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緑の手って、こんなんだっけ?

作者: 汐琉

スマホ練習用の作品なんで、お暇潰しに深く考えず読んでいただけると幸いです。

 唐突だが私は、ネット小説で読んだことがあった、異世界転生ってやつをしてしまったようだ。

 待っていたのは既視感だらけの展開で、前世を思い出した時には、キラキラしたファンタジーな家族に囲まれていた。

 前世では少なくとも、私は生粋の普通の日本人で、ごく一般的な女子高生だった筈だが、先日死んだと思う。

 死因は、たぶん頭部強打。

 道が凍ってたんだよ、その日はツルツルに。

 天気予報で明日は朝から冷え込むでしょう、とかお天気お姉さんが言ってたのに、隣のおばちゃんが水撒いてたんだよね、しかも夜に。

 チラッと見ていたのに忘れて、私はおばちゃんトラップでツルッと足を滑らせてしまった。

 頭部に衝撃後、目が覚めた時には、自称神様だという少年が目の前にいて、大笑いしていた。

 私の死に様がツボったそうだ。

 ぶん殴りたくなったけど、笑わせてくれたお礼に、転生にオプションつけるよ、と言われてホイホイ頷いてしまった。

 我ながら単純すぎるけど、ネットで読むラノベ好きだったから、つい、ね。

 それでラノベの主人公みたいなチートとか、ちょっと悩んだけど、すぐに思い直す。

 そんな落ち着かなさそうな生活は嫌だと。

 基本的に面倒臭がりだし、私。

 おばちゃんに復讐とかも考えたけど、滑ったのは自業自得だからね。

 で、考えた挙げ句、ふと思い出したのが、小学生の時に枯らしてしまった朝顔。

 クラスメートは簡単に育てていたのに、私だけは枯らしてしまった。

 その後、へちま、ひまわり、コスモス。なんと、かいわれ大根まで。

 全部枯らしてしまい、緑の手ならぬ、茶色の手とかずっとからかわれていた。

 せっかくだし、そういう能力を貰えば、きっともう枯らさない。

「緑の手が欲しいです」

 って、おい、危うく、手だけ緑色になりかけたよ。

 その後、何とか緑の手を説明して、自称神様とお別れしたんだけど、テンパって説明が何かアバウト過ぎたかも知れない。

 まぁ、自称だけど神様だし、大丈夫だとは思いたい。

 そんな不安を感じたのを最後に、私の意識は途切れ、気付いた時にはファンタジーな家族に囲まれていたという訳だ。

 もちろん、外国って可能性は最初に考えた。

 自称神様は、異世界転生だとハッキリ口にしてた訳じゃないし。

 外国なら、言葉が聞き取れないのも、キラキラした家族も、普通かも知れない。

 けれど、すぐに違うとわかった。

 ドレスくらいは趣味で着るかもしれないが、聞き取って理解出来るようになった会話の中に、頻繁に魔法やらモンスターっていう単語が混じるのだ。

 ゲームの話でもしてるんじゃ、と思い込もうとした私は、私の世話をしてくれる事になった専属メイドを見て、色々と諦めた。

「ふふ、お嬢様は私の尻尾がお気に入りですね」

 猫耳メイドのコラリーは、揺れる尻尾をガン見する赤ん坊な私に、そう言って優しく笑ってくれていた。

 色々と諦めてから少し経ち、私は少しだけ成長し、ハイハイが出来るようになった。

 でも、ベビーベッドからは出してもらえない。理不尽だ。

 そう言えば、やっと自分の名前がわかった。

『レティシア』

 長いよね。前世では二文字だったから、余計そう思う。漢字なら一文字だったし。

 愛称は、レティ。やっぱり、長いから不便なんじゃ、とか突っ込まないよ? 私は赤ちゃんだし?

