真・三國無双3エンパイアーズ 〜荊州の暗雲〜
真・三國無双2の大ヒットでコーエーはユーザーの声に応える形で待望の戦国無双(以下、戦国)をリリース。三國無双でできなかったミリオンヒットをついに達成。商業的には大成功と言えるでしょう。が、この成功は後年、大失敗という評価を下されます。理由は簡単。戦国は100万本も売れるようなゲームとは、到底言えないデキだったからです。
戦国は真・三國無双との差別化を図るためか、新たなシステムが多数導入されていました。が、このシステムが曲者だったのです。代表的なのがミッションシステム。
大雑把に言えば、時間経過やプレイヤーの働きで次々ミッションが発生し、ミッションをクリアすると自軍が有利になる、というもの。これだけ書くとゲーム性を向上させる要素のようですが、逆です。このミッションのせいで自由に戦えるはずのフィールドで自由に戦えなくなるのです。しかもミッションに失敗すると戦後の勲功をもらえません。この勲功はキャラを育てる重要なものです。そのキャラの育成も面倒です。一度、限界値まで育てただけでは武将の能力の上限に達することができず、更に強くしたければ一度能力をリセットし、再びミッションクリアを目指さなければならない仕様だったのです。
しかもゲームバランスも厳しめです。育てたキャラでも後半のステージではいくら敵に打撃を加えても、なかなかダメージを与えられません。そうこうするうちにどんどんミッションに失敗し、結果、ステージクリアしてもなんの成果も得られなかった、なんてことはザラです。キャラを順当に成長させるのは困難で、しかも非常に忙しいゲームだったのです。真・三國無双はキャラは戦えば戦うほど強くなり、限界値まで育てればゲームバランスが崩壊するほど強くなります。まさに無双です。
しかし、戦国では普通にプレイするだけでは成長できず、ザコ兵にも苦戦する、無双でも何でもなかったのです。
この戦国で初めて無双に触れた人は不幸でしょう。こんな難しい、もっと言ってしまえば、つまらない作業ゲーをプレイして、一騎当千の爽快感など味わえもしなかったのですから。
一体、なぜ戦国はこんなことになってしまったのか。理由はいくつか考えられます。
それは三國無双の方で間口を広げ、多くのユーザーを獲得してしまったために、コアなアクションゲーマーまでユーザーに取り込んでしまった功罪でしょう。
やはりというか、真・三國無双2では難易度がヌルい等の注文がいくらかあったようです。
人気ゲームシリーズで避けては通れぬ、難易度のインフレが無双にも牙を剥いたのです。
無双はゲームが苦手な人でも上級者気分が味わえるのが大きな武器でした。恐らく当時、その武器に気付いていた人はそうはいなかったのではないでしょうか。制作側も気付いてなかったのかも知れません。その無双で難易度を上げてしまうとどうなるか。その答えが戦国無双だったのです。
まだあります。三國ではそれこそゲームバランスを崩壊させうる強力な武器があるのに対し、戦国にはそれがありません。最強武器にしても強い武器という程度です。これでは装備してもキャラが育ってなければ苦戦は必至。上級ゲーマーなら対応できるのでしょうが、その上級ゲーマーにも見向きもされないゲームになってしまったのです。
制作サイドもこの間違いに気付いたのか、すぐさま猛将伝をリリースし、成長システムの欠点は解消され、若干ゲーム性は向上しましたが、ミッションシステムはほぼ引き継ぎ、忙しいゲームという欠点は改善されませんでした。
恐らく制作側は三國無双は初心者向け、戦国は上級者向け、という棲み分けを考えていたのではないでしょうか。分からない考えでもありませんが、ユーザーはそんなことは分かりません。これも失敗の要因のひとつでしょう。そして決定的なのが、発売時期という大人の事情です。
企業は決算前に大きな売上げを出す必要があります。したがって、ゲームメーカーは決算前に人気ゲームを市場に投入する必要に迫られます。それはどれだけ作り込みが甘いゲームでも、ほぼ未完成でもリリースせざるを得ない事情があるのです。戦国無双もまた、決算前に発売されたゲームでした。完成度に難があるのも致し方なかったのでしょう。しかし、それで売上げを伸ばしたとしても、長い目で見れば大きなマイナスです。この時のコーエーの判断は正しかったのか否か、それはいずれ歴史が証明することでしょう。