1.state trooper
ホーリン・ホーク版、地獄の逃避行。
1965年。生成りのコートをなびかせ、ダークブロンドのリーゼントをキメる青年ジャックは、弱者から金も生活もむしり取る国家の傲慢な経済政策に反旗を翻した。
エルドランド国中の銀行に保管された不動産登記簿を焼き払い、脱税容疑者の預金を強奪してホームレスやスラムにばら撒いた。
住宅ローン返済で苦しむ者、土地を追われ路上にうずくまる者、糧を失い死に急ぐ者たちはジャックのことを〝魂の英雄〟だと讃えた。
権力者は包囲網を張り、その神出鬼没のアウトサイダーを地の果てまでも追跡した……。
◾️主人公ブリウス画
二人は逃げるところだった。
セントラスト銀行の襲撃はうまくいった。
ブリウスは手にかいた汗を膝で拭い、バックミラーで後方を確認すると少しアクセルを緩めた。
追手のパトカーのサイレンが小さくなってゆく。
ジャックが言った。
「あと五キロほど走れば州境だ。注意しろ」
ブリウスは頷くとジャックの右足を見た。
「傷、深いのか? ジャック、どこかで手当てを」
「いや、このまま行け。大したことはない。それよりブリウスお前のおかげだぜ。ここまで逃げられた。お前は本当に最高の運転手だ」
州境を数キロほど過ぎたところで待ち伏せていた警官隊に包囲された。
警官の放った弾丸は、ジャックの胸を貫いた。
「ジャック!」
「……妹を、頼む……」
それがジャックの最後の言葉だった……。