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12.pony-boys
午後十時。
クリシアはpony-boysの前に車を停めた。
そこはよくブリウスと通ったライブハウスだった。
今はこじんまりとした楽器店だが〝R.J.ソロー〟のステージは今も目に浮かぶ。
ソローのことは『ボビィ』と呼び、共に歌い、話を寄せた。
いつも彼の歌を聴き、曲に身を委ね、自分自身を見つめていた。
カーラジオのボリュームを上げ、街道や湾岸線を突っ走っていた。
昨日のことのように思い出せるが、もう随分と時が経っている。
車を停めてから三十分は過ぎた。
クリシアはラジオのチューニングを合わせ、ニュースに耳を傾けていた。
ブリウスが何をしたのかわかっている。
会いたいのはもちろんだが、どこか信じたくなかった。
胸が激しく高鳴り考えがまとまらない。顔を洗いたい。髪もぐしゃぐしゃだ。
落ち着こうと窓を開け、ブリウスが残した煙草に火を着けてみたが咳き込んでイラついて揉み消した。
ふとサイドミラーを見るとブリウスが白い歯を見せて笑っていた。
「嬢ちゃん、そいつは俺の大事な煙草だぜ」
能天気におどけて言う彼に、クリシアは腹が立った。




