5.license to kill
ブリウスが目を覚ますと、そこは暗く狭い独房だった。
天井から滴る水が足首を濡らしていた。
意識を失ってから殴られたのか、頬の痛みが突き抜ける。
歯噛みしながらやがて彼は一般牢に移された。
その一般牢に人影が浮かび上がる。
そこには大男が一人、横たわっていた。
白く光る二つの目玉がブリウスを捉えた。
しかし威圧ではなく、認識に過ぎない。
「やあ……俺はブリウス。ブリウス・プディングだ。よろしく」
彼は力なく腰を下ろした。
大男は読みかけていた詩集を閉じ、ゆっくりと身を起こす。
灯りを点け、岩のような顔を突き出した。
「酷くやられたな」
大男はそう言ってブリウスの左の瞼の腫れを見る。腕の痣も。
「ああ。ウォルチタウアーにな。しかし大したことないさ」
「肩の包帯は?」
「撃たれた。だが手当てされてる。殺すのはまずいと思いとどまったんだろ」
とブリウスが答えると、大男はまじまじと見て言った。
「お前さん……いい瞳をしておるな」
大男――盛り上がった肩の筋肉。樽のような腕。
隆々とした巨躯に上着ははちきれんばかりだ。
そこから伸びた太い首は角ばった顎をガッチリ支え、目は力に溢れ絶えず周囲を見渡している。
彼はかつて何人もの人を殺し、異常者として扱われたと自らを語った。
だがブリウスにはその大男はいたってまともに見えた。
確かに危険な臭いがするが、声は穏やかで礼儀をわきまえている。
丸刈りの頭を撫で、古びた本を大事そうにさする。
ブリウスがそれに関心を示すと彼は照れ臭そうに首筋を掻いた。
「詩は癒しだ。物の見方は一つだけではないことを教えてくれる。ここで許される唯一の自由は想像だ」
と言い、あらためて名を名のった。
「俺はライセンスだ」