一 追放勇者
昔から俺という人間は冷酷すぎると言われてきた。
それが、こんな事態になってしまうとは。
「勇者、君にはこのパーティを抜けてもらう」
魔法の薄暗い光だけが照らす、急遽作ったテントの中。
深刻そうな顔つきでパーティの一人、パグラは言った。
他のパーティのみんなも顔を濁らせて俺を見つめる。
それぞれの胸に光るのは勇者バッジ。ここにいるパーティ全員が勇者である証だった。
そして、今まさに俺はそのパーティから追放を食らおうとしていた。
「何故だ」
薄々そんな気はしていたが、とりあえずはこの言葉を言っておこう。
「分からないのか!? お前が! レーティを殺したからだ!」
すると、パグラは信じられないとでも言いたげに怒鳴った。
他のみんなも賛同して俺を冷たい目で見る。
……おかしな話だ。
「殺した……? 殺してと頼まれたから殺したまでだが」
「ふざけるなっ! そんな理由で仲間を殺していいものか!」
「ふざけているのはお前だろう、パグラ。あれはもう仲間ではない、敵だ。では言うが、あの状態のレーティをお前ならどうした? そのまま易々と仲間に加えいれていたか?」
俺が淡々と言い放つと、パグラはぐっと喉を唸らせた。
つい昨日、俺達は魔王軍四天王の一人との勝負をしていた。
犠牲無く勝てる勝負だったのだが、そこでレーティがヘマをやらかした。
相手は生粋の取り憑き師、レーティは体を奴に奪われてしまった。
それを、もはやどうしようもないと判断した俺は刃を、レーティの、いや、敵の胸に突き刺したのだ。
「どうにかして、レーティを元に戻せた方法もあったはずだ……。あいつは仲間なんだぞ、それを……!」
「甘いわ! そういうイデアリズムが、なおお前の大切な仲間とやらを滅ぼすと何故分からん!?」
俺は声を荒らげ、パグラを睨んだ。
さすがのパグラもこれにはビビったようでいた。
「いいか? ここは戦場だ。仲間だからだと言って贔屓するようじゃ、より多くの悲劇が生まれる。どんな事があっても冷酷に、その場を合理的に判断していけ。でなければ、全員、死ぬぞ」
パグラは拳をぷるぷると震わせた。
「分かってくれ、パグラ。レーティは必要な犠牲だったんだ。そうしなければならなかった」
「……お前が仮にレーティのような状態になったとして、仲間から殺されたいと思うか?」
「ああ、思う。俺達の目的は魔王討伐だ。その為なら、犠牲にでもなってみせよう」
「なら、今、俺達の犠牲になってくれ」
俺はまばたきひとつ、黙ってパグラを見た。
「もう、お前の考え方はうんざりだ。勇者だかなんだか知らねえが、俺達の目の前から消えてくれ。昨日、パーティのみんなと話し合って決めた事だ」
パグラは重い口を開き、低い声で言った。
俺は辺りのみんなを見る。
そのどれもが、俺を敵でも味方でもない異様な存在として見る目だった。
……俺はしばらくその場に佇んでいたが、やがて口を開いた。
「そうか。……世話になったな」
俺は勇者バッジを外し、パーティの目の前に置いた。
かくして俺は勇者では無くなった。