無能力者ギルド-異世界の日常-
やあ、ようこそ『無能力者ギルド、路傍の石」へ。
俺はギルド長のダイクだ。
ギルドへの入団希望なら、まずステータスカードを見せてくれよな。
アイス・キルヒエ君か。
………、うん。
スキルも特殊な能力も持ってないし、魔法も使えない。
隠しスキルとかもないみたいだな。
最後に顔をよく見せてくれ。
……、うん。大丈夫。
きっと君なら、このギルドでうまくやっていけるよ。大丈夫、うんうん。
えっ? どこのギルドでも何も出来なくて弾かれた?
だーいじょうぶ。
俺の勘が言ってるのさ、大丈夫って。
すぐに分かる。
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「今日も夜間の工事現場の警備かな」
僕は依頼ボードから、仕事の紙を取って受付に置いた。
受付の男の子が、クエスト開始の判を淡々と押してくれる。そして、夜間警備の分かりきった説明書を渡された。
最初は、初めてやる仕事でも説明書を見れば出来るから、その画期的なシステムに感動した。
けど慣れたものだ。
……夜からだから、ご飯食べて昼寝しとこう。
僕は別の受付で日替り定食を注文して、空いているテーブルに座る。
……、僕はギルドに入って1ヶ月。
予想以上にギルドに馴染んでいた。
あっ、申し遅れました。
僕はアイス・キルヒエ。
色々あって無能力者ギルド「路傍の石」に流れついた。色々あった事は言いたくない。
ギルド長ダイクさんの入団面接はすごく心に残っている。
ギルドの面接は普通だと、どんなスキルを持っているか特殊能力や特殊職業や魔法能力を見られる。
逆にない事を確認されるなんて珍しかった。
それもそのはず、「路傍の石」は無能力者とされる人が集まるギルドとされていた。
スキル持ちや魔法使いは入れない。
特殊職業の人や身分の高い者も入れない。
けど、その代わりに幅広い年齢層が入れる。
男女で贔屓もない。
無能力者で、ダイクさんの入団面接に通れば誰でも入れる。
そういう評判だった。
「あー、アイス。また夜間警備か。おいしい仕事だよな。夜中に立って見張ってれば、まとまった金貰えるから」
目の前に子供のギルド員であるフレアが座った。
ミルクリゾットをドサっと置いた。
子供には無料で貰えるリゾットだ。
16歳の僕から二つ下の14歳だから貰える。
来年は大人になるから貰えない。
「ま、そんな簡単な仕事というわけでもないけど。あ、ちょっと。これあげるよ」
フレアの皿に、肉を揚げてあるヤツを入れてあげた。
僕は肉が苦手だ。
「サンキュ。へへー、このギルドにアイスが来て得だな」
フレアが嬉しそうに笑った。
フレアは元は貴族だったのだが、何も能力が無かったのであっさり家から追い出されて、このギルドに流れついた。
まとまったお金はギルドに預けてあるのだが、何かあった時の為に節約しているのだ。
本人は堅苦しい貴族から解放されて良かったと言っているが、どうなんだろう。
元は貴族のフレアは、綺麗な赤い髪に赤い瞳の女の子だ。
なので、パーティーの賑やかし要員やイベントの司会とかいう仕事をよくしている。
子供専用依頼ボードは、安全・短時間・金払いがいい。
大人になってから来てしまった僕には実に羨ましい話だった。
+++++
さて、夜間の工事現場の警備だ。
公園が、金持ちの寄付で作られている。
決められた予算があり、決められた遊具や噴水や花壇を作っているみたいだ。
魔法使いも工事に参加してるのに、なかなかでき上がらないみたい。
結局、夜の警備だから、よく細かい事は分からないけど。
「野犬を見かけた他は異常なし、と」
昼の警備の人から引き継いで、チェックボードを受け取った。
チェックボードの備考には、野犬を見たと書かれていた。それ以外は不審者の侵入もないし、イタズラもされていない。
近くに魔法のランプを置いた。
夜中ずっとついていて便利だ。
……夜間の工事現場は特に何もない。
何もないけれど、立って見張っているのは結構神経を使う。
人件費がべらぼうに高いスキル持ちや騎士は、なかなかこういう仕事は回されない。
街の人も夜は休む。
ウチのギルドは、こういう仕事が結構まわってくるのだ。
あ、見回りの時間だ。
ランプを持って見回ると、遊具の向こうに小さい人影が見えた。
こちらに向かってくる……!
