死への憧憬
気になる程ではないと思いますが、多少同性愛的表現を含みますので、苦手な方はご遠慮願います。
ただ痛みがほしいと思った。
細く白い腕に自分の一般的な青年らしい手を宛がった。
指一本一本に細心の注意を払いながら力を込めていく。
骨が軋む音というのはよく分からないが、
男性の喉仏がとても固いもので、砕いたらやっぱり死んでしまうのだろうかと
興味にもならない興味を抱いた。
実際今の僕にそんなことはどうでも良かった。
白いシーツの上に鎖骨に至るほどの長さの黒髪が扇状に広がり、
苦しそうに喘ぐたびに少し揺れて陶酔的な絵に見えた。
とんだマゾヒストだと思うのは、
彼が僕のするサディスティックな行為に反抗するどころか、
むしろ甘やかに受け入れる姿勢を見せていることだ。
死にたいの?
と咽びながら天井に喉仏をさらす彼に呼びかけた。
当然のことながら彼は声を発する部位を万力で締め付けられるような状態にいるために、
「あ」だとか「う」だとか到底人間らしい言葉を発せられなかった。
楽しい?自分が自分に問いかける。
決してこんな茶番に愉悦を覚えるほどにアブノーマルではない。
なら何故こんなことを?知っているならこんなことをしていないだろう。
人間の一番美しい瞬間は苦しみに眉根を寄せて、目尻に涙をためる瞬間だと常々思われる。
一度には表しきれないその感情の複雑さを苦悶の表情で、
波が寄せたり引いたりするように姿を変える。
単調さよりもやはり少しくらいの矛盾や混沌があるから人間は美しいのだ。
僕に首を絞められている彼は実に理想的でならない。
この首を絞め続けたら、最終的に血を吐いたりするのだろうか。
どこかの小説では前身の筋肉が弛緩してあらゆる穴から排泄行為が行われるとか。
彼のそんな姿は見たくないなぁ。
力を込める僕の脳裏でぼんやりと思われて、指を外した。
首にかかる力から解放された彼の白い喉元は苦しそうに上下する。
さっきまで潰そうとされていた喉仏が上下する。
同じように白くて細い指が彼の喉元に巻かれる。
ぜえぜえと呼吸する肩をぐいと押さえつけて、苦しそうに呼吸する口を塞ぐ。
手でしようかと思ったけれど、そんなことをしたら窒息死してしまうだろうと思われたからだ。
人間は矛盾した生き物、ならば首なんて絞めなければ良いのに。
舌のざらりとした感覚や温い温度、絡みつく唾液の粘性。
美しくないなぁ。
何が、美しくないのだろうかもいまいち良く分かっていない。
僕は、彼の生命維持のために繰り返される呼吸をするための口を塞ぐ僕の口を
そっと離して、喉元に喰らい付いた。