 あと、兄と姉がいる。

 兄はラインハルト。

 姉はリリアンナ。

 あれ、ルはと思ったけど、良く考えたら、ら行って日本語の考え方なんだから、外国っぽい異世界では関係ないよね。

 なので、ルから始まる兄も姉もいないようだ。

 両親はラブラブなので、弟妹って可能性はあるかもしれない。

 私は赤ちゃんだから、良くわからないけど。と二度目な突っ込みを内心で呟き。

 ぐふふ、と赤ん坊らしからぬ笑い方をしていたら、コラリーに心配されちゃったよ。

 で、(肉体的には)幼いながらも早くこの世界を知りたいから、私は出来る範囲で色々と頑張った。

 具体的に例えるなら、適当に受けた高校の勉強についていけず、赤点確実だと言われた時ぐらい、頑張って勉強した。

 自称神様からのオマケなのか、幸いにもアルファベットの親戚みたいな字は、不思議なぐらいスラスラ読めたし。

 大人の目を盗んでベビーベッドから脱け出し、兄や姉の本棚の本を読み漁り、見つかった時は笑顔で誤魔化す日々が続いた。




 ──そんな毎日に変化をもたらしたのは、自称神様だと言っていた少年から貰った『緑の手』だった。

「またレティお嬢様ったら、こんな所にいらして」

 笑み混じりの呆れ顔のコラリーに発見され、抱っこで回収される私。

 歩けるようになったけれど、まだ足取りは覚束ないので、遠慮なくコラリーに抱っこで運んでもらう。

 ふにゃふにゃと笑うと、コラリーは蕩けきった笑顔を返してくれ、絵本読んだりしてくれる。

 どうやら本好きだと思ってるらしい。

 あえて訂正はしないよ?

 コラリーに読んでもらう絵本も、なかなかに興味深い。

 やっぱりドラゴンとか、英雄譚とかお姫様とかもいるようだ。

 ルト兄様とリリ姉様(長いのでこう呼ばせてもらってる)の本棚には、魔法の本もあった。

 試したら指先燃えそうになったんで、それからは読むだけにしている。

 魔法はもう少し大きくなるまで我慢しようと思ったから。

 せっかく始まった人生、いきなり終わらせたくはないよね?

 しかも、人体発火現象で。

 そんなある意味平和な毎日を送っていた私だったが、ある日、暗い顔をした両親に気付く。

 二歳児だからわからないと思ってるのか、私を部屋に置いたまま両親は話し込んでいて。

 結論としては、お父様が嫌みな上司?(ジャガイモの品種の仲間みたいな肩書きの人)から預けられた鉢植えの植物が枯れそうになってるらしい。

 なんでもそれはとても珍しく、滅多に咲かない花だそうで。しかも、咲いた花は枯れずにそのまま残り、高値で売れるんだって。

 高く売れる花なんて、私には胡蝶蘭ぐらいしか思い浮かばない。

 ツルッてなって、ゴンってなったのが、無事に高校卒業出来るかもってなって、ウハウハしていた日だった私には、それぐらいの知識しかないよ。

 話は逸れたけど、その植物は元々預かった時点で萎れていたらしいんだけど、そんな正論が通じる相手ではないっぽい。

 これは私(『緑の手』)の出番だと、悲しい(?)過去の幻影を振り払って気合を入れた私は、その鉢植えの花が置かれている温室を目指し──。

「レティお嬢様? 何処に行かれるんですか?」

 見事コラリーに見つかって、部屋へ回収されてしまった。




 皆が寝静まった頃、寝たフリでコラリーをやり過ごし、何とかギリギリ起きていた私は、とてとてと覚束ない足取りで温室へと向かっていた。

 正直『緑の手』があるからって、劇的になにかを起こせる訳じゃないだろうけど、両親の困った顔は見たくないから。

 少しでも、その花が元気になってくれれば、そう思っていた可愛い時期が私にもありました。

 思わず現実逃避しかけてしまったが、ひとまず私の『緑の手』はちゃんとお仕事したらしい。



「さしゅが、いしぇかいだお」(さすが、異世界だよ)



