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冷酷勇者と獣人少女。  作者: いぬはしり
二章 王都奪還
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一 王都にて②

「陛下、第三憲兵団兵長センオウがただいま戻りました」


 ここはダッカール城の王の間前。複雑な細工が施された巨大な扉の前、センオウと二人の従者は膝をつけて声を上げた。

 窓から差し込む日の光が、白と金のシンプルな造りをした辺りを絢爛に飾り立てる。


「入れ」


 扉の奥から静かな、しかし威厳を持った声が響く。

 センオウは横の従者二人に視線を送り、扉を開けるよう命じた。


 ギィイイイイイ……と、重苦しい音がなる。


 その瞬間、ぶわっと重圧的な空気が肺の中に流れ込んできた。


 王の間の間取りは実に単純だった。

 ただ、扉の向こうに絨毯と、その奥に導かれるように玉座があるのみ。


 そして、その玉座に座るのはダッカール国王。

 年期の入った深い彫りの男だった。

 その男の前にセンオウ達はひざまずく。


「此度の外交はご苦労だった。お前もさぞ疲れただろう。どうだ、今夜一杯、飲みにでも」


「恐れながら、私にはまだまだ休む暇などありません故」


「ふむ、そうか。残念だ。たまには付き合うのだぞ」


 王は残念そうにため息を付くと、ほおずえをついた。


「それで、どうだった。エルフの輩は何と言ってきた?」


 センオウは少し思考を巡らせた。

 エルフというのは魔法を操る事に長けた知的種族の事で、王の遣いとして彼はそのエルフの国とある会談をしてきた。

 その内容を、センオウは口の中でごもごもと繰り返し、重そうに言葉を告げた。


「魔王討伐の為、一時的に同盟を組まないか、と」


 そう言って、詳細が記されている書類を王に渡すよう従者に指示した。

 しかし、それを王は止めた。


「却下だ」


 詳細も聞かずに断る王に、センオウは眉根を寄せた。

 こんな答えになるだろうとは、会談内容を聞かされた時に薄々分かっていた。

 だけれども、だ。


「しかし陛下。今のままでは、いささか我が国は戦力に欠ける所があります。今まで陛下の御命令で向かわせた戦士は、勇者、パグラ、レーティ、イグノス、ヴィオセント、ラッタハットの六名のみ。ギルドの方でもあれこれやっているようですが、これでは魔王討伐などいつの話になるか……」


 ダッカール王国は言わば人類代表とも言える国。

 そんな国の全世界を脅かす魔王への対処があまりにも雑すぎた。


 ダッカール王国は他種族の国とはなんの同盟も組まず、独立で勇者パーティを立ち上げ魔王討伐に向かわせた。

 本来ならばこんな事態、全世界と手を取り合って共に魔王を討ち滅ぼすべきなのだ。


 しかし、そうしない理由がセンオウは分かっていた。


 王は顔をしかめて、こう言った。


「だが、エルフの力を借りる事もあるまいて。奴らはずるがしこい鼠だ。手を借りれば最後、何を言い出すかも分からん。それに、魔王の方もまだ大きな動きは見られん。しばらくはこのまま勇者達に任せておいても、問題はなかろう」


「それでは、それではいかんのです」


 センオウは思わずばっと顔をあげた。

 しかし、すぐに息をのみ深く頭を下げて、腹の底から声を上げた。


「このままだらだらと戦が続けば、いずれ民は疲弊致します。現に、この城下町と言えど不景気は続き、親を失いまともな教育を受けられずに字も読めないような子供が増えてきています。そう言った者はやがて、治安を乱す害となりましょうぞ。……つい先ほど、泥棒に出くわしました。手にはナイフを持っておりましたが、それに怯える民は多くはありませんでした。これはそう言った事態に民は慣れてしまっていると言う由々しき事。今もこうしている間に、勇者も、罪無き民でさえ、血を流しております。これでは子供達が飴玉ひとつのために殺し合いをするような、暴力はびこる治安無き時代を迎える事になるのは目に見えています。一刻も早く平和を掴み取る為に、今こそ種族問わずに手を取り合って、魔王に立ち向かうべきです!」


 段々と加熱していく言葉の数々に、王は眉をひそめた。

 正直、センオウの頭の内には言いたい事がたんとある。

 それでも、絶え間なく開きそうな口を閉じ、センオウは王の言葉を待った。


「……」


 本の少し静寂が続き、王はセンオウを見下ろした。


「わしもこんな時代は早く終わらせたいと願っておる。だが、そう事はうまくいかんのだ。エルフ達と手を合わせて魔王も無事倒せてみんな幸せ、という訳にはいかないのだ。少なくとも、魔王が存在する事によって助かっている人々もいる。我々とて例外ではないのだぞ?」


 センオウはぐっと喉をならした。

 確かに、魔王が現れたことによって収まった争いなどもある。

 魔王という全世界共通の敵が現れた事により、それまでの争っていた国や人同士の矛先が魔王へと向いた事で一時的な休戦をよぎなくされた所もある。


 かくいうダッカール王国もエルフの国含む近隣諸国との仲が悪く、いつ戦が勃発してもおかしくはなかった。


 それに、今はギルドと言った傭兵の組織が出来、魔物を倒す事で飯を食っていける人々や、ギルドを通して他国同士の繋がりが生まれる事等、何も悪い事ばかりでは無かった。

 それもあって、王は魔王に迂闊に手を出せずにいたのだ。


「今はまだ、事が動くまで耐え忍ぶ時だ」


 しかし、センオウは納得がいかなかった。


(王は何もわかっておらん!!)


 今もこうしている間に罪無き、力無き人々は苦しんでいるというのに。

 一度しもじもの身に目線を落として考えてみるべきだ。


 そうは思っても、やはり帰ってくる言葉は否定なのだろう。

 熱く煮えたぎる何かがセンオウの腹の内に渦巻いた。


「今日はもうよい。下がれ」


 センオウはしぶしぶ立ち上がり礼をして、従者を連れ踵を返し王の間から去っていった。

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