18.dear jack
《……俺だよ、ジャック。どうしてる? ブリウスだ……久しぶりだな。あれからどうなった? 何処を彷徨ってる? ……それとも信じていたように生まれ変わったのかい?
俺は……ムショを抜け出してきた。衝動で誘いにのっちまった。あそこじゃ真面目にやってたさ。掃除も工場の作業も。狭いところだけどいろんな人間に出会った。それはそれで良かったと思ってる。
ずっと俺は考えてた。何のために生まれてきたのか、生きてるのか、生きる意味があるのか。
ムショで一緒に過ごした爺さんが言ってた。〝実は何もねえんだ。何か特別なことをするために生まれた奴なんざいねえ。自分の意志でこの世に出てきたわけじゃねえから。あるとしたら子孫繁栄。子作りぐれえのもんさ〟ってな。
〝それは誰もがブチ当たる疑問だ。真っ当にやってて何もかもがマヤカシに思えてくる。そんな時は確かなものを見据えるんだ。全てのものは息絶える。明日はわからない。確かなものとは死だ。そこから生命が見えてくる。存在そのものが特別なんだ〟
〝一度自分から離れて、自分自身を見つめるこった。生きる意味や価値は自分で決めるんだ〟……〝初めっから何もねえ。無に帰れ。土地の一部になれ。お前さんは一人じゃねえ。みんな繋がってんだ〟
そう言って爺さんは笑ってた。死ぬ時も悔いはねえってな。
そう、俺たちは土地の一部。この星の一粒にすぎない。人間自ら作ったルールの中で苦しむ。差をつけようと。神様にはそれが真実か嘘か、だけなのにな。
けど、どんなに落ち込んでも俺にはやっぱりクリシアがいる。彼女はいつまでも俺を信じて待っててくれる。互いに必要としてる。彼女の笑顔が何よりの救いなんだ。こうやってまた心配かけちまったけど……大切にするよ。
ジャック、俺たちはいつまでも一緒だ。寂しくなんかないだろう?
ジャック、また来るよ。いつか逢える日を信じてる。永遠の友よ……》
悠々と流れる雲の切れ間から光が囁いた。
また逢えるさ――そう、ブリウスにはジャックの声が聞こえた。
暮石の上、白い円筒形の灰が風に舞う。
クリシアはそっとブリウスの手を握り、微笑んだ。




