 案の定、その声は聞こえてきた。


「飛んで火にいるなんとやら……とはこの事かねぇ」


 そんなキザな台詞を吐きながら歩いてくるのは、一人の男。

 いかにも真っ当な育ちではない格好をしている。


「それはどっちだかな。何者だ、お前()は」


 俺はそう言うと、その男は少し驚いたように眉を上げた。


「バレてら……。おい、出てきてもいいぞ」


 男が声をかけると、ぞろぞろと物陰から、何人もの仲間が湧いて出た。

 そして、その中に、さっきの勇者選抜ごっこの支配人が混じっていた。


「俺達が用があるのはそこの餓鬼だけだ。大人しく差し出せば、てめぇには俺達は何もしねぇよ」


 男達はまるで多勢に無勢とでも言いたげにニヤつく。


「用って……何?」


 おどおどと俺の背隠れながらラヴラは問う。


「いや、何。話はそこの男が消えてから……」


「さっきの催し物。その賞金を奪い返しに来たんだろう」


 食い気味に言うと、図星だったらしく、男達はざわりと淀めいた。

 先頭の男は、その細い目をさらに細めて、にやりと笑った。


「……察しがいいって、時に損だねぇ。分かってるんだったら話が早い。お前ら二人には消えてもらうか」


 そう言って、男達は武器を取り出した。

 そのどれもがナイフや棍棒など、あまりに粗雑な武器ばかりだった。


「烏合の衆がいくら集まった所でどうとでもなる訳がないだろう」


「いきがるなよ、餓鬼とてめぇに何が出来る」


 火花が鳴りそうな睨み合いに、場違いなラヴラの声が響いた。


「やめて! 賞金ってこれでしょ、僕、ちゃんと返すから!」


 泣きそうな震える声で、ラヴラは賞金が入った袋を手に取った。

 それを見た男は、少し呆気に取られた表情をした後、いかにもな下衆な笑い声をあげた。


「獣人ってのはやっぱり頭の出来がおざなりなんだな。この事を言いふらされちゃ困るから、二人とも殺すに決まってんだろ」


 敵意を隠す事なく男は牙を向いた。

 ラヴラは恐怖で泣きかけている。それでも必死に涙を堪えようとする様は、少し成長した物か。


「武器を構えて下がってろ。足手まといだ」


 俺はそう言って、男達に向かって一歩足を進めた。

 ラヴラは不安げに見ながらも、言う通りに買ったばかりの長剣を構えて、俺の後ろに下がった。

 

 それを見て、男達はずらずらと歩き始め、俺の周りを囲む。

 余裕綽々と言った瞳の数々は、じろりと俺を捉えて離さない。


「で? 烏合の衆がなんだって?」


 俺の真正面の男が、挑発を発した。

 それをきっかけに、周りからいくつもの罵詈雑言が飛んできた。


「おら、どうした。何とか言ってみろよ、腰抜けが」


「ビビって声も出せねーんじゃねぇの」


「所詮獣人を連れてる好き者だ。自分より劣ってる奴相手にガキ大将みてぇに称賛されて、いい気にでもなっていたんだろうよ」


 言葉だけか、すぐに攻撃に出ようとの姿勢は見えなかった。

 だが、もはやいつ殺し合いになってもおかしくはないだろう。


 そして、そのきっかけはすぐに来た。


「ん……? てめぇ、どっかで見た事あるような……」


 そう言って、正面の男は、俺のフードに手を伸ばし、顔を覗こうとしてきた。


「触るな」


 俺はがしりとその男の手首を掴むと、握り潰すように力を入れた。


「がぁぁああっ!」


 もがき苦しむ仲間の声に、男達は一斉に闘心をあらわにした。


「てめぇ!」


 棒を持って殴りかかろうとする一人の男の動きを見て、俺は咄嗟に持ってた手首を捻り壊し、その一人の男の方に向いた。

  

(大振りだな)


 俺は男の脇腹に潜り込むと同時に、その腹に拳をえぐり込ませた。

 男はえずき、俺の横でうずくまった。


 ーー男達の空気が一変した。

 さっきまでの余裕はどこへやら、皆真剣な表情で、うろたえている。


 俺は倒れた男から棍棒を拾い、その男を踏みつけながら、再び奴らに向いた。


「言っただろう。烏合の衆にどうとでもなるか、と」


 瞬間、俺は力を足に込め、一気に弾けさせ男達との間合いを詰めた。


「……ぁ!?」


 一人の男の胸元に棍棒で突く。その男は肺の空気を口から破裂させ、為す術もなく倒れた。

 続いて手近の者に棍棒で殴りかかる。単純な作業のように、一人、また一人と。

 的確に急所を狙い、一切の無駄なく行動を不能にさせる。


「……リリィ」


 目を丸くさせて、ラヴラは呟いた。

 剣を構える事さえ忘れ、ただ凶器と化した眼前の男を眺めていた。

 その戦闘に慣れたような身のこなしは、感情などない殺戮の為の凶器に近い。あれが人か? 今までの人間臭さが一切見えない。


 その無双ぶりに、凄い……と思うと同時に、心のどこかでは、この眼前の男に恐怖を覚えた。



 ーーーー。



 そして出来たのは、倒れた男達の中にただ一人佇む、リリィの姿だった。

 さも当然のような顔をして立つ姿は、紛れもなく異質だった。


「終わったぞ」


 そう言ってリリィは棍棒を投げ捨てると、ラヴラの元に近寄ってきた。


「ひっ!」


 瞬間、体が反応し後ずさった。

 それを見て、リリィは足を止めた。


「……あ」


 ラヴラは自分の今の行動に気がつくと、ふいに気まずくなり、目を逸らした。

 何をしているんだろう、僕は。リリィは守ってくれただけなのに。


(……なんで、目を合わせられないの?)


 初めて見るリリィの戦いは、まさに無双だった。彼は人々の手には負えない剣だ。

 こんな人に、僕は今まで付いてきていたのか。いや……付いてこられたのか、付いてこさせてくれたのか。


 彼は何者だ? いつも彼は彼自身の事をなんら教えてくれないが、果たして良い人なのだろうか。

 彼は自分の事をろくでもない人間だと言っていた……。


 そして、かすかに。

 ほぼ無意識の裏に、こんな事を思った。


(僕は、リリィの事をどこまで知ったつもりでいたんだろう)


 と、その時だった。


「あーあー。やってくれちゃってさあ。可愛そうになぁ」


 奥からまた、濁った男の声が聞こえた。

 リリィもラヴラも、その方向に顔を向けた。


「兄……貴」


 倒れた男が、その兄貴と呼ぶ人物を見て、笑った。

 それを聞いて、リリィはこう言った。


「最後まで隠れてやがったか。親玉は臆病だな」


 兄貴とやらは、リリィ達の前にその巨体を遠慮なく立たせると、不機嫌そうににやついた。


「俺の名はグレインだ。そして、今の失言はお前の死で償ってもらうぜ」

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