 ゴツい鉢に植わっていたのは、青みがかった葉っぱの、ひまわりっぽい一メートルぐらいの植物だ。

 確かに萎れていて、先端に一つだけ蕾はあるけど、元気がなく俯いてるみたいだ。

 蕾の形は、ひまわりというより、蓮に似ているかもしれない。

 観察をしながら、私は元気になって綺麗に咲いて、と心の中で話しかけながら、ゆっくり植物の葉を撫でて、小さな手で水をすくって根っこの辺りにかける。

 変化なんか起きる訳は無いとわかっていた。

 でも、精一杯願いを込めて、水をかけてから、背伸びしてもう一撫で。

「げんきになっちぇ。きりぇいにゃはにゃしゃかしぇて」(元気になって。綺麗な花咲かせて)

 舌っ足らずなのは、二歳児なので大目に見て欲しい。

 そんな事を考えていた私の目の前で、萎れていた植物が答えるように揺れた気がし──って、え? ええ? えええ!?

 声にならない悲鳴を上げる私の目の前で、萎れていた植物が重そうな蕾を持つ頭をもたげ、ゆらゆらと揺れながら伸びていく。

 まるで、定点カメラで撮影した映像を早回ししているみたいに。

 あっという間に、体長というか背丈は一・五倍、葉っぱも色艶を増している。

 何よりの変化は、私の拳ぐらいだった蕾。

 今の大きさは私の頭ぐらい。

 上向きでてっぺんに鎮座している姿は、やっぱり蓮に似ている。

 しかし、茎はひまわりより少し太めとはいえ、よくあのサイズの蕾を支えているなぁ、と場違いな感想を内心で呟く。

 それが聞こえた訳じゃないだろうけど、絶妙なタイミングで今度は蕾が動き出す。

 外側から一枚ずつ、誰かがめくっているかのように開いていき、美しく蓮に似た大輪の花が、私の見上げた先で咲いた。

 でも、それは普通の花じゃなかった。

 少し離れていてもわかる。

 柔らかな筈の薄桃色の花びらは、宝石みたいにキラキラと硬質な輝きを放っていたから。

 実際、宝石なのかもしれない。

 そりゃ、咲いたら枯れないだろうし、滅多に花を咲かせないだろうな。

 と、呆けていた私は、ハッとして周囲を見渡す。

 よし、真夜中の温室には、人影はない。

 水あげたぐらいでにょきにょき伸びて花咲いたぐらいだし、あとちょっとが足りなかっただけっぽいよね。

 誰も聞いてないのに、内心で言い訳をして──。



 だから、私は関係ない……ハズ。

 部屋帰って寝ます!



 今度こそ完全に現実逃避の宣言をした私は、キラキラと輝く花へ背を向けて、相変わらずの覚束ない足取りで部屋へと帰還し、泥のように眠った。

 次に目覚めた時、目の前には家族プラスコラリーの心配顔が並んでいて、私は寝起きもあって思わず瞬きを繰り返す。

 何かあったんだろうか?

「レティ、具合はどうだい?」

「起きないから心配したのよ?」

 お父様に抱き上げられ、お母様から心配そうに頭を撫でられる。

 そこで、何かあったと思われてるのは私だと悟る。

 けど、夜更かしして起きられなかっただけだと思うので、とても申し訳ない。

 コラリーにいたっては、ハンカチで涙拭いてるし。

 どれだけ起きなかったんだろう、私。

 半日くらいかなぁ。

「レティ、丸一日寝てるなんて、悪い病気なんじゃ」

「揺すっても起きなかったの!」

 ルト兄様とリリ姉様が、揃って両親に訴えてくれてる、って、丸一日?

