あとがき
ボブ・ディランの〝ALL ALONG THE WATCHTOWER〜見張塔からずっと〟ではペテン師と泥棒が密談を交わしている。「抜け出す道があるはずだ」「経営者たちは俺の葡萄酒を飲み、農民たちは俺の土地を耕す。そいつらの誰一人としてそのことの価値を知らない」「俺たちの仲間でも多くの奴が生きることはペテンに過ぎないと思っているさ」(訳詞/片桐ユズル)。
ブルース・スプリングスティーンの〝ATLANTIC CITY 〟は、岐路に立たされヤバい仕事に手をつけようとしている男の話だ。彼は恋人に言う。「すべてのものは死ぬ。それは避けることのできない事実。しかし多分死んだものはすべていつか甦る。だから化粧をし、髪をアップに結い、今夜アトランティック・シティで待っててほしい」(訳詞/三浦 久)。〝STATE TROOPER〟は犯罪を犯し警察に追われている者の不安と苦悶の叫び。〝IF I SHOULD FALL BEHIND〟は男と女の献身、愛の懇願を歌っている。
俳優のショーン・ペンはスプリングスティーンの〝HIGHWAY PATROLMAN〟に感銘を受け、映画〝インディアン・ランナー〟を撮った。見捨てる事はできない兄弟愛の物語。
エミリオ・エステヴェス監督・主演の映画〝ウィズダム〜夢のかけら〟は前科者の主人公が職に就けず、暴走する。ローン返済に苦しむ人たちの証書を焼き払うために銀行を襲撃し、彼女を連れて逃げる。エミリオの父マーティン・シーン主演〝地獄の逃避行〟のリメイクでもあり、80年代の〝ボニー&クライド〟だと言えた。
ジョン・スタインベックの小説〝怒りの葡萄〟は1930年代アメリカ、オクラホマの貧農一家が土地を失い、職を求めてカリフォルニアへ移住する物語。家も仕事もなければ休息もない。歪んだ正義、信じ難い貧富の差。社会の下層で生きている人々の状況は、実は現在も変わっていない……という視点、不条理な世に立ち向かう力の象徴として、一九九五年スプリングスティーンは〝トム・ジョード〟を呼び寄せた。
ヘンリー・デヴィッド・ソローの名を教えてくれたのは映画〝DEAD POETS SOCIETY〜いまを生きる〟だった。無気力だった自分が奮い立った。「森へ行ったのは思慮深く生き 人生の真髄を吸収するためだ 生活でないものは拒み 死ぬ時に悔いのないよう生きるために」。ホイットマンは「存在こそ尊い」と。
二十代前半、社会に出てうまくいかなかった。事が思うように運ばず、怒り苛立ち焦り苦悩し、のたうち回っていた。つけていた日記にペンを突き刺した。やり場がなかった。そんな日々の中、スプリングスティーンのアルバム〝NEBRASKA〟そして〝the ghost of tom joad〟を聴き、その短編小説ともフィルム・ノワールともいえる作風に強く惹きつけられた。「自分も作品を!」と眠っていた創作意欲がむくむくと湧いてきた。ストーリーソングのような小説を書けないか、およそ百分の映画のような小説を作れないかと。ミュージシャンが詞と曲で表現する代わりに僕は文章と絵で自分の思いを表現しようと試みる。所謂〝絵小説〟、これが僕の理想の形。
ものを書けば解放される。自由になれる。
これは僕の大切なライフワーク。
追記
この第一作〝OUT OF HERE〟には続編として〝SARA〟、前日譚として〝FREEDOM〟があります。ここでのキャラクターがその前後で登場します。ブリウス、クリシア、ジャック、ウォルチタウアー……。ライセンスのスピンオフも書きました。続く作品は一つの世界で同じ時系列で繋がっています。
僕の分身ブリウス・プディングのいる自由の国〝希望と夢の国エルドランド〟へあなたも! なんてね。
二〇一九年 三月十二日 ホーリン・ホーク




