10.chrisia
クリシアはもう我慢の限界だった。
ブリウスは危険だから会いに来るなと言った。
「ジャックはある組織の残党に追われていた。今度やってきたウォルチタウアーもその一味だった。そのうち気付かれる。いや、もしかしたら俺を狙って……。だから今後、面会は無しだ。手紙だけにしよう……」
それから半年、慣れたつもりでも会えない寂しさはどんなものでも他の誰でも埋められない。
クリシアはブリウスを愛している。
二人の絆は強く、永遠だ。
いつもそばにいる、たとえ何があっても待っていると誓い合った。
ブリウスが捕まったことで兄のジャックを恨んだりしたが、虚しくなるばかりだった。
ジャックはもう本当にこの世にはいないのだ。
ジャックは優しかった。
兄として、時には父親として彼女を守り、育ててくれた。
そこには温かい眼差しがあった。慈しみと悲しみがあった。
クリシアにとってジャックはかけがえのない、今でも限りなく大きな存在。
楽しかった思い出だけを頼りに、彼女は今日を生きている。
クリシアは明日、ブリウスに会いに行くつもりだ。
黒髪を梳かしベッドに横になり、クッキングブックを広げる。
――差し入れに何持っていこうか。
と、ふと気がつくと電話が鳴っていた。
《元気かい? クリシア。旅に出るぞ》
受話器の向こう、それはハスキーなブリウスの声だった。
「ブリウス!」
《嬉しいよクリシア。今、外からかけてんだ》
「え?! ……どうして?」
《話は後にしよう。時間がない。必要なものをバックに詰め込んで〝pony-boys〟で待っててくれ》
「ちょ、ちょっと待って!」
《長話はできない。急いで町を出たいんだ。頼む。……夜は冷えるから重ね着した方がいい。気をつけてな》