 寝過ぎた。

 完全に、寝過ぎたね、これは。

 お花、どうなったんだろう。

「おとさま、おはなげんきなった?」

 自分元気アピールを兼ねて、お父様をたしたし叩いて問いかけると、一瞬驚いた顔をしてから、柔らかく笑ってくれる。

「私達の話を聞いてたんだね。大丈夫、ジュエルフラワーはすっかり元気になったよ。預けた人が驚くぐらいに」

「最終的に、陛下に差し上げたのよ」

 あれだけ見事な花だもんね。

 お父様とお母様の言葉に、むふふ、と喜んだのも束の間、

「しかし、葉まで宝石化したジュエルフラワーは、前例がないみたいだね」

 ふと、お父様が洩らした呟きに、私はちょっとだけ嫌な予感がした。




 それから、お父様はたまに変な植物を押しつけられ、私がこっそり元気にする日々が始まった。

 幸いにも、この世界には『緑の手』みたいな能力は存在しなかったようで、植物の活性化で私が疑われる事もなく、うちの温室パネェ的なとこで落ち着いてるようだ。

 あまりの育ちの良さに、正直あの自称神様は、私の『緑の手』の説明を、きちんと聞いてなかったんじゃないかって不安も覚えるけど。

 と言うか、私の説明もわるかったのかなぁ、と悩んだが、自称神様に確認する術もないし、諦めた。

 それにこれ(植物元気にする)ぐらいなら、何事もなく第二の人生を過ごせると、思い始めていた五歳の春。

 前触れもなくお父様の嫌味な上司がやって来て、珍しくお土産をくれた。

 持って来ていたのは、ボロ雑巾の方がマシだろうってぐらいボロボロな、子犬っぽいような気もする灰色の生き物。

 かろうじて息はある、ぐらいに弱ってる。

 嫌みな上司は、

「こんな貴重で神聖な生き物を、せっかくやったのだから、殺したりしたらどうなるかわかるよな?」 って、感じの事を、嫌みのオブラートで包んで言い捨てていった。

「マロウの子のようだね」

 お父様が子犬を抱きながら、そう呟く。

「絶対に死なせる訳にはいきませんなぁ」

 温室とか庭の管理をしてくれてる庭師のおじさんが、難しい顔で応じてるが、私には理解不能だ。

「まろう?」

「そう、マロウだよ。この国の守り神みたいな扱いだから、こんな風に一個人が扱える生き物ではないんだけど」

 守り神という単語で思い出した。

 そう言えば、コラリーが読んでくれた絵本の中に、王様と一緒にこの国を創った大きな狼の話があった。

 魔法に長け、友情に厚く、悪いドラゴンすらも退けた、初代の王様の無二の親友。

 たぶん、漢字で表すとしたら魔狼で、種族名なんだろうね。

 私の頭の中でこう変換されてるだけかもしれないけど。

 それより、このボロボロな子犬が、その魔狼?