僕は護身の為の長い棒を握りしめた。
いざとなれば、戦わないとならない。
工事現場を汚すわけにはいかないから、剣を持てないのが辛い。
「アイス!」
「………っ、何だ。フレアか」
露わになった人影はフレアだった。
ランプの光の中にフレアの笑顔が浮かび上がる。
「何だじゃないだろ。差し入れだ。隣のおばちゃんからクッキーいっぱい貰ったから」
フレアが持ってるバスケットには、ハンカチがかかった大量のクッキーが入っていた。
「ありがとう。けど、夜だし女の子は早く帰りなよ」
この街は治安がいい、と言っても何が起こるかは分からない。
「大丈夫。家はすぐそこだし。まだ道沿いの店は空いてる所あるし」
危ない話だ。フレアは自分が短剣を少し扱えるからと言って、力を過信し過ぎる。
結局は女の子だ。
「だめだ。送ってく」
「仕事中だろ」
「トイレ休憩ぐらいは見てなくてもいいって言われてる」
「ゆるっ、ゆるい仕事だな」
ボリュームを抑えた声で言い合う。
グルル……!
そこに唸り声が聞こえた。
振り返ると、もうすぐ近くにデカイ野犬が迫っていた。
食べ物の匂いに惹かれてきたのか。
僕は、今度こそ棒を構えた。
ワォー……ン。
後を引くような妙な鳴き声をした。
すると、魔法のランプが消えた。
「まさか」
「アイス! こいつただの野犬じゃない!」
厄介な能力を持っている野犬だった。
たまに魔獣との混血で、変な能力を持っている野犬がいる。
多分、魔法やスキル無効の効果がある鳴き声だ。
辺りが真っ暗になった。
「おい、どうすんだ。私、足が震えて!」
僕の背に隠したフレアが震えた声を上げる。
だが、僕はこちらを伺っているような犬の影ははっきりと見えていた。
どんなに真っ暗になっても昔から影だけは見える。
スキルではない。ただ単にちょっと夜目が利くだけだ。
「黙って!」
僕はフレアに大きな声を出すと、デカイ犬と向き合った。
棒を構えて、犬の息遣いをよく聞く。
親から習ったことが思い出される。
『魔力やスキルの気配を見なくても動きは分かる。呼吸や筋肉や仕草をよく感じて。……そう!』
『いい線いってるけど、武器のスキルや魔力も無いんじゃ暗殺者には……惜しいな』
『でもこれだけアタシが仕込んだから、どこへ行ってもやっていけるだろう』
『さよなら、さすがにお前にも力がないと暗殺稼業じゃ守りきれない。ごめんな』
こちらの力を無効化して、油断してるのだろう。
犬が一直線に口を開けて飛び込んでくる!
ギャウン!
口の中に向かって棒を貫いた。
急所を上手くついたのか、一瞬で犬の呼吸が消えた。
汗でビショビショになった棒から手を離した。
勝てた。
犬にだけど。魔獣との混血っぽい犬にだけど。
そして、フレアも守れた。
+++++
「アイスって、結構強かったんだよな。マジであん時犬が一撃だったもんな」
フレアがギルドのテーブルで頬杖をつく。
僕をまじまじと見つめてきた。
……野犬の騒動から少し経った。
いまだにフレアは野犬の事を話題にする。
あの野犬は、結局死体を調べたら魔獣とのハーフだったらしい。
魔力が中途半端だったから街の結界をすり抜けたのだろう、との事だった。
依頼主からは特別手当を貰い、犬には小さい魔石が入っていたくらいの中途半端さだった。
「犬の事でいつまでもどうしたのさ」
実際、犬に勝ったくらいどうということはなかった。
「いや、私はなんもできなかったから。本当にサンキュな。お礼に大人になったらアイスの嫁になってやるよ」
真顔でフレアが言う。
僕は飲んでいたミント水を吹き出した。
「うわっ、アイス。きったねぇー!」
「いきなり何を」
近くにあった台拭きでテーブルを拭く。
いや、フレアはかわいいけど、まだ子供だし。
後、僕も不安定な冒険者稼業だし。
いや、フレアが大人だと十分に考えたい案件というわけでは。
うーん、何か安定した職業に。
いやいや。
「アイス」
一生懸命拭いているテーブルに影がさした。
「ダイクさん」
振り返ると、ニヤニヤしているギルド長ダイクさんだった。
「な、上手くいっただろう。スキルじゃない。俺の勘は絶対当たるんだ」
お読みくださりありがとうございます。よろしかったら、評価や感想頂けますと大変嬉しいです。今度こそほのぼの日常を書いたつもりです。




