三 勇者パーティの凱旋
この城下町の太陽は既にてっぺんまで昇っていた。
いつも騒がしい町人の声は、今日はまた一段と祭りのように騒がしかった。
人々は大通りに駆け寄り、楽器や爆竹の音が絶えず鳴り響く。
「凱旋だ! 勇者達の凱旋だ!」
誰かが言った。
勇者パーティの帰城を、みんなは待ち望んでいるのだ。
噂に聞けば、とうとう魔王軍四天王の一人を倒したと。
こんな勇者達の晴れの舞台にお祭り騒ぎをせずしていられる程、ここの住民達は慎ましくない。
それどころか町の外からも、勇者の凱旋を見る為だけに身分関係なく大勢の人が集まってくるのだ。
「来たぞーーっ! 勇者パーティだーーーっ!!」
遠くで男が叫び、人々の騒ぎは津波のように大きくなっていく。
やがてそれが最高潮に達した頃、大通りの奥からその英雄達の姿が見えてきた。
先頭にパグラ、イグノス、ラッタハット、ヴィオセントの四名。その後ろに続くは王国の護衛兵団。
延々と騒ぎ立てる人々の喧騒の中、パグラはその者達に向けて手を振ると、途端に歓喜の声が波紋のように広がった。
そうして人々の狂騒から抜け出して城門前。
やっと一人の声が通るくらいの騒ぎにまで落ち着いた。さすがにこんなところまでは民衆は入れはしまい。
「こう騒がしくては耳がつぶれてしまいそうだ」
勇者パーティの一人、イグノスは背後の民衆を横目にそう言った。
「お前ほどの巨漢が駄目ならば、俺らの耳なんてその場で爆発しちまうぜ」
ラッタハットは疲れたように笑った。
四人とも表情こそは凛々しく締めているものの、やはりどこか奥底には疲れが見えていた。
六人揃ってこの町から旅立ったのが懐かしい。
まだあの頃の俺達には、人々の期待を真っ直ぐに受け止める、使命への希望があった。
「……」
城の者達が手厚く歓迎する中、パグラ達はただ黙って歩いた。
ヴィオセントの手には、レーティの形見の杖が握られていた。
「パグラ様!」
国々の貴族達で賑わいを見せる王宮の中、一人の可憐な服を着た少女がパグラに飛びついた。
「おっと、これはこれは姫様じゃないか」
パグラはしゃがみこみ、少女の長い髪をかきあげて微笑んで見せた。
この王族たる気品と美しさを兼ね揃え、しかしどことなくあどけなさが残る少女の名はリンゴーン王女。
ダッカール王の実の娘だ。
周りの者達は微笑ましい目で二人を見る。リンゴーンはパグラ達の事を、身分関係なく家族のように慕っていた。
ふと、リンゴーンは違和感に気づき、辺りをキョロキョロと見回した。
パグラはそれを何かを察したように眉を曇らす。
「レーティ様と勇者様はどちらへ……?」
口にする事を許されない甘いお菓子をいつもこっそりと私にくれた優しいお姉ちゃんと、顔が怖くて笑顔ひとつ見せずに常に寡黙なせいであんまり馴染めなかったお兄さんが見当たらない。
パグラは何を言おうか、口をごもごもと歪ませた。かける言葉が見つからない。
そんなパグラを見かねてか、ヴィオセントが前に出た。
「ああ、そうだね。あいつらは遠い家族に会いに行ってるのさ」
いつも話す言葉言葉が色を帯びている彼女の台詞も、今は何故か妙にもの悲しい優しさに帯びていた。
「……そうですね。折角の晴れ舞台にいらっしゃらないのは残念ですが、家族も大事ですもんね!」
少し違和感を覚えつつも、リンゴーンはそれを信じ、パグラに向き直った。
「パグラ様、私にどうか冒険譚を聞かせてください!」
王族といえども純粋に輝く少女の瞳に、パグラは笑みを返した。
「ああ、勿論。でもその前に、まずはお父さんに色々報告しなきゃいけないからね、ごめんよ。……待っててくれるかい?」
リンゴーンは少し残念そうに、健気にうんと頷いた。
「いい子だ」
そう言うと、パグラはすっと立ち上がった。
リンゴーン達の見送りを受けながら、勇者パーティは王の間へと向かう。
「すっかりなついてるな。これはパグラ、逆玉の輿を狙ってるか?」
ある程度歩き、リンゴーンを背にラッタハットがからかうように言ってくる。
「アホ言え。身の程くらいわきまえてる」