「このこ、しんじゃったら、おとうさまのせいになるの?」

「レティ、心配しなくても大丈夫だから、そんな訳はないだろう?」

 屈んで私の頭を優しく撫でながら、お父様はそう言ったけれど、明らかな嘘なのは見え見えだった。




 その夜、そっとベッドを抜け出し、居間へ向かうと両親の言い争う声が……と言うか、主にお母様が怒鳴っていた。

「あのタヌキ! どんな違法ルートを使ったか知りませんが、と言うか、知りたくもないですが、あの魔狼を使って陛下に取り入る気だったのでしょう!」

「やはり、そうだよね。違法ルートだから、元々弱っていたのかもしれないし、医者にも診てもらえないから、私に押しつけて、私が死なせてしまった事にしたいのかな」

「どう考えてもそうですわ! 死んだ頃に密告でもしてくださるのでは?」

 いつもほわほわしている両親が、激昂(片方のみ)している声を、私は聞かなかった事にし、その場を後にする。

 向かう場所は決まっている。

 急遽あの子の部屋になった、小さめの客室だ。

 ずっと使っていなくて、物置と化していたのを魔狼のために片付けたらしい。

 鍵をかけてないのは確認済みなので、忍者気分で部屋へと侵入する。

 月明かりだけが照らす部屋の中には、魔狼の入った大きめの籠だけあり、その前にはご飯用の皿と水の入った皿が並んでいる。

 ちなみに両方共、陶器で出来ているちゃんとした品だ。

 その皿には、手付かずの夕飯があり、水も減っている様子がない。

「こんばんは」

 私の声に反応したのか、魔狼がこちらを見た気がした。

 気のせいかもしれない。

 一つ確実な事は、まだ魔狼は生きているって事。

「おねがい、ひとくちでもいいから、ごはんたべよ?」

 刺激しないよう、一歩ずつゆっくりと歩み寄る。

「うちのごはん、おいしいよ?」

 魔狼は人間の言葉を理解するらしいから、敵意がない事を笑顔で表し、少し離れた場所で足を止める。

 話しかけながらご飯のお皿を押し出すが、返ってきたのは鋭い一睨みだ。

 これは警戒ではなく、明らかな敵意にしか見えない。

「もしかして、なんかどくとかくすりのませたのかな」

 じゃなきゃ、子供とはいえ、かなり強いらしい魔狼が、簡単に捕らえられる訳がないし、大人しくなんかしてないと思う。

「なんにもはいってないよ?」

 口先だけでそう言っても、信じてくれる訳もなく、ただ睨まれる。

 しばらく考えた後、私はお皿の中のご飯を手で鷲掴みする。

 お行儀とか気にしない。

 幸いにも、ご飯は生肉とかではなく、ミルク粥のパンバージョンなご飯だ。

 何が幸いかと言うと──、

「いただきます」

 私が食べるために、だ。

 今にも死にそうなのに敵意の眼差しで睨んでくる、気高い生き物の信頼を少しでも取り戻せるなら、とは思うけど、生肉はちょっと無理だ。

 お腹壊しちゃう。

 ジーッと音が出そうなほど見つめてくる魔狼の視線を感じながら、私は口の中の物をしっかりと咀嚼して飲み込む。

 誤魔化しはないと証明するため、パカッと空っぽになった口内を見せてから、私は笑って見せる。

「ほら、なんともないよ?」

 しばらくしても変化のない私に、魔狼はやっとゆるゆると動き出し、ミルクとパンで満たされた皿へと顔を突っ込む。

 相当お腹が空いていたのか、あっという間にお皿を空にした魔狼は、水も飲み干し、げぷ、と満足げに可愛らしくないげっぷをして、再び籠の中へと戻って丸くなる。

 一連の流れを見守っていた私が、ひっそりと笑っていると、悪かったな、とばかりに遠慮がちな揺れを見せる魔狼の尻尾に気付く。

「はやくげんきになってね。ここには、きみをきずつけるやつはいないから。まんがいち、いたら、わたしがたおしてあげるからね」

 そっとボロボロな毛皮の魔狼の背を撫でるが、嫌がる素振りはない。

 嫌がる気力もない可能性もあるが、少しは信用してくれたのかもしれない。

 何せ私は、どう見ても幼い無力な少女だし?

「はやくげんきになーれ」

 撫で撫でと、触り心地のよろしくない毛皮を一通り撫でて、唄うように囁くと、魔狼は応えるよう小さくわふっと鳴いてくれた。




 ──そう。

 応えるよう鳴いてくれた。

 だからと言って、これは一気に回復し過ぎじゃなかろうか?

