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本能寺

蛮声と剣戟の音が、本能寺を包んでいた。

 明智勢に放たれた火で、夜とは思えないほど明るい。

 信長様と、その側近である俺たちは、弓や刀で懸命に明智勢を迎撃していたが……いかんせん、多勢に無勢である。

「仕方無し、こうなれば腹を切るまでよッ」

 信長様は弓を捨て、本能寺の奥へ向かっていく。

 俺はその後ろにつき従い、言った。

「信長様、俺が時間を稼ぎます。その間に……」

「うむっ」

 廊下の一番奥の部屋へ信長様を入れ、障子を閉じた。

 俺は、廊下で仁王立ちする。

(俺がここで持ちこたえている間に、切腹していただく。信長様を明智の手にはかけさせぬ)

 そう決意した時、十人ほどの明智の手勢が駆けてきた。

「あそこに信長がいる! 皆で打ち取れ!」

 俺は刀を構え、叫んだ。

「来い、木っ端侍ども! 信長様には指一本ふれさせん!」



 俺は、荒い息を吐いた。

 明智勢十人は殲滅したが……その代償は大きかった。俺の体は傷だらけで、刀を杖にしてなんとか立っている状態だ。

(信長様は、もう腹を切られたであろうな――最後の最後で、良いご奉公ができた)

 満足感に浸っていると……障子の向こうから、

「じん~~~~~~せい~~~~~~ごじゅう~~~~~~ねん~~~~~~」

(なぜ歌っているのだ!?)

 まだ生きてた……俺が必死に時間を稼いだというのに。

 障子ごしに見ると、信長様はどうやら歌いながら舞っているらしい。

「げてんの~~~~~~うちを~~~~~~」

 これは『敦盛』だ。

 信長様が愛する幸若舞で、かの桶狭間の戦いの前にも舞ったという。

 たしか歌詞は……


人生五十年 化天のうちを比ぶれば 夢幻の如くなり ひとたび生を受け滅せぬもののあるべきか


 まだ前半も歌い終えてない!

(信長様、なるべく早く自害していただくとありがたいのですが……)

 俺は独り言を装い、叫ぶ。

「くっそー、さっきはなんとか撃退したけど、次に明智勢がきたら持たない!」

「……くらぁ~~ぶれば~~」

(あっ、ちょっと伸ばすのが短くなった!)

 俺が喜んでいると……

「あそこだ! あそこに信長がいる!」

 またしても、十名ほどの明智勢がやってきた。

「畜生! やってやる!」

 俺は歯を食いしばり、刀を構えた。



 俺は更にボロボロになりながらも、なんとか明智の手勢を倒した。

 障子の向こうでは、依然として信長様が舞っている――まだ生きてたのかよ。

「いちど~~~~~~しょうをうけ~~~~~」

 ノッてきたのか、再び歌い方がゆったりになっている。

 だがどうやら、この部屋の中にもかなり火がまわっているようだ。障子ごしに炎が煌々と輝いている。

 ドーン! と部屋から轟音がした。

「あっつ!!」

「信長様!!」

 燃えた天井でも落ちてきたのだろうか……信長様が、素っ頓狂な声を出すのを初めて聞いた。

「あっつ! ……あっつもり……思えばこの敦盛が、いつも心の支えになってくれたのぅ」

(ごまかした……)

「めっせぬ~~~~~~もの~~~~~~! あっつ!! ……あっつもり!! ……あつい!!」

「あついって言いました! 信長様!! 燃えてますよね、信長様!?」

 もはや障子の向こうは、火炎地獄の様相を呈している。こちらにも熱が伝わってくるほどだ。

 だが、信長様の舞は、相変わらずゆったりだ。

(頑張って、もう少しです!)

「ある~~~~べき~~~~か~~~~」

(最後の節、『滅せぬもののあるべきか』を歌い終わったぞ。これで信長様も、自害で楽に……)

「めっせ~~~~ぬ~~~~」

「まだやるの!?」

 そうだ、この『敦盛』は最後の『滅せぬもののあるべきか』は二回歌うのだ。

(だが、省略しても誰も文句を言わないのに……さすが信長様だ)

「あっつ! あつい!! もののあるべきか!」

 どすっ、という音がして、信長様が倒れる。

 熱さに耐えかねたのか、最後は早口で歌って自害したようであった。

4/30にファミ通文庫様から

『朝日奈さんクエスト ~センパイ、私を一つだけ誉めてみてください~』

という本が出ます


あとノクターンノベルで違う連載もやってます


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