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死神と体力づくり

しらたまのような社長にスカウトされてから早数ヶ月。私は新しい生活にも慣れ、


全力で会社付近のグランドを走っていた。



合格の通知が来て、移った社員寮で荷解きをして。「さあこれから新社会人として働くぞ」と意気込んだ出社初日。



「じゃあこれ着て、体力づくりしよっか。」


玄関先に立っていた社長から(恐らく会社指定のものと思われる)ジャージを渡された。


「えっ」



それからは、大学時代から(ではなかったけれど)運動不足の私にとって、地獄の毎日だった。


「……ぜぇ、…はぁ、……ふぅ、」


足を緩めようとすると


「ほーらほーら、まだまだだよー。もっと全力出せるでしょー!」


そう言って社長が急き立てる。

ニコニコマークのような顔で並走されると凄い腹立つんですけど!


平日は毎日4時半から始業時間30分前まで、おまけに定時後から1時間。休日も「君、予定無いでしょ?」と返上され(失礼な!)終業時間近くまで(休憩を挟みつつ)グランドを走り、走る度に距離を延ばされる。



「……なんで、こんなっ……ぜぇ、こと、っふ、するん、で、すか」


もう合計1000周以上走ってる気がする。私は息も絶え絶えに、平気そうな顔で並走する社長(腹が立つを通り過ぎてちょっと怖くなってきた)に問う。


「そりゃ必要だからに決まってるデショー」


その時の、『何言ってんの君』と言いたげな、すっとぼけた顔が今世紀最大級に腹が立った。



「あれ何やってんの」

「…社長に体力作りさせられてんだよ」

「確か直接スカウトだったか」

「難儀なやつだな」


そんな声が聞こえる。そんなこと言うんなら助けて欲しい。


「無理無理。そもそもする気無いし」

「やがて慣れるだろ」

「さて、仕事に戻るか」

「時間の無駄」


助けてくれないの?ってか『する気無い』って何だよ。


「そういや教育係にゴーグル採用したんだって?」

「あー、そりゃこうなるわ」

「あんなにやってもまだ足りないけどな」

「おい、そろそろ仕事だ。アイツもう廃墟行ったぞ」


聞いた覚えのある声が2つほどする。絶対上司と面接官の人だ。




×



「さーて、このぐらい体力ついたんなら、もういいかな?」


社長はウキウキとした様子で回復ドリンクとタオルを渡してきた。……なんか本当になんか足元浮き浮きしてんだけど…(気のせいだと思いたい)。


「……何がですか」


臨床試験班特製の回復ドリンクは、フルマラソンを走りきった後でも、一口飲めば次は標高3000mの登山でも出来そうなくらいに体力や気力を文字通り回復してくれる特殊な飲料だ。(社長曰く「みんなにはナイショだよ♡」とのこと。)普通の滋養強壮の栄養ドリンクに、フルーツか何かを足したような味がする。なんだか美味しい。


「新人研修もお終わったことだし、お・し・ご・と♡」

「……お仕事?」


社長が飛ばしまくるハートをかわしながら聞き返した。


「掃除だよ!」


モップを手に謎にHEY!と元気なSEが聞こえそうなポーズをかました社長は、私にモップを投げ寄越した。


「へっ?!」


慌ててモップを受け取った。というかどっから出したんだ?


「ゴーグル君!」


なんか既視感あるぞコレ


「なあに?」

「うわっ?!」


やっぱり?!どっから出てきたのゴーグル君(先輩だけど)。


「お仕事のとこまでれっつごー!」


社長が手をクリームパンのような拳にして斜め前方に突き上げた(色味からすると焼く前のパンのよう)。


「ごー!」


ノリノリだね、ゴーグル君(先輩だけど)。

因みに上二つの会話順は同じだけれど最後は並び順違います。



1→2→3→4


3→1→2→4



です。

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