「はいいろじゃなくて、あおとぎんのまじったいろなんだね」

 寝惚けた頭では、そんな言葉しか出なかった。

 魔狼がご飯を食べた事に安心してしまい、私は魔狼の入った籠へもたれ掛かるようにして眠ってしまったらしい。

 起きたのは、湿った柔らかいものに頬を撫でられたから。

 それで起きたら、目の前には見違えるようなふわふわ艶々キラキラした魔狼がいて、さっきの発言へ繋がるのだけども。

 私を起こしたのは、魔狼の舌だと思う。

 今もペロペロ舐めてくるし。

「ぐあいはどう?」

 一応聞いてみた。

 ぶんぶんと振られる尻尾が何よりの答えだろう。

 しかし、本当にあのボロ雑巾みたいな子犬かよ、と言いたくなるぐらいの変わり様だ。

 体格は変わってないが、薄汚れていた灰色の毛皮は何処に消えたんだって言いたいぐらい、青みがかった綺麗な銀色は、見惚れてしまいそうで。

 しまいそう、じゃなく実際見惚れていたらしく、私は部屋へと戻り損ね、魔狼の様子を見に来たお父様に捕獲される事になった。




「レティ、一体何があったんだい?」

 私と艶々になった魔狼を交互に見やったお父様は、そう簡潔に問いかけてくる。

 そりゃ、私が何か知ってると思うよね。いくら五歳児でも。

 ま、ここは五歳児の特権を使おうと思う。

「んとね、まろうにごはんたべて、ておねがいしてたの! そしたら、たべてくれて、げんきなったの!」

 必殺、可愛い子ぶってすっとぼける。

 まぁ、実際それぐらいしか──あ、撫でたりもしたけど、関係はないか。

「確かにご飯は食べてくれたようだけど、それだけで……?」

 お父様は明らかに納得の言ってない表情で、私に甘えている魔狼を抱き上げようとし──べしっ、と尻尾で拒否られた。

「だっこ、いや?」

 昨日は拒否する気力がなかったから、大人しく抱かれてただけなのか、と思いつつ、小首を傾げて魔狼を見つめて聞いてみた。

 すぐにペロペロと舐められ、抱っこをねだるように私へ体を擦り寄せてくるが、子供とはいえ、魔狼の大きさは私と変わらない。

 抱っこは物理的に無理だ。

 肉体的チート貰ってれば、出来たかもしれないけど。

 無い物ねだりしても仕方ない。

 ごめんね、と謝りながら、私が魔狼を撫でていると、お父様が何か呟いている。

「何故こんなに回復が早いんだ? いくら魔狼とはいえ、あそこまで弱っていたら、下手すれば死んでいてもおかしくない。それが、どうしてこれほどまで元気に? それに青みがかった毛並みは、始祖に近い魔狼にしか出ないと聞いていたが……」

 お父様の独り言を聞き、魔狼をもふる私の手がギクリと一瞬止まる。

 気付かないようにしていた事実を、思いがけず突きつけられた気がして。


 最初はジュエルフラワー。


 次は色々な珍しい植物。


 そして、この魔狼の子。


 私が手で触れて世話したモノは、明らかに急激な回復または成長をした上に、品質というかランクが上がるのかもしれない。

 それが一番分かりやすく出たっぽいのは、最初のジュエルフラワーだ。

 一口にジュエルフラワーと言っても、その中でランクがあるそうで、お父様が押し付けられたのは中の下ぐらいのジュエルフラワー。

 で、葉っぱまで宝石化したジュエルフラワーをお父様は不思議がっていたけど、専門家によるとあれは高位のジュエルフラワーに起きる現象らしい。

 そう、高位のジュエルフラワー。

 中の下ではあり得ない。

 お父様達の話を盗み聞きした私は、育て方でランクが上がることもあるんだろうと、思っていたんだけど、魔狼の子に起きた変化が私のせいなら……。




 とりあえず、自称神様へ一言だけ。

「緑の手って、こんなんだっけ?」




 私の説明悪かったかな?



『違います! 手が緑じゃなくて、こう、手で触れたり何か世話とか色々したのが、元気になったり、育ちがよくなったり、そう、レベルが上がる感じなんです!』




 思い返して、もしかしたらと思う点に気づいてしまった。




「わたし、しゅごぬけてる」




 自称神様、まさかそのせいでしょうか?


メール投稿してるんですが、スマホは打ち込める文字数多すぎて、1話の切れ目が難しいです。


緑の手は、私のフワッとした解釈なんで、本来の意味は違うかもしれませんのであしからず。


お目汚し失礼しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白かったです。 読ませていただきありがとうございました! 続きがあったら是非読みたいです(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
[一言] 続編みたいです。魔狼とか
[一言] おもしろかったです。是非この先のお話が読みたいです。 嫌味な上司へのざまぁとか、魔狼とのお話とか…。
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