プロローグ〜前の旅の終わり
思いがけず辛い旅になった。それでも、また明日が来る。
二人の少年が、長い旅を終えて翼族の都に戻ってきたのは、夜明け前のことだった。幽かに白み始めた空を、二人は黙々と飛び続けた。
眼下に広がるのは、円柱形の岩山が、地面から隆起した柱のように立ち並ぶ大地だ。
前方に、城を戴く一際巨大な岩山があり、それを囲むようにそれぞれに荘厳な建物を冠した六座の岩山が並んでいる。二人はそこを目指していた。
上空にはまだ月が浮かんでいた。藍色の空の下、懸崖の頂に立つ建築群は、天空に浮かぶ都市のように神々しかった。
二人は、無言で飛び続け、やがて、その天空の都市の上空にたどり着いた。
先に頂の一つに飛び降りた少年は、やつれた姿をしている。もう一人の少年も続いて着地し、静かに背の翼を畳んだ。
どちらも何も言わなかった。動きもしなかった。
長い沈黙の後で、やつれた姿の少年が口を開いた。
「もう行け」
低いとも高いともつかない、掠れた声だった。
「長い間、付き合わせたな」
もう一人は、否定とも肯定ともつかないように軽く首を横に振った。そして懐から、淡紅色の薄い石盤を引っ張り出した。
手のひら程の大きさのその石盤には、やけに精密な、描かれたような模様が浮かび上がっている。砂漠に佇む廃墟の風景だ。
少年は石盤を差し出しながら、「これは?」と言った。独特に響く美しい声だった。
やつれた姿の少年は、じっとその石盤を見つめた。それから、掠れ声で答えた。
「……あの方に送る。形見の代わりに」
「形見?」
「今晩限りで俺は死ぬ」
美しい声の少年は、途端に非難がましい目になって、差し出した石盤を引っ込めた。何かを言いかけて口を開くが、それを制して、もう一人が言った。
「生まれかわるんだ」
そして、やつれた姿には不似合いなほどの素早さと力強さで、石盤を奪い取った。
「その為に死ぬんだ。死んでいく俺を、あの方に託して何が悪い」
そう言い切る少年の目が、強く激しい光を湛えた。
「……これから、お前が会う俺は、俺じゃない。そう思え」
そう言うと、不意に相手の手を掴んで引き寄せた。耳元で何かを囁き、一瞬強く身体を抱いた。それから、すぐに突き放した。
「……もう行け」
低く穏やかな声だった。
行け、と言われた少年は、黙ったまま相手の目をじっと見つめていた。が、暫くしてから、音も立てずに踵を返し、そのまま翼を広げて切り立った崖から飛び下りた。
残された少年は、その飛び姿が見えなくなるまで眺めていた。
やがて日が昇り、少年の手に握られた淡紅色の石盤が、朝日を受けてゆらりと柔らかく光った。光に気付くと、少年はすっと石盤を懐にしまい、朝日に背を向けて、まだ暗い建物の中へと入っていった。
廃都の景色が描かれた石盤が、最初に翼族の国にもたらされた時の出来事だ。
それから四半世紀近い時が流れた。