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冷酷勇者と獣人少女。  作者: いぬはしり
一章 冷酷勇者と獣人少女
11/67

六 ラヴラを救え④

 場所は同じく、元勇者リリィ。


(これは……)


 目の前に、女の死体が転がっている。

 頭は潰されていて耳は分からなかったが、尻尾は付いている。獣人の死体だ。


(この感じ、誰かに殺された感じか)


 もしかしたら禍脈の影響かとも思ったが、ここら辺にそれらしき流れはない。


 そして、まず自殺はありえない。この頭の断面は武器で殺された感じだ。何より、この女は両手を縛られている。

 辺りに武器らしき物は無い。この女を殺った犯人はまだどこかにいる。

 さらに女の頭からはまだかすかに血が流れている。最近殺された感じだ。だとしたら、犯人はまだこの森の中にいるのだろう。


 さらには、地面に車輪の跡と大勢の人の足跡が見える。獣人目当てにこの森にやってきた集団……。


 獣人の男は力が強い。並の人間の集まりじゃあ歯が立たないだろう。

 獣人を拐うとしたら、女が容易い。


 つまり、ここにいたのは獣人(商品)を拐いに来た奴隷商人で間違いはない。

 奴隷商人がその商品を壊すなどと、馬鹿な真似をしたと思うが。


 俺は女の死体に腰を下ろす。


「獣人の弔いなんて分からんからな、これで勘弁してくれ」


 俺は彼女の体に手を乗せた。


「《切取》」


 途端に、そこには元から何もなかったかのように、女の惨死体は消えた。

 こいつの身内がなんて思うかは知らないが、このまま腐りゆくよりはマシだろう。


 俺はすっと立ち上がった。


「……」


 ふと、脳裏にラヴラの存在が浮かび上がった。

 何故だろうか、何か嫌な予感がした。


 森の向こうにまで続く、奴隷商人の足跡を見る。

 ついでだ。どうせ元から当てはない。禍脈を探るついでに、この足跡を辿ってみよう。

 そう思い立ち、俺はこの足跡のレールに、自分の足跡を踏みつけて行った。



 そうしていくらか歩いた頃。

 地面に何かが転がっているのが見えた。


「これは……」


 俺がラヴラに渡したナイフだった。

 それが、この奴隷商人達の足跡の上にある。


 もしや、いや、もしやではないだろう。


 ーー()()()()()()()()()()()()()


 ドクンと心臓が鳴り響いた。

 助けに行かなければ、そう思った。


 だが、しかし、体の内から、何かの声が俺を呼び止めた。


(おい待て俺よ。わざわざあんな少女を助ける必要があるのか?)


 ハッと息を大きく飲んだ。


 なんなんだこの声は。この感情は。


 今までにない焦りが、俺の脳を震わせる。


(気まぐれの施しだと言うのならなるほど、お前はあの酒場の少年にもやったな。だが、今のお前は違う。今のお前は彼女の為だけに、彼女の事を救いたくて行動しようとしているのではないか?)


「黙れ……」


(今までお前は何人の人を見捨ててきた? 結果と命を天秤に合わせ、いくつもの合理的な決断を下してきただろう。今さら善人ぶるなよ。これはお前がやるべき事ではないだろう)


「黙れ……!」


(あの少女は救うに値するか? あれにわざわざ護身用の武器まで渡してやった、のに負けた。そんな雑魚は放っておいても問題はなかろう。今までの冷酷なお前なら、何とも思わないはずだろう!)


「黙れぇえええ!!」


 体の底から叫び、ぜぇぜぇと息を切らす。


「俺が何を救おうが勝手だ! その結果何が死のうと、どうなろうと! 本懐さえ遂げれば後はどうだっていい! そうだとも、俺は貫き通してきたはずだろう……!」


 体が震える。なんなんだ、なんなんだこれは。

 そうさ、いつものように、助けたければ助けにいけばいい。何故、ここまで苦しみ考える必要がある。


 俺は座り込み、手で頭を抱えた。


「クソッ……なんなんだ。なんでこんな感情が……!」


 決定的な俺の何かが崩れていく感覚がする。

 これはなんだ、罪悪感なのか。だとしたら何に対する?


(俺は、俺は……!)


 そして、散々悩んだ末。

 俺はフードを深く被り直した。

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