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冷酷勇者と獣人少女。  作者: いぬはしり
二章 王都奪還
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二 リリィとラヴラ②

 そんな調子でどれくらい経っただろうか。

 昼が暮れ、夜が明け、一日が終え、今日みたいな一日が何度もやって来て、やっとモフィラの地図の一割がペンで塗り潰された頃。


 俺はいつも通り起床すると、眠気覚ましに外へと出た。

 ぶわっと朝の風が頬を撫で、鳥達のさえずりがどことなく聴こえる。この森はいつも平和だ。

 こうまで何もない日常だと、まるでこの世が暇を求めているようにも思える。


(さて、と……)


 俺は剣を取り出し、素振りをしながら考える。


(そろそろ別の方法も考えないとな)


 禍脈を探す方法も、ラヴラの修行も。

 後者に関しては、あれ以来一向に光る気配すら感じない。


 まあ、ついこの間までのどかな森で暮らす一般人だった少女には難しい課題だろう。

 だが、このままでは彼女自身にいずれ飽きが来よう。


(となれば、そろそろ体術でも教えてみるか)


 霊脈の流れを理解してからの方が成長が早いだろうが、彼女は一応獣人だ。霊脈に頼らずともそれなりの腕前にはすぐに育つだろう。


 それに、彼女にとっては体術の方がすぐに結果が見えて面白いはず。それからでも別に問題はないだろう……。


 そこまで考え込み、俺はふと我に帰って剣を止めた。


(……何を真面目に考えているんだ、俺は。ラヴラの修行はそもそも魔王討伐には何ら関係がないだろう)


 そう、これは単なる寄り道、暇潰しなのだ。

 これではまるで俺がラヴラの事を愛娘のように可愛がっているみたいではないか。馬鹿馬鹿しい。


 俺は剣を握る手に力を込めて、ぶんっと風を切り裂き振り切った。

 辺りの草が剣風に押され揺れる。


「……」


 そして、しばらくは無心で剣を振っていた。

 何百何千と振り終わった所で、俺は違和感に気づいた。


(ラヴラ、遅いな……)


 いつもならばこの時間帯にはすでに来ている頃だ。何をやっているのか。


 ……こう静かだと、何故だろう、少し慣れないな。

 もはやラヴラといるのが日常になりつつあった今日の朝に静寂が辺りを包む。


 忘れかけていた、これが当たり前だったか。


 後少し待って、来なかったら仕事に向かおう。

 そう思っていた丁度その時だった。


 森の奥から聞き覚えのある足音が聴こえた。

 それに俺はひとつため息を吐き、剣を地面に置き、その方を見る。


 ラヴラが枝を手にぱたぱたと尻尾を振りながら、こちらに向かってきた。

 その溢れんばかりの嬉しそうな雰囲気に、俺は少し訝しがる。


「リリィ、見て見て!」


 俺の言葉を待たずに彼女は俺に枝を向ける。

 ぐぐ~と目を固くつむり、腕をぷるぷると震わせる。


 すると枝の先端が、この朝の光の中に容易く埋もれるほどだが、ぼんやりと光った。

 そんなちっぽけな光を、この少女は精一杯にひねり出していた。


 やがてラヴラは目を開き、身振り手振りに笑顔で話した。


「なんか空気がぶわぁって体の中に入り込む感じがして、腕が熱くなったと思ったら突然光ったんだよ! これってさ!」


 気弱な彼女からは想像も出来ない程の元気な声音だった。


 それがたまらなく嬉しそうなもんだから、俺は色々考えるのを止め、しゃがみこんでラヴラに目線を合わせた。


「ああ、達成だ。よく頑張ったな」


 そう言って頭をぽんと撫でる。

 ラヴラはそれに驚いたようだけど、そのまま大人しく褒められる。


 ラヴラは笑顔のまま、犬のように尻尾をぶんぶんと振り、しばらく撫でられ続けていた。

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