andante ハロウィン
自転車の二人乗り(しかも後ろは立ち乗り)の描写がありますが現在交通法違反です。
創作物であり違反を推進するものではありません。
「ひゃー、寒くなってきたねーっ」
風をきってはしるからか、自転車に乗っていると酷く寒い。
「そう思うんなら喋んな、馬鹿」
前を見たままひたすら漕いでくれる君。返してくれるのは良いんだけど。
「冷たいなー、冷たいなー」
「ちょっ、揺らすな、耳近くで喋んな、体重かけ過ぎんなっ」
流石に共倒れは嫌なのでバランス悪くなるようなことは抑えよう。
「つまらないよ、話さずに帰るなんて」
「じゃあ寒いとか言うな。聞いている俺まで寒い気がしてくる」
「ならあたし、気持ちの代弁者だ」
「…」
「また変なこと言い出したって思っているでしょう」
「よく分かっているな」
お店が立ち並ぶ横を自転車に乗って横切る。ショーウィンドーの中はすっかり冬仕様。ぼんやりと眺めていたあたしは、次の言葉で同じ様に見ていたことに気付いたように。
「冬仕様だな。今日って何月何日だよ」
「10月31日だよ」
「何の日か分かるか?」
「ハロウィンでしょ、それ位知っているよ」
いつものやり取りと逆で可笑しくて笑っちゃう。でも今度は一瞬返事を忘れた。
「Trick or treat」
「…」
「聞こえなかったのか?じゃあ遠慮なく悪戯を」
「聞こえてるよっ」
そうだ、君は結構好きなんだっけ。赤信号で自転車を止めた君はあたしを見上げてくる。
「無いのかよ、菓子」
拗ねたような顔。そんな甘い物好きには見えないんだけど。
「Happy Halloween」
「うをわっ」
咄嗟にポケットに手を入れ握れた分だけ上から降らせてみた。
「あ、しまった」
「いてっ、今度は何だよっ」
コツンと1個彼の鼻に当たる。
「道路に落ちること考えていなかった」
あたしの言葉に釣られるように視線を向けた君の足元、色とりどりの包装紙に包まれた飴、チョコ、キャラメル、グミが。かろうじて籠の中に入っているのもあるけれど。
「お、怒ってる怒ってる」
「当たり前だろっ。片付けるからお前も降りろっ」
赤信号、青になっても渡れぬ2人。あ、一句出来た。そんなこと考えながらしぶしぶ拾うのを手伝う。中々周囲の視線が痛い。でも…。
「…サンキュ」
そう言った君の顔、明かりに照らされ見えたから、思わずあたしも微笑んで、周囲の視線を忘れたよ。




