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冷酷勇者と獣人少女。  作者: いぬはしり
二章 王都奪還
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五 元勇者の二人旅

 そして無事に昨日を終え、明日がやって来た。

 まだまだ辺りは薄暗い。空はようやく白み始めた頃か。


 いや、この場合の無事にというのは喜ばしくはないのだろう。

 ようは何も無かったのだ。何の成果も得られず、ここのところ随分をこの森で過ごした。


 そう言う終わりの見えない探索の繰り返しだから、ラヴラとの時間がいい暇潰しになったのだろう。

 俺が子供を連れて王都を歩くなど、まったくなんの冗談だ。

 過去に遡って、あの頃の俺達に聞かせてやりたい。


「リリィ、来たよ!」


 もう聞き慣れた声が聞こえる。

 時間帯としてはいつもより早く、巾着袋を腰元にラヴラは駆け寄った。


「早いな、寝不足になってなどいないだろうな」


「えへへ、実は少しだけ」


「どうする? 時間ならまだあるぞ、寝ていくか」


「いや、大丈夫だよ。今寝たらなんのために早起きしたのか分からないよ」


 そうほのかな笑みで言うラヴラを見て、俺は少し呆れた。

 たかが王都で買い物をするだけだ、遠足じゃあるまいし、何がそんなに楽しみなのか。


(……いや)


 俺は彼女の姿を見る。

 どこにでもいる小娘のように見えるが、犬のような耳に尻尾を持っている立派な獣人だ。


 こんな森深くに隠れ住む彼女にとって、王都なんて滅多に足を運ばないはず。

 それはきっと大都会に見えるだろう。遠足気分でいるのも仕方がないか。


 まあ、彼女からすりゃ折角の王都見学だ。少し浮かれさせてやろう。


「出発する前に、だ。お前にとっちゃ王都なんて滅多に来れる所じゃないだろう」


 ラヴラはうんと頷いた。


「折角の祝いだ。手持ちぶさたなのもあれだし、土産くらいの資金はやろう」


 そう言いつつ懐から金を取り出そうとする俺をラヴラは止めた。


「僕、今日のために持ってきたんだ」


 そう言ってラヴラは巾着袋から硬貨袋を取りだし、中身を見せた。

 俺が渡そうとしていた金より少量ではあるが、子供が持つには随分と大きな額だった。


「ほう、これは凄いな。お前の親は金持ちなんだな」


 純粋に感心していた俺の問いに、ラヴラの瞳の色が淡くなった。


「僕、親はいないんだ」


 その言葉に、俺は眉を傾けた。


 親がいない……? 娘がこの歳で寿命死はあまり考えられない。なにか訳ありか。

 少しその事に問い詰めたくなったが、さすがに酷か。


「このお金は僕が働いて貯金したお金なんだよ。あっ、でも、里の子供達よりはお金持ちな自信はあるよ! みんなが遊んでいる間も、ちょくちょく働いて稼いでいるからね!」


 ラヴラは少し無理矢理な笑顔を作って、そう言った。


「なら、なおさらいいのか? もしもの時のために、その金はしまっておいた方がいいのではないか」


「だから大丈夫だよ。僕がいいって言ってるの!」


 彼女は耳を逆立てた。

 ラヴラにはラヴラなりの意地があるのだろう。


「そうか、すまないな」


 利用できるものは利用すればいいものを、そう思った。だが、彼女からしたら余計なおせっかいだったか。


 親がいない……この時代、別に珍しくもない事だが。

 なんとなくだが、この子が俺になつく理由が分かったかもしれない。


「まだ肌寒いが、そろそろ行くか」


 ラヴラが頷くのを見て、俺はフードを深く被り直した。

 それを見たラヴラが不思議そうな表情を浮かべる。


「どうした」


「あ、えっと……リリィはなんで顔を隠すのかな……って」


 おずおずとそう言うラヴラの言葉に、少し返答に詰まった。

 何も知らない彼女からすれば不気味だろう。


「そうだな、いずれ分かる時が来るだろう」


 フードの下から目を覗かせる。

 ラヴラはしばらく、それをじーっと見詰めていた。

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